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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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「おお、ここがジードの泊まってる宿……! 下見してた外よりも中は綺麗なのね」


「待て、下見ってどういうことだ」


 シーラが不穏当な言葉を漏らしていた。


 だが、あははーと笑いながら流して応えようとはしていない。これからは常に空間把握の魔法を使っていかないといけないのか……。


 部屋はシングルベッドが一つに、クローゼットが一つ、風呂場と便所が一つ、あとは椅子とテーブルが一つ。


 それらが手狭に置かれているのが宿泊している部屋だ。


「ねぇねぇ、ジードも家を買わないの?」


「あんたも家を買わずに私のとこに泊まってるだけだけどね」


 シーラの問いにクエナが突っ込む。


 こいつら一緒に住んでいるのか。


「家か。買おうとは思っていたけど、家事とか税金手続きとかが面倒なんだよな」


 宿は勝手に掃除してくれるし、食事も手配できる。なんだったら外に行けば露店やら食事処がある。


 さらに冒険者は国に税金を納めなくていい。


 なにかを売買する時やギルドの仲介費以外にも税として取られる部分はあるが、宿に泊まり冒険者という身分であれば面倒な手続きも必要ない。


「なら私を生涯雇用すればいいのに。税金の管理だって学んできたわよ?」


「隙あらばアピールするの止めなさい。ジードも隙を作らないの」


「え、俺が悪いの?」


「そんなこと言って。クエナもジードにアピールしたいんでしょ~?」


「な、なに適当なこと言ってるのっ! ええいっ、手をわきわきするのやめなさい!」


「ぬふふー、クエナの感触が病みつきなってしまったシーラちゃんは止められないわよっ!」


 そんな会話をしながら二人が絡み始めた。


 作戦会議とやらはどこへ行ったのだろうか。


 でも、和気藹々とした様子を見ていると思う。


 カリスマパーティーのビジネス的な関係よりも、こちらの方がどこか『パーティー』って感じがする。


 まぁ、それはあくまでも俺の感性の話だ。


「――むむ。ジードが別の女性を考えている気がする」


 シーラが的確に言い当てる。


 一瞬だけ思考を読み取られる魔法でも使われたのかとすら思った。


「そんなことより作戦会議の話をするぞ」


「なにをぅ! 私からしたらそんなことじゃないもん!」


「なにしに来たんだよ……」


 シーラがむくっと頬を膨らませながら迫ってくる。


 珍しくクエナも諫めない。単純にシーラとの絡み合いに疲れた様子でもあり、どこか聞き入っている様子でもあった。


「ジードって女っ気ないの?」


 ふと、シーラが尋ねてくる。


 女っ気というのはつまり恋人関係的なことだろう。


「そんなのいるわけないだろ」


「うっそだー! 絶対いるでしょ! こうしている間にもジードと関係を持った人が扉をノックして会いに――」




 こんこん




 シーラの言葉と部屋の扉が叩かれたのは同時だった。


 ありえないレベルの偶然だ。


 部屋にいる誰もが息を呑んだ。


 シーラが額に汗を浮かべている。


「いや、え、冗談だったんだけど」


「……待て。俺に客人なんているわけがないだろ。宿のおばちゃんだよ、きっと掃除に来てくれたんだ」


 なぜか変な空気になってしまったが、掃除に来ることはよくある。


 床の雑巾がけやベッドのシーツを変えてくれるのだ。


 人がいないか確認するためにノックは当たり前だろう。


 いつもの『部屋の掃除に来たよー!』という元気な掛け声がないのは喉でも傷めているのだろう。


 きっとそうだ。


 そう思いながら扉を開ける。


 黒髪のおかっぱ美少女――ユイがいた。


「……」


「……」


 俺は声をかけられず、ユイも相変わらずの無口のまま立ち竦んでいた。


「パーティーになって数日も経ってないのに……もう手を出したの!?」


 そんなシーラの憚らない大声が場を占めた。


「入る」


 ユイが端的に言う。部屋に入ってベッドの上に座った。


 その隣でガン睨みしているシーラと、椅子に座っているクエナ。


 俺はそんな全体を見ながら壁に寄りかかっていた。


 重苦しい空気の中でシーラが開口一番に言った。


「正妻は私よ」


「待て、なんの話してんだおまえ」


 いきなり惚けた会話が聞こえた。


 シーラもあのフィル並みに暴走を始めているのではないだろうか。


 騎士ってやべえ連中の集まりなのか?


 ユイが興味なさげに横目でシーラを見た。


「……で?」


「むきー! その余裕が腹立つわ! 私なんてジードにおっぱい揉まれたのよ!?」


「待て、おまえが触れさせたんだろ」


 いつの間にか記憶が改ざんされている。


 ユイにマウントを取るためとはいえ、さすがに俺が加害者的に扱われるのは心外だ。


「……私もジードの身体と接触した」


 そんな俺の心境を煽るかのようにユイが言った。


 もうだめだ。


 言論の紆余曲折がひどすぎる。


「は、はぁぁぁ!? ジード! 女っ気ないと思ってたのに私はお遊びだったの!?」


「俺は無実だ……」


 もはや気力も残らない。


 一か月間フルで働いていた時よりも疲れている気がする……。


「それで、あなたはなにしに来たの」


 クエナがユイに尋ねた。


 敵意を感じるオーラを醸し出している。


「ジードとダンジョンの続き」


 シーラが目を見開く。


 一人の男の部屋に来て、この言葉。


 簡潔な言葉だが誤解を招くには十分すぎる材料だろう。


 いや、誤解もクソもないのだが……。俺からしてみれば誤解であり、俺は被害者だ……。


 クエナが続いて聞いた。


「続きって言うのは? なにをしに来たの?」


「ん」


 ユイが俺に向かって手を大きく広げる。


 来て、と言わんばかりに。


 その仕草でシーラとクエナが察する。クエナが俺とユイの間に入った。


 シーラが自分よりも早く反応したクエナを意外そうに見た。


「なに」


「……それはこちらのセリフよ。それはジードが望んでることなの?」


 クエナがユイを睨みながら言う。


 おお、シーラなら誤解して喚きたてるところだが、さすがはクエナだ。ユイが一方的に誘惑しようとしていると一発で悟っている。


「それは私が言うことじゃない」


「……っ。そうね。ジードはどうなの?」


 クエナが俺を見る。


 その眼はどこか不安なものだ。おそらく、ユイが目の前で欲しいものを掻っ攫っていったからだろう。帝国に認められ、Sランクにもなった、そんな女性を。


 今度は俺というパーティーメンバーさえも――と不安になっているのだ。


 だが、ここで優しい言葉をかけるほど俺も優しい男ではない。


「そりゃ誰だって美少女に迫られたら嬉しいだろ。望むことが罪なら俺は終身刑で一向にかまわない」


 これが俺の素直な言葉だ。


「なら私じゃダメなの……?」


 クエナが気恥ずかしそうに顔を火照らせながら、とろんっと瞳を濡らす。


 情欲を掻き立てる身体つきの美女……ダメなわけがない。


 しかし、ここは違う。


「クエナは百点満点を越して一億点だ。けど、おまえは目的を見失ってないか? ルイナを見返すのがおまえの目的なはずだ」


「でも、私は――!」


「今日はむりそう。また日を改める」


 ユイがクエナの言葉を被せてベッドから立ち上がった。


 あくまでもマイペースだった。


 だが、部屋を出る前にクエナとシーラを一瞥して、


「あなた達にジードを拘束する権利はない」


 そう残した。


 重い雰囲気を醸し出す一言だった。


 かに思えた。


「あいつムカつく! ちょっと先にSランクになったからって調子に乗ってるわ……! ジード、クエナ! 特訓いくわよ! 作戦会議の結果・特訓!」


 シーラが向かっ腹を立てた様子で、そう言った。


 特訓って。安直だな。


 しかも、ようやく会議の議論が出たと思えば結論として終わってるし……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くてどんどん読み進めます!! ジード様Love★ [気になる点] シーラが…受け付けれなく… クエナは好きなんですがシーラは苦手です ユイも苦手になりそうな予感がします…
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