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最大級とは

 木が一本も見えない大草原。眼前には落とし穴のような優しくない直下の巨大な穴が覗いている。


 周囲では突然現れた俺らを武装した人々が囲んでいた。


 三十名ほどはいるだろう。いずれも実力者と見て取れる。


「うむ、みんな集まっておるな」


 リフが辺りを見回して頷く。


 武装した人々はリフが依頼したという冒険者か傭兵なのだろう。


 中には見たことのあるやつもいた。


「おお、あんちゃん久しぶりだな」


 体毛が濃いおっさん。


 クゼーラ王国の騎士団を打倒するために雇ったディッジだ。


 かなり久しぶりだが、たしかウェイラ帝国をメインで働いているAランクの冒険者のはず。


「元気してたか。あの時は助かったよ」


「いやいや、俺たちの助けなんていらなかっただろうに。そんな世辞はいいよ、Sランク様の話題はウェイラ帝国でも噂になってるぜ! がはははっ」


「噂って言っても悪いものだろ。もう何度も聞いてるよ」


 かなり悪目立ちをした自覚はある。


 そのため悪評も広まっている。そういう話を耳にした。


「まぁ、多少は変な噂も流れてるみたいだが気にすることはねぇよ。帝国の軍部が結構バカにしてるって話だが、あそこの気質みたいなもんだ。自信家なやつらが多いからな」


 気前よくディッジが笑い飛ばす。


 そんな会話の最中でリフがパンパンっと手を叩いて全員の視線を集中させる。


「それでは攻略の概要について話す――」


 攻略は至って簡単だった。


 ダンジョンの最深部にある「自壊を起こすマジックアイテム」の確保だ。


 放逐された魔物達によって行く手を阻まれているが、万が一に備えてそういったマジックアイテムがあるとのこと。


 しかし、全容を把握しておらず、記された地図も確認されていない。そのため手探りでマッピングを行うことになる。


 すでに幾つもの調査隊によって中継点場所の確認はしてあり、あとは実力が必要な場所を突破していくだけ、と。


 すこし気になって問う。


「探知魔法と転移は使っちゃダメなのか?」


「ダメではないが、阻害する魔法陣が組み込まれておる」


 へぇ。よく考えられている。


 試しに探知魔法を展開してみる。


――リフの言うとおり波打つ水面のように、一定の場所に魔力を送ると跳ね返されている。


 たしかにこれでは進みようがない。


 が。


 ふと脳裏に過る。




 これ無理やり魔力で押し通したらどうなるんだろう?




 試しに魔法陣から跳ね返されている分以上の魔力を何度も送り返す。ただ魔法陣同士が呼応し合って上手くいかない。


 もっと調整していこう。送った魔力分も含めて水面同士のぶつかり合いを誘発させて……隙間から通していく。


 ……ピシッ


 そんな音が響いたような気がした。


「あ」


 思わず口を開く。


 リフが怪訝そうな顔を浮かべる。


「どうした?」


「いや、通った」


「なにがじゃ?」


「探知魔法が通った」


「は?」


『なに言ってんのこいつ?』そんな表情だ。


 周囲も状況を把握しかねている様子で訝し気に俺の方を見ている。


「阻害している魔法陣なんとかして壊せないかなって思ってさ、魔力を大量にぶつけたら押し通せた」


「へぁ!? 魔法陣の場所を把握できておるのか⁉」


「ある程度なら。波紋が干渉して分かりづらいけど魔力を展開し続けていれば絞り込める」


「絞り込む……? 遠隔でそんな……マジックアイテムや魔法陣じゃないのじゃぞ……!?」


 鬼気迫る様子でリフが言ってくる。


 しばし唖然とした様子でリフがポケーとしているが、我に返って俺の目を見た。


「それで魔力を行使し続けられるのか⁉ どれくらいまで進める!」


「必要分の魔力を送り込んで魔法陣を破壊した。魔力は十分な量みたいだから追加することなく送り込んでる。消費してないからな。今も魔法陣を壊しながら進んでるよ」


 どれくらいの大きさがあるのかは分からない。


 しかし、もう軽く一つの森林を埋め尽くせるほどまで進んでいる。コツを掴めば壊しやすい。


 しかし、こうしてみるとかなり大きい。


 蠢いている魔物は上位のものばかりで見知らぬ魔力気配すらあった。


 こんなのが外に出て暴れたら、たしかに面倒そうだ。


「「「……!」」」


 探知魔法で考え込んでいると、押し黙っている周囲に気づく。


 とりあえずリフに尋ねる。。


「ある程度でいいから、どれくらいの大きさかわからないか?」


「……今、どれくらいまでわかっておる?」


「えーと。今さっき十三の分岐路がある場所を通った。うち八つは行き止まりみたいだが」


「そんなとこまで誰も進めておらんわ! 全容なんてものも把握できておらん……もうお主に任せる。最終地まで辿り着いたら教えてくれ……!」


 半ばやけくそ気味にリフが言う。


 まぁ、あとは魔力を通していくだけの待ち時間というわけだ。




 それからしばらく。


 ようやく一番最後の行き止まりに辿り着いた。


 大きな空間だ。


 まるで祭壇のような場所で、中心部に壇上があり、丸いものが置かれている。おそらく水晶だろう。


 その水晶はダンジョンの随所と魔力で繋がっているマジックアイテムだ。


「多分ここだな、ちょっくら転移で行ってくる」


「い、行けるのか⁉」


「ああ、すぐ戻ってくる」


 転移、と言おうとして裾が握られる。


 見てみるとユイが握っていた。


「私も行く」


「すぐ行って戻ってくるだけだぞ?」


「万が一」


 押し切るようにユイが言う。


 あまりにも不自然ではあるが、ここで無駄に敵対する意味もないはずだ。


「な、なななな、なら私も!」


「ソリア様が行かれるのであれば、私も同行いたします」


 ソリアとフィルも付いてくる意思のようだ。


 しかし、ユイはそんな二人に無感情の目を向ける。


「いらない」


「なっ。貴様っ、ソリア様に対して『いらない』と言ったか!?」


「魔力の無駄な浪費。それに万が一、ジードと私が外に出れなくなったら?」


 迎えに来るのは貴女達、と言わんばかり。


「……ちっ。だとしても言葉選びというものがあるだろう」


「ま、まぁまぁ。私は気にしていませんから」


 一触即発。フィルは剣を抜きかけている。なかなか危うい。


 パーティーとはこんなものなのだろうか。他を知らないためなんとも言えない。


 クエナやシーラ、スフィとはパーティーを組んでいるが、まだ一度も依頼を行っていない。それでも普段から決して剣呑な雰囲気になったりはしないのだが。


「それじゃ、行ってくるぞ。転移」


 ユイを連れて探り当てた空間に飛ぶ。



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