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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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そして二つ目の

 リフとの話し合いが終わって、俺は露店に寄っていた。


「串肉……えーと、十本」


「あいよ。金貨十枚ね」


「はい、銅貨十枚」


 露店のおっちゃんの軽い冗談を流して銅貨を渡す。代わりに串肉が十本入った麻布を貰う。


 しかし、これは俺が食べるため用ではない。


 今、王都に依頼を終えて帰ってきているという二人に持っていくものだ。


 当の二人がいるという家の前に行く。


 随分と仲が良くなったようで今ではどちらか片方の家に遊びに行ったりしているらしい。


 その家は一等地の場所に建てられている。


 敷地自体は大きくないが木々が生やされている庭があり、一人暮らしをするには不必要そうな二階建て。


 持ち主の髪色と同じ赤い屋根の豪邸だ。


 玄関をノックすると開かれた。


「あれ、ジード」


 クエナが顔を覗かせる。


 奥にはパンを咥えたシーラが廊下を歩いていた。


「おおっ、ジード!」


 シーラが俺の顔を見るや否やパンを咥えながら向かってくる。


 どちらも元気そうにやっているようだ。


「ほい、これ受け取って」


 さきほど露店で買った串肉を手渡す。


 シーラが受け取った。


「え、なになに? プロポーズなら指輪を送るもんだよ?」


「なにを言ってるんだ、おまえは。この前フィルがおまえらに喧嘩を売ってしまったろ。それの詫びだよ。俺が巻き込んでしまってたみたいだ。すまん」


 シーラの言葉を躱す。


 手渡した串肉を見てクエナが苦笑いを浮かべていた。


「あんた、それで串肉って。こういう時はもっと高価なものを送るのよ」


「……そうなのか? 謝罪するときは手土産がいるとだけ聞いてたからさ。すまん」


「まぁ境遇を考えると仕方ないとは思うわよ」


 クエナはそう言いながら満更でもなさそうに串肉を頬張っている。


 あ、そう言いつつも食べるんだ。


 シーラも一本取りだして口にした。


「これ美味しいわねぇ。いやぁ、最近はずっと手料理ばっかりだったから露店とか食堂とか使わないのよね。私かなり手料理しちゃうタイプだから」


 チラチラっと、シーラがこちらを見ながらやたらと「手料理」というフレーズを強調してくる。


「手料理っていっても狩った魔物丸焼きにするだけでしょ」


「あ、そういうこと言っちゃうんだ! 香辛料とか調味料和えてるの見てないんだー!」


 クエナの告げ口? にシーラが頬を膨らませている。


 こいつら仲良しだな。


「いやまぁ美味しいのは認めるわよ」


「えへへー。ジードもどう? 家や旅の野宿で料理を作る人がいると温まるわよ!?」


 シーラがグイっと顔を近づけてくる。


「露骨なアピールね……」


 クエナが頭を押さえながら言う。


 その言葉の真意を掴めずに尋ねる。


「アピール?」


「パーティーに入りたいってことよ」


「ああ。そういえば、カリスマパーティーの人員埋まるっぽいぞ」


 さきほどリフから聞いた話を伝える。


 それに二人が驚いた様子を見せた。


 とくにシーラは前のめりになっている。


「聞いてないんだけどっ!?」


「そりゃさっきメンバー候補見せられたくらいだからな。今度、顔合わせするみたいだ。二人は知った顔だけどな」


「知った顔? そういえば、メンバーってだれよ。Aランクの私を差し置いて……」


「ああ。例の暴走剣聖ことフィルと、俺も良く知らんが元々Sランクだったユイってやつだ」


「……ッ!?」


 名前を聞いた途端、クエナが目を見開いた。


 唇と掌に力が籠っている。


「どちらもギルドに戻って来た、入ってきたって話題になっている人達ねー。色々と囁かれてるけどカリスマパーティーに入るからだとは。まぁ妥当なところかしら」


 シーラは合点したようだ。クエナほど驚いている様子ではなかった。


「おまえは驚かないんだな。クエナは結構驚ているみたいだが」


「よくよく考えるとカリスマパーティーよりもジードパーティー志望だから」


「そ、そうか」


 ストレートな気持ちに嬉しさを感じつつも照れ臭くなる。


「どう? 家事全般できるし戦闘だってこなせちゃう有能メンバーを迎えちゃうのは?」


「いや、すごい助かるんだろうけど依頼にもペースってものがあってな」


「エッチなお世話だってするわよっ」


 シーラが豊かな胸を寄せる。


 明らかに平均を遥かに超えた大きさが性的に形を変えていた。


「くっ……! 誘惑がすごい……っ!」


 そのポージングだけでシーラの魅力に拍車をかけていた。


 今まで禁欲的な生活を続けていた俺の目には幸福すぎて毒にすらなっている。


「あと一歩のようねっ。なら――」


 シーラが近づいてトドメを刺してこようとする。


 だが、その前に押し黙っていたクエナが口を開いた


「……ねぇ、ユイって帝国に引き抜かれた……あのユイ?」


「俺からしたら見知ったユイってやつは一人しかいないが、まぁそのユイだな」


「いえ、そうよね。ギルドに戻ってきたのは、あのユイだもんね」


 わざわざフィルを省いての問いだ。


 パーティーの件ではなく、ユイに関わっている帝国の――ひいては姉に対するモヤモヤでもあるのだろう。


 とくにユイってやつはSランクになって帝国に引き抜かれている。


 つまり、ユイはクエナにとって――


「ユイは私にとっての憧れだった。あんたと同じで」


「ああ、そうだよな」


 俺は気を許されているようだ。包み隠さない吐露をしてくれた。


 こっちのほうが楽で分かりやすい。


「そんな子が次はカリスマパーティーに……あなたの隣に立つなんてね」


「……」


 クエナの顔が暗い。どんよりとしている。


 なんだろう。このままだとマズい気がした。


 クエナは俺にとって大事な人だ。


 世話になったから。


 話しやすいから。


 騎士団を抜けてすぐに打ち解けられた人だから。


 だから自然と、突っかかることなく喉から言葉が出る。


「もし、カリスマパーティーを優先してもいいのなら俺とパーティーを結成しないか?」


 それが解決策になるわけじゃないかもしれない。


 だが、一時的でいい。


 クエナの安定剤にでもなってくれれば、そう思っての言葉だった。


「えっ!?」


「いいの!? クエナと私が入ってもっ!!」


 クエナとシーラが突然の申し出に驚愕する。


 シーラに関してはなにも言ってなかったのだが、二人はパーティーを組んでいるようだし当然の流れなのか。


 あ、


「いや、なんかタイミング的にシーラの誘惑に負けたみたいだけど違うからな。おまえら二人は強いし、俺の足りない常識や情報を持っている。なんとか取り繕ってるが、さっきの手土産みたいにボロが出てしまうから……」


「私は全然エッチなお世話をしても構わないわよ! ね、クエナっ」


「ほぁっ!? ちょ、あんたどこ触ってんの! 私は……っ!」


 シーラがクエナの胸も寄せる。


 クエナも負けず劣らず良いおっぱいをしている……!


 やばい。


 俺このパーティー結成すると頭おかしくなるんじゃないだろうか。


「でも、パーティーならもう一人欲しいわね。できれば治癒を担当する人!」


 シーラがクエナの豊かな果実の形をむにむにと変えながら言う。


「治癒って別に私達だけでも……んっ……そろそろ触るのやめ……っ!」


 いつも勝気なクエナが弱々しく声を漏らす。


「なに言ってるの! ここまで来たら打倒カリスマパーティーでしょ!」


「俺も一応カリスマパーティーなんだがな」


「ジードは別! 他の三人とうちの三人でやるの!」


 妙に息巻いているシーラ。


 彼女なりにクエナのことを思っての言動のようだ。


 たしかに、もしもカリスマパーティーに勝てばクエナの自信にも繋がる。ルイナだって、クエナのことを無視できなくなるだろう。


「ジードさん! ようやく見つけました……!」


 ふと、後ろから声が届く。


 振り返る。ここは一等地なだけあり人通りは皆無で、すぐに声の主には気づけた。


「スフィだったか。どうしたんだ?」


 真・アステア教の主導者的な存在がそこにいた。


 手には布に包まれた棒がある。


 なんとなく用事は察せられた。


「聖剣を受け取ってください! これはジードさんが手にするべきものなんです!」


 と。予想に反しない言葉が向けられた。


「聖剣! 届ける! ――まさかあなた治癒魔法を使えたりしない!?」


 俺が答えるよりも先に、シーラがそんなことを言った。


 なぜどうしてそうなったのか。昔、聞いた話で聖剣を勇者に届ける聖女の話を思い出した。それと連想したのだろう。


 ……おいおい。 


「ちょ、ちょっとだけなら……?」


 戸惑いながら、スフィがそう答えた。


 クエナの安定剤になれば、そう願って半ば気軽に提案したパーティーだったのだが、どんどんと予想外のほうに進んでいく。


 なにやらスフィを勧誘でもしているのか手をぶんぶんと振り回して交渉が成功した様子で、シーラが空高く指をさして宣言する。


「――いざ、打倒カリスマパーティー!」


 シーラのそんな高らかな言葉が響く。


「い、いや、私は本当に時間ないですよ!?」


 スフィがなんだか腰を引き気味に言っている。


 かなり無理やりな勢いで勧誘したらしい。


「私も別にそこまでは求めてないわよ」


「なにを~……!」


「ちょ、手をわきわきさせないでよ!」


 シーラの目が怪しく輝く。


 クエナが危機感を抱いて胸を守る。


「人がいないとは言え往来だから程々にな」


「人がいたらやらないわよっ。ところでジードもいかが⁉」


 シーラが言う。反射的にクエナがキッと俺を睨む。


 思わず目を背けた。


「……その絡み方はできない」


「えぇー。張りが良くて触り心地最高なのに勿体ないぞー」


「――そろそろ止めなさい!」


 クエナがシーラの頭をどつく。


 頭にたんこぶができたシーラが目元を潤わせながら両手で頭上を抑える。


「そ、そこまでする!?」


「それはこっちのセリフよ!」


「あのー、それでジードさん、この聖剣をどうか……!」


「いや、もらっても別に剣とか使わないし、聖剣ってどう見ても面倒な予感しかしないからいらないんだが」


 



 仰々しい煽り文句を付けられたり、二つのパーティーを掛け持ちしたり、いろいろと忙しくなってきた。


 それでもこの忙しさは嫌いじゃなかった。


 騎士団にいた頃とは違って、むしろ好意的に受け取れる忙しさだ――

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原作書籍版と漫画版が発売されております。
書籍版、漫画版も是非よろしくお願いします
― 新着の感想 ―
[一言] シーラがどんどんポンコツになっていく……www
[気になる点] 最初の方の串焼きの値段が「金貨10枚」になってるのが少し気になりました...ww
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