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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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許諾

「どうする? まだ見ててほしいか? こっちの魔族は虫の息で暇になりそうなんだが」


 言ってジードが視界を周囲に逸らす。


 釣られてフィルが見やると、壁はほとんどが崩れており、そこらかしこに魔族が倒れていた。


 当然、巻き込まれた人も少なくはない。


 だがそこには真・アステア教の信者達やスフィ、そしてソリアが救助活動に当たっている。


 ジードが介入したことにより、むしろ最小の犠牲だった。


 それを見てフィルが驚愕に顔を染める。


 しかし、すぐに気を取り直して顔を左右に振る。


「……! おまえは……手を出すな!」


 フィルの声に力が入る。


 それはどこか意地のようなものだ。


 だが、すでにボロボロで気迫の欠片もない。


『フィル様がやられた! ザイさま……いや、裏切り者のザイ・フォンデを抑えろ!』


 ジードが倒した魔族の分だけ空いた兵力がユセフに向けられる。


 すこしの時間ができたと、ジードがフィルに聞く。


「どうしてそこまで邪険にしてくるんだよ。ソリアのこと好きすぎて目が曇っちゃいないか?」


「……っ。それでも、私はソリア様に恩を返すんだ……!」


「恩?」


「……幼い頃、私の生まれ育った村が焼かれた。けど私はソリア様に救われた。それからはずっとあの方の傍にいたんだ。あの方の光を絶やさないために力をつけながら……! なのにおまえはソリア様からずっと……!」


 そんな背景をあっさりと語られてジードが口を一文字にする。


「ようは嫉妬だろ? あいつの傍に自分がずっと居たいっていう。だからっておまえが死んだら意味がないだろうに」


「おまえのことは……ずっとソリア様から話を聞いていた」


「俺のことを?」


 意外そうにジードが少しだけ目を見開いた。


 フィルが今も救助活動に励んでいるソリアの姿をチラリと一瞥する。


「……おまえは光だと。だからソリア様は日の目に当たるところにジードを推薦したんだ」


 悔しそうにフィルが歯を食いしばる。


 ソリアの光の根源が共にある自分ではなく、ジードにあることを認めているようで、内心の苛立ちがどこに不甲斐ない自分に向けられていた。


「それでギルドが俺を引き抜いたってか」


「本当なら神聖共和国の騎士団に来る手はずだったけど、それは私が拒んだ」


 ジトっとフィルがジードを見る。


 とことんソリアを好いているための嫉妬にジードは苦笑した。


「そんなに嫌われているか。俺は」


「いいや、逆だよ。おまえのことを推薦したギルドのやつらは他にもいた。だからおまえはギルドにいったし、Sランクにまでなっている」


「意外に言うじゃないか。媚売って得た地位だと思ってたんじゃないのか?」


「そう思っていた。しかし、この短時間に魔族を倒した力量は本物だろう」


 よろりとフィルが立ち上がる。


 適当に近くにあった剣を拾う。


 だが、その剣はユセフには向けなかった。


「私ではザイ・フォンデの始末はできない。それは……認めるしかない。認めないといけない」


 剣の刀身が震えるほどにフィルは柄を握り締めていた。


 彼女からしてみれば異様なほどに悔しいのだ。


 それでも認めた。


 ジードの方が戦えることを。


「おう。お疲れさん」


 ジードは茶化すことはなく、軽やかに一言だけ発した。


 彼女の精神的、肉体的な苦労を労った。たとえそれが無意味なものであっても。


 不意にフィルが口をもぐもぐと開いた。


「………………す…………た」


 小さな声でぼそぼそとフィルが言う。


 その顔は赤く染められている。


「ん? なんか言ったか」


「す、すまなかったと言った! 散々の非礼や暴言は許してくれるものではないだろう。ただ、それでも……悪かった。それに、おまえの連れっぽい奴らも巻き込んで倒してしまった」


「ああ。あれ、おまえだったのか」


 ジードがクエナやシーラの様子を思い出した。


 そもそも、あの二人を倒すだけの実力者は限られてくるから勝手に結びつく。


「おまえの力を測るために必要だった……と思っていたから」


「力を測るためって、おまえ。めっちゃ暴走してんな」


「本当にすまない……」


 フィルは切れ長だった目じりを垂らしながら謝意を口にする。心から申し訳ないと思っている顔つきだった。


 ジードが居辛そうに頭を掻く。


「俺は別にどうでもいい。はなから気にしてなんかいない。あいつらに会った時まで取っておけ、その謝罪は」


「……ふっ、悔しいな。そこまで器の違いを見せられると」


「急に褒めだすと気持ち悪いわ」


「き、気持ち悪いなんか言うな! ……だが、正式な謝罪は必ずする。こんなので許してもらったつもりはない」


「なんでそんなに上から物申せるんだよ。それに、騎士ってのは変なところに拘るんだな」


 ジードはシーラの姿を思い浮かべて言った。


 もうクゼーラ王国騎士団の件は依頼金も貰って解決したのになにかしらを返そうとしてくる少女の姿を。


「さて、じゃあ行くかな」


 ジードが指をパキパキと鳴らしながらユセフの方を見る。


 今も倒そうと躍起になっている騎士達を、ユセフはまるで埃のように払っている。


「まったく魔力減ってねえな。まぁ、あの量じゃ減ったかどうかすら分かりゃしないか」


「救世主様!」


 ユセフの対処を考えているところに――スフィの声が届いた。


「きゅ、救世主?」


 突然、変な呼ばれ方をしてジードが戸惑う。


 話したことのないスフィから声をかけられてことに関しても戸惑う原因の一つだった。


 しかし、今まで救助活動をしていたスフィは事を急くために説明はしない。


 ただ麻布に包まれた棒を差し出す。


「ここでは玉砕覚悟で持ってきてませんでしたが外部に連絡して今ようやく届きました! こちらをお使いください!」


 麻布を外すと棒は辛うじて剣の形を模っていた。


 だが錆びておりお世辞にも使えそうにない。


「……いや、気持ちだけで」


「あ。これはその、ジードさんが持てば必ず反応してくれます! 今だって、ほら! ここ! ほんのり光ってます!」


 スフィが生真面目に原型を留めているかすら怪しい剣の一部を指さす。


 そこはたしかに微弱な魔力が溢れてキラリと輝いていた。


「うーん」


「に、握ってさえいただければ分かります!」


「いや、そうじゃなくて。俺、剣技そんなにできないんだよね」


 予想外の応えにスフィが目を点にする。


 そして軽く絶望した様子になる。


「たしかにその考えは留意するべきことでした……! 聖剣が反応したから浮かれすぎてました……!」


「悪いな。ってことで俺いくわ」


「ああ……! せめて腰にでもっ!」


 スフィはそう言うが、ジードとしては腰にでも異物があれば動き辛くなる。


 当然ながら剣は連れて行けない。


 壁を踏み台にしてユセフのところまで飛躍する。


 ドガッと強烈な音と共に壁が炸裂する。


 近くにいたスフィは、ジードが目配せしてフィルが保護していた。


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