フィルの言葉
それはフィルとユセフが起き上がった同タイミングだった。
真・アステア教の防御魔法陣が一つ、また一つと壊されていく――中で神聖共和国の精鋭と呼ばれる騎士たちが動き出していた。
外で巡回していた騎士、そして中で時を伺ったり、人員整理をしていた騎士が一斉に動いた。
壁が崩れるほどの攻防が繰り広げられる。
当然、それに巻き込まれる者も少なくない。だが、それはある意味で道を作っていた。瓦礫の上を所狭しと上がって抜け出そうとしている。
「どこ見てんだ?」
ユセフがグンっと一気に距離を縮める。
生身と乖離された魔力で強化された鉛よりも固い拳が飛んでくる。
頭ギリギリで避ける。
だが、余裕だったからではない。
ユセフの速度が尋常ではなかった。
「改めて問う。おまえは誰だ?」
ピシっと面にヒビが入った音がした。触ってみると目元から顎ほどまで割れているようだった。
避けきれていなかったか。
「まったく。やばいな、これは」
ユセフの問いには答えられず、冷や汗が頬に伝った。
久しぶりに感じる死の気配だ。
ユセフの体内にあるのは十万近くの信者から集めた魔力だ。一部だけで、別の魔族と分け合ったとはいえ膨大すぎる。
魔力の流れを追おうとすればユセフからこぼれ出ている魔力が鬱陶しい。
「答えろぉ!!」
「おまえの相手は私だろう! 無視するなぁ!」
ユセフが再度殴りかかろうとして横から白銀の剣が干渉した。
フィルだ。
起き上がり台座まで飛躍してきていた。
だが、さっきと同じことだ。
また生身の腕に受け止められる。
両者のぶつかり合いに軽い風圧が生まれる。
おかげでひび割れていたマスクが取れる。斜めに入っていたヒビが下部から上部へと落ちていく。
「やはりジードさんっ!」
ソリアが真っ先に反応する。
そこにフィル、ユセフも俺を見た。
「ジード……⁉ まぁいい、貴様はソリア様をここから遠のけろ!」
「ふはははっ! ジードが来るのは誤算だったが……まぁいい。部下をけしかければいいだけのこと。だが、二人してこなくてもいいのか?」
フィルの言葉にユセフが嘲笑う。
実力差がわかりきっているとばかりに。
「……こいつの実力はなんの手助けにもならないッ! 私だけで十分だ!」
そうフィルが言った。ひどい暴言だ。
隣でソリアがムッとした顔をしている。
「フィル! 前から思っていましたがジードさんを軽んじて――!」
「まぁいいさ。ソリアを台座から降ろすってのには賛成だ。ここは足場が不安定すぎる。俺とソリアはこのまま下がるぞ」
言いながらソリアを横抱きする。
階段を伝って降りるのは遅すぎる。
「ほ、ほゎ……! ジ、ジ、ジードさん……!」
「飛ぶぞ。舌を噛まないために歯を食いしばってくれ」
「ひゃっ、ひゃい……!」
呂律の回っていない口ぶりで、それでも、しっかりと小振りで桃色の唇を一文字にキュッと閉めていた。
ソリアの準備が完了した様子を確認して飛び降りる。
地面にはすぐ着地できた。
「お、重たくはありませんでしたか……っ!」
降り立って真っ先にソリアが俺の顔を覗いた。
不安そうに上目遣いで尋ねてくる。
「全然だ。むしろ軽かったよ」
「そ、そうですか!」
どこか満足そうに頷く。
しかし、ソリアはすぐにハッとなって周囲を見渡す。
多くの負傷者。……死んでいる者もいる。
それらを見て痛々しい顔つきになった。
「私は負傷者の治癒に移ります」
凛々しい言葉遣いと一瞬で負傷者に向けられた言動は、聖女と呼ばれるに相応しい人格者っぷりだった。
さて、ユセフはフィルがやると言っていたので他の魔族の対処にでも当たるとしよう。




