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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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魔力

 俺は大聖祈祷場所にいた。


 神聖共和国内の領地にあるここは、広大な大地を確保している。


 円形の二メートルほどの壁が巨像以外なにもない大地を包み込んでいる場所。扉は四方に四つずつあり、人々が各方面から入ってきている。


 中心には十人分ほどの女神アステアの巨像が青空に晒されており、その足下には簡素だが作りこまれた台座のようなものがある。


 しかも、台座は巨像だけではなく、さらに別にも用意されてあった。そこには神聖共和国の騎士やソリアもいる。


 だが、他にはなにもない。それだけの場所だ。


 それだけの場所のはずなのに、すでに広場は五万以上の数で埋め尽くされていた。


 さらに壁の外からは、まだ入ろうとする人々でいっぱいだ。


 ただ不思議と狭い気はしない。


 巨像も雨に降られたら錆びるだろうに、常にメンテナンスを怠っていないレベルで綺麗に輝いている。


 不思議な場所だ。


「おん、あんちゃん久しぶりじゃねーか」


 と、声をかけられた。


 振り返ると見覚えのある顔が目に入った。


「えーと」


「なんだい、忘れちまったか? 真・アステア教の勧誘のビラ受け取ってくれたじゃないか」


「ああ。あの時の」


 男は、いつぞやの王都で真・アステア教の勧誘活動を見ている際にビラを配ってくれた人だった。


 しかし、よく逆によく俺のことを覚えていたものだ。


 以前、真・アステア教の活動を見るために買ったマスクを残しておいてよかった。叩けば音が鳴る強度で、それなりに固くて使い辛くはあるが、それでもやはり役には立った。


 たまに怪しい目で見られて心が痛むが、それも仕方ない。


 隠さなくても良いとリフには言われていたが、念のため付けてきた。


「あんたはどこの宗教として来たんだ? 結局うちには来てくれなかったけどさ」


「どこでもない、見物だ」


「見物か。……そりゃちっと時期が悪かったな。出直してきた方がいいかもしれんぞ?」


 苦々しい顔つきで男が言う。


 人の混雑のことだろうか。


「今更戻っても面倒なだけだ。というか、ここはアステア教以外あるのか? さっきの口ぶりだとアステア教以外にもいるって雰囲気だったが。それにおまえらもいるし」


「そりゃあるさ。アステア教にも色々あるからな。俺ら真・アステア教を除いても幾つも派閥がある」


 そういえば王都で感じたような真・アステア教を迫害するような言動はない。


 むしろ自然に馴染んでいる。


 よく見ればスフィもいる。


 他にも幾つもの宗教の司祭的な存在がいた。


「しかし、取り仕切っているのはアステア教だろ? 問題ないのか?」


「普通なら当然ありえないぜ? だが今年は稀だ。色々と危機がありすぎて結託しようって時期なのさ。それに――」


 男が見上げる。


 青く輝く空ではなくアステアの巨像を見ていた。


「――アステア様を信仰しているのは誰もが同じことだからな」


「そうか」


 見れば別の宗教の信者であろう人らも顔を上げている。


 結託。


 俺からしてみればアステア教に主導権を握られるようなものなのだが、なにかを信仰する者にとってそういう類はさして興味ないのだろうか。


 それともアステアに送られる魔力は、どこで誰が主導で祈ろうと変わらないと考えているのだろうか――。







 一人一人の間隔がギリギリになった辺りで壁の入場制限がかけられた。


 座る余地くらいはある。気分が悪くなった時のための余裕だろう。


 壁の上に立っているアステア教の人らが、きっちりと管理をしているのだろうか。なかなかすごい。


 しかも全員がかなりの魔力を持っている。――騎士か、あるいは。


 そこまで考えて頭を振った。


 ここは神聖共和国内だ。さすがにそれはない。……はずだ。


 それに魔力も一つしか感じられない。ありえない、はずだ。


 なのにどうしてだろうか。


 知らず知らずのうちに幾つもの魔法陣を身近に展開している俺がいるのは。


 経験的本能から来る勘というやつだろうか――。


『皆様、お集まりいただき誠にありがとうございます』


 ふと、男の声が響いた。


 人一倍の大きさがある台座の上にマジックアイテムの拡声器がある。司祭の服をまとった男がそこで喋っているのだ。


 いや、司祭よりも少し派手だ。青い髪の男で、しかし、どちらかといえば司祭というよりは戦闘向きな強さを持っている。


『昨今は不安定な情勢の中で女神アステア様の加護がございますれば――』


 などなど。


 過去、今、未来の話をアステアのことを通じて喋っている。


 それに涙ぐむ者もいた。


 ここには辛い経験を経てきた者が少なからずいるということだ。


 ただ、隣の男を含めて、スフィとの距離的に真・アステア教の信者達であろう人々は悲痛よりも苦々しい顔をしている。


 なにかを待っているような、そんな顔だ。


『それでは、話は長々とするよりも短く終わると致しましょう。祈祷の時間へと移ります』


 と、司祭風の男が言う。すると、広場の内外から歓声が聞こえてきた。


 しかも一部では熱心に「うぉぉぉ!」とすら叫んでいる。なにをそんなに喜んでいるのだろう。


 声高々にお祈りをする宗教でもあるのだろうか? 司祭の話が長かったと感じた一部が、ようやく終わったと盛り上がっているのかもしれない。


 なんて思っていると理由が判明した――


 台座に昇ってきたのはソリアだった。上から顔を見せると広場内がより湧いた。


『僭越ながら、私ソリア・エイデンが祈祷の神事を務めさせていただきます』


 そう言いながらソリアが軽くお辞儀する。


 その姿にさらにオーディエンスが地面を震わせるほどに盛り上がった。


 これもう女神アステアじゃなくて聖女ソリアの宗教だろ。と思わせるほどの賑やかさだ。


『ここでの偶像は、こちらの巨大な銅像になります』


 ソリアが背後の巨像に手を向けることで説明する。


 偶像。それは祈る対象だ。


 ペンダントや拳サイズの像といったものから、この広場にでかでかと存在感を示すものまで。多種多様に存在する。


 それらが媒体となって女神の魔力を届ける。


 とは、ここに来る前に調べた。ただ現地に来るだけでは意味がないから前知識を確保しておいたのだ。


『それでは祈りましょう』


 手を重ねながら、ソリアが目を瞑って祈り始める。


 それに合わせるように人々も手を重ねて祈り出した。魔力の流れが銅像に向かって吸収されている。


――ように見えて、俺の目からは魔力の流れが別のものに移っていた。


 銅像から流れている先はソリアより前に台座に立っていた男と、そして壁の上に立つ男達だ。


 次第に彼らの体内に膨大な魔力が流れて行っている。


 それは見覚えのある魔力形成だった。


――魔族。


 それは戦場で見た魔族の光景だった。


 だが、なによりも俺が驚いたのは――


「そこまでです! アステア教大司祭――ザイ・フォンデ!」


 それをまるで予期していたとばかりに叫びだす、少女、スフィの姿であった。


 そして俺が見ていた魔力の流れに赤色が付いていた。それは一般人なら誰にでも見れる、『魔力の流れを現している色』だった。

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