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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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リフとのお話

 ギルドマスター室の扉をノックする。


「入るのじゃー」という声がかかり、扉を開ける。


 中には小さな幼女が一人いた。


 幼児向けにオーダーメイドされたのであろう、高級感あふれるが小型な執務机や幼児用椅子が並べられている。ギャップの巣窟みたいな部屋だ。


 当然、客を出迎えるためのものは大人相応にでかいが。


 俺は遠慮なくその椅子に座った。


「いつもいるな。暇なのか?」


「なんじゃ、わらわがいて嬉しいのじゃろう? もっと喜んでもいいのだぞ?」


 普段通りの尊大な性格だ。


 いなくとも受付嬢に対応してもらうから全くもってどうでもいい。


 だが、こいつは一応ギルドのトップの存在と聞いている。


 動いていないところはクゼーラ騎士団時代の上司を思い出してくる。


「なんかトップが動いていないと不安なんだよ」


「ぷぷ。不安とは可愛いの。安心せい。そもそも、わらわが派手に動き回るような組織ではない」


 とてとて、と可愛らしいステップを踏みながら楽しそうに執務机から離れて、俺の対面の椅子に座った。


 間にあるのは座高の低い黒机だ。


「依頼の件は聞いておるよ。完了印を押してやるから出すがよい」


 相も変わらず鮮やかな黄金色の瞳をキラキラと輝かせている。


 小さな手でひらひらと依頼書を受け渡すよう動かしている。


「ほれ、依頼書だ」


「うむ。今回も立派な働きだったの。これが依頼金じゃ」


「たしかに受け取った。……それで、少し報告があるんだが」


「どうした?」


 こてんっ、とリフが首を横に傾ける。


「実は今回戦った魔族が変なんだ。体内に複数の魔力を保持していて気味が悪かった。それに以前戦った魔族よりも数倍は強くてな」


「ほう? つまり魔族になんらかの変化があったということか?」


 察しが良い。


 それでいてリフも不思議に思っているのか顎に人差し指と親指を当てて考え込んでいる。


「むむぅ。考えられるのは他人の魔力を取り込んでいるということじゃな」


「他人の?」


「ああ、ここ最近の紛争は少数の魔族で行われていると聞く。もしかすると、犠牲を少なくするために他の魔族が魔力を与えて少数精鋭にしているのかもしれん」


 そう考えるのが妥当だ。


 俺が行きついた答えも類するものだ。


 実際に他人の魔力を借りることは容易い。マジックアイテムを介しても可能だし、触れ合って魔力を送りあうこともできる。卓越した魔力操作と魔法技術を持つ魔族ならば尚更に。


 それによって不足分の魔力を補って高難度の魔法を扱えることもある。


 少数で動くのも理知的だ。



 とくに一人で傭兵団一個分クラスなら、紛争地帯はゲリラのような戦い方もできる。


 だが、疑問な部分もある。


「プライドの高い魔族が他人に魔力を譲るかどうか、なんだよな」


「そうよな。魔力を譲るということは、自分より戦闘面で優れていると認めることになる。そういう考えに至る者も少なくはないじゃろう」


 リフも頭を抱えている。


 やはり正解と思えるものには辿り着けないようだ。


「というか疑問に思ったのであれば捕らえて尋問すれば良かったのではないか?」


「死んでも言わなかったよ」


 異様な恐れ様で自ら命を絶った者もいたほどだ。


 聞いて答えてくれるようなやつがいればラッキーだったのだが。


「ふむぅ……怖い話じゃな。特に大聖祈祷場所が開かれる直近でそんな話は聞きたくなかったの」


 大聖祈祷場所。


 最近よく聞く単語だ。


 アステア教をメインにした、女神アステアに祈る場所。


 各国からこのためだけに来る人も少なくないそうで、今回は特に多くなると予想されているようだ。


「まぁ、注意を払った方がいいのは事実だな」


「そうじゃの。以前より進んだ魔法技術や戦闘法ならば警戒は怠れん。……お、そうじゃ。そういえばジードは大聖祈祷場所に行くつもりはないか?」


 先ほどの続き、とばかりにリフが尋ねてきた。


 首を左右に振る。


「ありえない。クゼーラ王国の半壊は俺が招いたものと言って過言じゃない」

「まぁ今回の人が多く集まる原因の一端ではあるが……」


 そんな俺が行っても『どんな顔で来てんだこいつ?』と、見られるだけだろう。


 しかもフィルとかいう剣聖を名乗った女性もそうだ。


 彼女は神聖共和国の危機を守り切れなかったのは俺の責務だと考えているところがあった。


 彼女ほどではないにせよ、恨みを向ける場所が欲しいやつはいくらでもいるだろう。


「しかしの、カリスマパーティーとして女神アステアに対する敬虔な態度を示す必要はあると思うぞ。構想としては真摯なパーティーじゃからな」


「付属品として信心深い人ってのがいいのか?」


「うむ、その通り。無神論者よりも信仰者の方が信頼されやすい。特に同教の者からすればの」


「そうなのか。……まぁでも、少なくとも今じゃない。俺が顔を出して余計なやっかみを受けてもギルドの名前に傷がつくだけだろう」


「そんな意見は気にせんでも良いのに。しかし、おぬしもギルドのことを気にかけてくれておるということじゃな。かっかっかっ」


 リフが嬉しそうに笑う。


 いつもギルドのことは思っているのだがな。


 俺を拾ってくれたのだから恩を返そうと思うのは不思議じゃないはずだ。


 推薦をしてくれたという奴らにもお礼をしなければいけない。どういう経緯なのか、俺にはまったく身に覚えがないけれど。


「……まぁ、勉強ついでにアステア教ってのを知るには良い機会かな」


 俺は、ボソリとそう呟いた。


 当然、このまま大聖祈祷場所には行けないが。


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