依頼を受ける
どの依頼を受けようか。ギルド内の掲示板で雑多に貼られている依頼書たちを見ながら考えていた。
隣にはリフがいる。
素人の俺に対するハンデのようなものらしい。ただし力を借りてはいけないとのこと。
依頼よりも先に俺はふと思った。
「おまえらって暇なのか?」
「なんじゃ唐突に」
「いきなり勝負吹っ掛けていたり俺なんかに構ってくれたりしてるから、他にやることないのかなーって」
「クエナのことか? あやつはこれに勝てばSランクの道が近づくと思っておるからのう。あれはあれで指名依頼もあったりして忙しい身ではあるのじゃぞ?」
ほー。
指名依頼ってのはおそらく、文字通り指名の依頼を受けるって感じだろう。まぁSランクに拘っているようだが、世間一般から見ればAランクも雲の上の存在……ってのも聞いたことがある。
あいつもあいつですごいやつなのだろう。知らんけど。
「おまえにも言ってるんだよ。一応組織の管轄的な存在なんだろ?」
「一応っていうか正にそうじゃ」
「……俺が言いたいのは偉いねってことじゃなくて、暇を持て余してないかってことだぞ。だから胸張って威張っていいことじゃないぞ?」
リフが幼女らしいぺたぺたーんな胸を張って偉そうに鼻を伸ばす。
「わらわには優秀な部下たちがおるからの、問題はない。それよりも依頼どれにするか決めんか」
「そんなあっさりと済ませていいものなのか……?」
かなり無責任なギルドマスターだな。
本当にこんなところに入っても大丈夫なのだろうか。いや、まあギルドに所属するわけじゃなく、あくまでも下請け的な存在だからマシと考えるべきか。
まぁでも。
受付や、たまに見る職員的な人らは活気にあふれていて楽しそうだ。
少なくとも俺がいた騎士団とは違い、ゾンビと見紛うほどの死にかけの人々はいない。
良い環境なのだろう、ここは。
さて依頼だな。
掲示板には無数の依頼がある。それらは薬草摘みやゴブリン討伐と子供でもできるようなものから、オークの集落を潰してほしいだとかフェンリルの毛を取ってきてほしいという高ランクに指定されたものまである。
だが……
「うーん、どれもあんまりだな」
「ほう。言うのう」
大体の目安だが、
Fランクの依頼は1ポイント
Eランクの依頼は3ポイント
Dランクの依頼は5ポイント
Cランクの依頼は10ポイント
Bランクの依頼は30ポイント
Aランクの依頼は50ポイント
て、な感じだ。
しかし、肝心のSランクがない。
それにAランクも数が少ない気がする。
「ほかに依頼を掲示している場所はないのか?」
「本部はこれだけじゃな。あとは指名依頼や緊急で来る依頼以外はないの」
「そうか……」
それもそうだよな。
掲示されている数少ないAランクの依頼を見るだけでも村一個が壊滅するレベルのものだ。
それがバンバンと依頼されているわけがない。その上に位置するSランクが一個もないのは当たり前だ。
それになによりここは王都。王国の中枢だ。
ほとんどの場所が開拓されているし、騎士団の目も光っているから……
待てよ。
「辺境の地とかだったらSランクの依頼もあるのか?」
「良い着眼点じゃな。しかし、辺境の地であれば依頼金を払うほどの金持ちはおらん。だからAランクすらない支部まである」
「そんな甘くはないかぁ」
と、ぐだぐだ考えていたらパーティーを組んでいる奴らが数少ないAランクの依頼を取っていった。
「あっ、Aランクが」
「どうするんじゃ、王都はそれなりに稼ぎに来てるやつらもいるでの。依頼にも限りがあるぞ」
「そうだな。そろそろ行かないと」
クエナはもうすでに依頼を受けてギルドから出発した。
俺もぐずぐずしている暇はないのだ。
「ちなみにじゃが、クエナはAランクを一個とBランクを二個取っていったぞ」
「え。そんなのありなのか?」
「同時依頼受理は特認じゃな。クエナは信頼があるからの」
「それ俺もできるか?」
「わらわが認める実力ではあるがの、ジードは依頼遂行経験がないから厳しいじゃろうなあ」
クエナが言っていた有利ってのはそういうことか……。
そう考えると不利だな。
もうこうなったらなにも考えずに依頼受けてくるか。
「はぁ、今週まだ三時間しか寝てないのに」
愚痴をこぼしながら、とりあえず掲示板から一番ポイントの多い依頼を取った。