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試しに来るもの

 境界線での依頼が終わったあと、俺はギルドに戻らず、いつも住んでいる宿で休憩を取っていた。


 ベッドに横たわりながら、今回受けていた依頼書を改めて見返す。


 いつもどおりのペースで依頼をこなせた。


 しかし、相手の魔族はどこかおかしく感じた。


 複数の魔力を体内に持っていた。


 それは少し特殊なことだ。


 一つの個体に一つの魔力が俺の中では常識だった。


 以前にも魔族とは戦ったことがあるから、魔族が特別な種族というわけではない。


 特別な個体……というわけでもないだろう。


 戦場にいた魔族の全てが複数の魔力を保持していたからだ。


 なにかがおかしい。


 その報告も纏めるつもりで一度宿に戻ったわけだが――。


 ゴンゴン! と荒々しく扉が叩かれた。


「いるんでしょ、ジード!」


 声に馴染みはなかった。


 だが、俺の名前を呼んでいる。


 俺に用事があることに間違いはない。


 ベッドに横たわっていた身体を起こして扉を開ける。


「はいよ、どちらさま?」


 扉の向こうにいたのは茶色い髪のポニテの美人だった。


 道を歩けば10人が10人振り返るレベルで顔が整っている女性だ。


 気の強そうな瞳がこちらを見ている。


「私はフィル・エイジだ」


「うん、どちらさま?」


 名前だけで分かるよね、といった名乗り方だ。


 けど俺は知らないから当然こういう返事になる。


 それが癪に障ったようだ。元々かなり怒りの溜まった声音だったが、より感情を顔に乗せて俺を睨みつけてきた。


「神聖共和国、【剣聖】のフィル・エイジだ。ソリア様と常に共にいる」


「へえ、ソリアと? ソリアはどこにいるんだ?」


 廊下を見渡すがソリアの影はない。


「ソリア様は大聖祈祷場所での祈祷の準備で忙しい。だが、この時期は私がいなくとも厳重な護衛がいるから問題ない」


「ああ、そうなの。ご説明ありがとう。そんじゃ剣聖のフィルが俺になんの用なの?」


「聞けばギルドでカリスマパーティーなるものを発足させようとしているようだな」


「詳しいな」


 さすがはソリアと一緒にいると言い切るだけある。


 いわゆる神聖共和国の精鋭部隊ってやつなのだろうか。


 それに違わぬ実力がある。単純に見ただけでも――。


「単刀直入に言う。辞退しろ」


 半ば脅すように言ってきた。


 フィルの腰にある白銀の剣までもがギラギラと飢えた獣のように俺を見ているようだ。


「こりゃまた偉い直球だな。どうしていきなり?」


「逆に聞こう。なぜカリスマパーティーに入ることを決めた?」


「ギルドマスターのリフから頼まれたからだ」


「どうして受けた?」


 フィルがさらに問い詰めてくる。


 まるで尋問のようだ。


「ギルドには恩がある。それにメリットもあるからな。断る理由がない」


「だろうな」


 ふんっ、と小馬鹿にするようにフィルが鼻で笑ってきた。


 なんだこいつ。


「おまえはつい最近になってギルドに入ったそうじゃないか。それもどうやって取り入ったか知らないがSランクとなって」


「おー。前にも聞いたことがあるな。どこぞの馬の骨とも分からん奴がって感じだろ?」


「分かっているなら話が早い。どうせソリア様の名声を借りて知名度を伸ばしたいのだろう。私は何度もそういう寄生虫のような輩を見てきた」


「大変だったんだな。俺は寄生虫じゃないけど」


 フィルはソリアの護衛らしい。


 当然そういった人らも見てきたのだろう。


「いいや、おまえは寄生虫だ」


「言い切るじゃないか。なにを根拠に?」


「まず、第一に」


 フィルが指を立てる。


 どうやら根拠は幾つもあるようだ。


「自分が所属していた騎士団を崩壊にまで導いたそうじゃないか」


「……ああ」


 どうやら俺のことを調べ上げているようだった。


「これは騎士団が裏で相当な悪事を行っていたことが判明しているそうだな。そのため崩壊させたのだろう?」


「ちと、違うな。依頼があったから、依頼主と護衛対象を守っただけだ」


「どちらにせよ、騎士団は崩壊してしまった。そしてクゼーラ王国は列強と呼ぶには相応しくない国に落ちてしまったな」


「まぁ、もっとマシなやり方があったことは認める」


「結果的におまえは自分の住んでいた国と組織を壊した。そういうことだ」


 だから寄生虫というわけだ。


 まぁ話だけ聞くとそういう種類もいるだろうな、くらいには思う。


「第二に、我が国の神聖共和国の危機についてだ。今年に入ってから二度も危うい事態に起っている。そのどちらにもおまえが関わっているそうだな」


「一つは騎士団がマジックアイテムで魔物の大氾濫を起こそうとした時と、もう一つは王竜の件か? けどそれは巻き込まれただけだぞ」


「巻き込まれただけ? それは言い訳だろう」


 機嫌悪そうに俺の言い分に対してギロリと真っ向から拒絶してくる。


「私がその場にいたのなら、少なくともおまえより上手くこなせていた。もっと被害を抑えることができていた。王竜の捕縛は決してさせなかったし、魔物の大氾濫なんて大々的なことも行わせなかっただろう」


「まぁでも俺は依頼を受けてから行っているだけだからな」


 守る、という面での話なら、まぁフィルの言い分も理解はできる。


 それでも、フィルはその場にいなかったのだから言いたいことが分かるだけであって認めるわけではない。


「そんな考えであの方の傍にいようと考えているのか?」


 今までの中で最も鋭い眼力で俺のことを睨みつける。


 声は荒げていないが、明らかな敵意とも言えるものを感じ取った。


「あの方は人々に希望を与えている。存在するだけで人は生きる力を得られる。そのソリア様の隣におまえがいる? ありえない。ありえてはならない」


「そんなこと言われてもな。これはギルド側の要請なんだ。断ろうとは思えない」


「いいや、断ってもらおう」


 すらり


 フィルが自然体のまま剣を抜いた。


 随分と慣れている様子だ。


 一瞬で首元にまで刀先を突き立てられた。


「力の差というものを教えてやる。貴様の隣にソリア様は似合わん。さぁ、好きな武器を取るがいい。それが始まりの合図だ」


 どうやらフィルはここで俺とやりあうつもりらしい。


 安宿の廊下で。


 はぁ、と一つだけため息をして俺はドアノブを取った。


「文句があるならギルドにどうぞ」


 そう言って俺は扉を閉めた。


 閉める直前の「え?」というフィルの顔が少し愉快だった。


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