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リフとの会話

 真・アステア教の真摯な活動を見て数日が経った。


 彼女達は今日も王国を起点にして熱心に布教活動を行っている。


 やはり未だに抗争が続くこの荒れた場所では信者も集まりやすいのだろうか。


 そんなことを考えていると、宿に標準的に設置されているテーブルの上に置いてある冒険者カードがぶーぶーと震えだした。


 どうやらリフが俺を呼んでいるようだった。


 適当に支度を済ませてからギルドに向かう。






「急に呼び立ててすまんの」


 ギルドマスター室に着くとリフが変わらぬ様子で椅子に座りながら俺を出迎えた。


 ひとまず俺も席に着く。


「いつものことだろ。それでどうしたんだ?」


「うむ、緊急依頼じゃ。しかもAランク以上のな」


「お、久々だな。今度はどんなだ?」


「……緊張感なくAランク依頼をそんな態度で言う奴は中々おらんぞ」


「いつものことだろ?」


「自分で言うか。いや、まぁたしかにそうじゃが……」


 呆れも通り越して普段通りの会話だ。


 それに例えば立場が逆だったとしても、リフは俺と同じような態度をとっているだろう。


 騎士団で引き抜きをされた時は疲れていて気付かなかったが、彼女もまた底の見えない力を持っている。


 改めてそれを実感する。


「依頼内容は王都と魔族領に境界線で起こっている抗争の助太刀じゃな。もちろん王国側の」


「ん、抗争?」


 魔族と人族は平和な時が続いていると聞いていた。


 あっても小競り合い程度だって話だ。だというのに抗争とはどういうことだろう。


「じつは一部の魔族で動きが活発になっておる。どこまで動いているかは分からんが噂では七大魔貴族の一角さえも動いていると……」


「ほー。そうなのか」


「まぁあくまでも噂じゃがな」


 魔族には詳しくない。


 当然、その七大魔貴族とやらも知らない。


 だが弱っているとはいえ列強の王国と抗争と言えるほどの事態にまで発展させられるほどの勢力ならバカにはできないのだろう。


「でも王国は結構な数の傭兵団を雇っているだろ? それだけじゃ間に合わないのか?」


「それが著名な傭兵団すらも簡単に圧倒するほど魔族が力を付けているそうなのじゃ。昔とは遥かに差をつけて実力があるらしい」


「ほー、そんなことになってるのか」


 平和な間にめちゃくちゃ鍛え上げたということだろうか。


 どちらにせよマズい状況らしいな。


 これは、いよいよ人族と魔族の戦争まであり得そうだ。


 戦争といえば……


 リフに聞きたいことがあるんだった。


「そういえば真・アステア教の依頼ってどうして受け付けていないんだ? いくら怪しいって言っても依頼は依頼だろうに」


 と、問うとリフが複雑そうな顔をした。


 やはりなにかあるのだろう。


「ほれ、前に話したカリスマパーティーの件があるじゃろう」


「あれな。俺とソリアが暫定でメンバーに決まってるやつ」


「うむ。そのソリアなんじゃが、幼いころからアステア教の信徒として活動しておるのだ。アステア教の後ろ盾と、アステア教で積んできた実績がある」


「……ああ、理解した」


 ソリアを勧誘しているから、なるべくアステア教とは仲良くしておきたい、ということだろう。


 だから敵対組織ともいえる真・アステア教には関われないのだ。


 しかし、そうか。


 ソリアはアステア教の信徒だったのか。


 それならば仕方がない。


 後ろ手を組んで頭を任せながら天井を見る。


「でも真・アステア教の連中も悪いとは思えないんだよな」


 とボヤく。


「言いたいことは分かっておる。アステア教の悪評はわらわの耳にまで届いておるでな」


「やっぱり悪評があるのか」


「それも最近になって隠す必要もないとばかりに、な。お布施を過剰なまでに求めたり、どこか女神アステアを愚弄するような発言さえも目立っておる」


「わお、まじか」


 心底毛嫌いしていると言わんばかりにリフが顔を歪めている。


 彼女もソリアの件がなければ、あまり仲よくしようとは思っていないらしい。


 っていうか、そういうことなら真・アステア教の言っていることは本当なのかもしれない。


(まぁ、だからと言って布教活動を手伝ったりはできないが)


 俺もギルドという看板を背負っている。決して迷惑をかけるような真似はできない。


 それに真・アステア教は伸びていくだろう。


 今のままでも順調なくらいだ。


「まぁしかしの、もしもソリアに新たに聖的な後ろ盾や名を広める実績ができれば別じゃがの」


 リフが挑戦的な目を向けてくる。


 なにやら俺に期待しているようだった。


 それは俺に真・アステア教を伸ばせ、ということだろうか。


「……面倒だから俺は動かんぞ。暇で暇で仕方なくて、その時に多少の興味があったらやるよ」


 俺の本質は怠惰的だ。


 ただブラック根性が染みついているだけで。


 だから決して仕事ではない限り、そしてやることがなくて暇すぎるって場合じゃない限りは積極的に動くことはない。それこそ気分にもよるが。


 前のスフィらの集団に話を聞きに行ったのはイレギュラーというやつだ。


「そうか。お主じゃったらなにかやらかしてくれそうじゃがの」


「俺はなにもやらかしてないだろ。周囲が勝手に動きまくってる……だけで……」


「最後らへん声が小さくなっておったぞ。自信がないようじゃの」


「うるせい」


 ニマニマとリフが楽しそうに見てくる。


 そして手元に緊急依頼の紙を差し出してきていた。


 どうにも視線が合わせづらく目を逸らしながら俺はその紙を奪い取るように受け取った。


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