予感
カリスマパーティーとやらの話が終わり、ギルドマスター室から出て下に降りる。
「うむむぅー」
シーラが頬を膨らませながら不満気な声を漏らす。
隣ではクエナも俺を恨めしそうに睨んでいる。
「パーティー掛け持ちできるなら早く言いなさいよ」
「悪い。リフが楽しそうに笑っていたから言うに言えなかった」
「あのバカギルマス……」
小突くイメージトレーニングでもしているのか、クエナが腕でシュッシュッと空を切っている。
そういえばクエナとリフは随分と仲が良さそうだがどういう関係なのだろう。単純に仕事上だけの関係には見えないが。
ふと、シーラが顔を覗かせてきた。
「それでジードはパーティー興味ないの?」
「ん、パーティーか。ギルドから直接組めって話じゃなければな。不足はないし、組もうって考えはないかな」
「カリスマパーティーかぁ……」
顎に指を当ててシーラが思惟に入っていた。
結局のところ、シーラもクエナも実力面で言えば加入は問題ないというのがリフの言葉だった。
だが、このパーティーにおいて実力は二の次だ。表面上の名声が大きく影響する。
ギルドでいえばランクはSが必要になる。今年は俺が既にランクSとなったがクエナかシーラが来年くらいにランクSとなれば加入は可能だが……
そこまで時間に猶予がある案件とも思えない。そもそも順調に入れても一年に一人という計算になる。
「ま、シーラはまだAランクに時間がかかるでしょうから入るとしたら私が先ね」
「来年にはAランクになるわよっ」
「そう? 少なくとも王都じゃ依頼はないから難しいわよ」
「むむむぅーー……!」
怒りの感情を扇動しているように見せかけて的確なアドバイスをしている。
王都は俺が依頼を大きく奪ってしまった。未だに大きくそれの残り香がある。
「あれだったら王国の辺境だったら色々と依頼が動いているわよ。魔族との小競り合いも酷いらしいから」
「あ、それは聞いている。魔族の動きが活発になったって。でも王国を他勢力から守るのってどっちにせよ騎士団の仕事のような……」
引きずっているわけではなさそうだが、騎士団から抜けたから冒険者のような仕事をしたい、ということなのだろう。
「神聖共和国ってどうなのかしら。二回も魔物の大暴発があったから荒れていたりしないの?」
シーラが問う。
クエナは意外と情報通だから意外とシーラの信用があるようだ。
「ないない。いきなり襲われていたってだけで神聖共和国は列強の軍事力よ。それに魔族との小競り合いで傷ついた各地を訪問していたソリア達の主力も帰ってきているし」
「さすが中立国ね……少し慌てただけですぐに取り戻している」
「まぁどこぞの怪物が貢献していたっていうのが大きいけどね」
どこの怪物だろうか。
クエナの視線が俺に刺さっているが、俺は帝国とドラゴンを家に帰しただけなのだが。
「さっきも言ったけど狙い目は弱っているクゼーラ王国の辺境ね。各地の傭兵団も集まっているみたいだし、王国も金に糸目は付けていないようよ」
「しばらくジードさんと離れなければいけませんね……」
捨てられた犬のような泣く寸前の顔にシーラがなる。なにかしたわけでもないが心が痛い。
むしろギルドの依頼があるのなら俺も一緒に辺境へ向かっていいところだ。
そんなことを考えていると依頼の受付で揉めている集団がいた。
「ですから、その依頼は審査の結果お受けできないと……」
「な、なぜですか! 私達は崇高な命を受けて……!」
一人は緑色の髪に、リフよりも4、5歳くらい上の歳の少女だ。
他は年齢や性別も疎らだ。若い女性もいれば年老いた男性もいる。
「なんだ、あれ」
「あれは最近になって活発になってる『真・アステア教』を名乗っている教団ね。なにか依頼でもしに来ているんじゃないかしら」
俺の呟きにクエナが反応した。
「真・アステア教?」
「ええ。神聖共和国が国教にしているアステア教は偽物で、自分たちは本物だって名乗ってる集団ね」
「へぇ。そんな奴らがどうしてまたギルドに」
「布教をギルドに手伝ってほしいってんじゃないの? でもギルドは一つの勢力に傾注することはないし、それにアステア教って言ったらソリアの所属する教団よ。そことは今は尚更に問題を起こしたくないんでしょ」
クエナに言われて納得する。
カリスマパーティーの件があるからか。
「……一応、釘を刺しておきましょうか?」
クエナがジトっと俺の方を見る。
「どういうことだ?」
「わからないのね……。変なことに首を突っ込まないで、と言っているの。あなたをメインに変なことが起こっている気がするし……」
「そりゃ勘違いだ。俺がいなくても問題事くらい毎日起こってるさ」
「問題事の度合いが違うのよ!」
クエナに激しく突っ込まれる。
まぁ、ギルドに断られるくらいってことだ。俺も無暗に突っかかったりはしない。
すると真・アステア教を名乗る集団が外に出ていった。
「それじゃあ私は王国の辺境に行くついでの依頼でも受けてくるわ! 待っててジード!」
ビシッと俺を指さしてシーラが言う。
本当に来年にはSランクを受けるポイントを貯めるつもりのようだ。それが彼女の意思なら引き留めることはしない。
とりあえず手を振って頑張るよう告げた。
「じゃあ私もシーラに付いていこうかしらね」
「ん、おまえもか?」
「ええ。実はSランクになるためには幾つか抜け穴があるのよ。それじゃあシーラじゃないけど、待っててね、ジード」
「おー。がんばれ」
目的と手段が入れ替わっている気がしたが、まぁカリスマパーティーに入れば姉を見返せる可能性がもっと高まるから良いのか。
さて、俺はどうするかな。