傭兵団
「おい、依頼だ!」
傲慢な態度で二人の男がギルドに入ってくる。
冒険者たちが一斉に視線を向ける。その視線に一瞬だけ二人が震えるが、すぐに気を取り直して咳をする。
男二人が受付嬢に向かい、改めて言った。
「依頼だ! 今すぐ動ける冒険者を手配しろ!」
「はい、依頼ですね。受理するかは冒険者の自由となっておりますので、ひとまず依頼書をお願いします。まずはお名前を……」
受付嬢が丁寧に説明から入る。
しかし、それに豪商ユポーボッポが激昂した。
「とっとと動ける連中を呼べ! 支払いは一人につき金貨一枚だ! どのランクでも構わんから総動員しろと言っている!」
「……ですから、依頼書を先にお書きいただきまして、その後に掲示板にて依頼の手配をしますので」
「くそ! おまえでは話にならん! 上を呼べ!」
バン! と受付の机を叩く。
すると周囲の冒険者たちが集まり始める。
「お! 話が分かるじゃないか。おまえ達にはウィラという令嬢を……」
集まりだした冒険者達に豪商が笑顔で迎え入れる。
しかし、冒険者たちの顔色は暗い。むしろ彼ら二人に敵意すら抱いていた。
「な、なんだ、おまえ達……! 我々が誰かわかっているのか!? 私はユポーボッポだ! この国の経済流通の一端を担っている……!」
「だからなんだよ」
「「!」」
冒険者は各国を渡り歩く。
仮に一国を敵に回したところでなんともならない。
当然ギルドの規約なんかもあり、冒険者側も自由に動けるというわけはない。だが、冒険者というのは敵に回したら厄介であり面倒だ。
しかし、それでも二人は引けるはずもない。
「こ、ここで一番強いやつは誰だ!? 特別に金貨十枚で雇ってやろう!」
それは安易な考えだった。
ここで一番強い人間を雇えば、彼ら冒険者も従わざるを得ないという。
受付嬢が応える。
「ジードさんでしたら今は依頼を受けている最中ですので」
「ええい! 職とも言えぬ浮浪者共が……!」
豪商が思わず反射的に口にする。
だが、ここは冒険者ギルド。それにもう数十と集まっている。
当然、誰もがその言葉を聞き流すわけにはいかなかった。
「……てめぇ、今なんて言った!?」
「商人だか知らねえが俺らのことをバカにしたか!?」
この怒りは当然だった。
向けられて然るべき怒号だった。
あまりの威圧に二人は怯え出すが、ユポーボッポが懐から青い水色の丸い水晶を取り出す。
「こ、こいつらだけは暴れるから王都内部には入れまいと思っていたが……!」
通話性能を持つマジックアイテムに口を近づけて続ける。
「こ、来いボルキネス! 【崩壊と秩序の傭兵団】を連れて王都内に入れ! 許可する!」
その名前を聞き、冒険者達が一斉にどよめく。
全員がその名前に聞き覚えがあった。
「うそだろ……?」
「ボルキネスってあのボルキネスか!?」
「て、帝国の大隊と匹敵する無法者の傭兵団……!」
誰もがそれを脅しだと捉えた。
たかが一人の豪商には分不相応の戦力だったからだ。
しかし、ここにはもう一人いる。貴族のアイディ。彼もまた傭兵団の買収には一枚噛んでいた。
そして、その証にマジックアイテムから身の毛もよだつほどの低い声が響いた。
『了解です』
端的な一言だったが、誰もがその声に帯びる魔力に戦慄を覚える。
稀に強者は溢れ出る魔力から声や触れた物体に、人を威圧するほどの魔力を帯びさせるという。
この男がまさにそれだった。