絡まれた
「ここがギルドの本館ってやつか? ……いや、本館ってやつですか?」
リフに連れられ、ギルドにまで来る。
それは王都の中枢に近い場所の建築物だった。
見た感じ七階建ての見上げるほど大きな建築物に、どれだけ一等地を買い占めているのだと言わんばかりの家十件を丸ごと食ったかのような広さ。
王都って中枢に近ければ近いほど地価が高いはず……
俺にぽんと金貨百枚を渡せたりするほどだし、一体この組織だけでいくら持っているのだろう。
「うむ、立派じゃろう! 本館ではなく本部であるがな。……というか改めて敬語を使うでない、気色悪い」
「体裁的な面があるじゃないですか、やっぱり」
「やめい。その手のひら返しは脂ぎったへこへことなにを考えているか分からん成金商人どもを思い出す。あやつら、わらわが子供じゃないと知ると急にニマニマとしだすから気色が悪いのじゃ」
「お、おぅ」
まぁそこまで言われれば直さないわけにはいかない。
そもそも、俺もあまり敬語は使いたくないからな。見た目が子供のリフに。
「大変なんだな、見た目が子供ってのも」
「本当に。元はナイスバディーの美女じゃったんじゃがのぅ……ほれ、あやつみたいに」
「元は……? ほー……ありゃたしかに」
リフが気にかかるようなことを言う。だが、それよりも彼女が指さした女がこれまた美女で大して興味が湧かなかった。
ギルド内で大きな掲示板を眺めているだけで人から視線を集めている女性だ。
燃え上がっているかのような長い赤髪と赤い瞳、凹凸が女性的なラインを描いている身体つき。顔も良いから、あれは歩いているだけで人の注目を集め――あれなんかこっち見てね?
「なんかあの人こっち見てない?」
「まぁよい。それではギルド内を案内するぞ~」
「いや、見てるよね。なにあれ、すごい睨んでる気がするんですけど」
「良い。行くぞ。まだバレてはおらん」
「めっちゃ不吉なこと言うじゃん。しかもなんか来てるんだけどこっち」
飢えた獲物を見る、というのはまさに彼女のことを言うのだろう。
ギラギラとした……というかお腹が減りすぎてグルグルとしている視線をこちらに向けながら、真っすぐと向かってきている。
「まずい! 行くぞジード!」
「え? え? なになに!」
リフが俺の手を掴む。
小指をぎりぎり握りしめられる程度の柔らかく小さな手から、風を生み出すほどの魔力があふれる。
「『転移』じゃっ!」
魔法の詠唱。
しかも単語一つで済ませている。
まだ信じていなかった。
だが、この幼女は間違いなく数十年は生きている。そう感じるほどの魔法鍛錬、そして凝縮されている魔力。
ああ、認めるとも。
これは間違いなく各国に支部を置くほどの大組織の『マスター』クラスだ。
……だから君まで睨まないでほしい。
「ついやってしまったんです……」
「つ・い・じゃと?」
「はい……申し訳ないです……」
謝意を込めて軽く頭を下げる。
幼女が責めるような眼差しで俺を見る。
「つい……それだけでわらわの『転移』を跳ね返すなぁ!」
赤髪の美女から逃げようとして発動した『転移』の魔法を弾いてしまった。
おそらく俺ごと一緒に転移しようとしていたからだろう。魔力が俺にまで纏わりついてきたから……。
一種の防衛本能だ。勘弁してもらいたい。
「むむぅー、もうこれでは逃げられないではないか」
「そうっぽいな」
外と中。
かなり距離があったはずなのに息も切らさず俺らの眼前にまで美女が来た。
「なんじゃ、クエナ。なにか用か?」
「なにか用かじゃないわよリフ! そこに連れてるやつがジードね!」
クエナと呼ばれた美女が俺を指す。
「ああ、俺がジードだけど」
「なんじゃ見初めたか?」
「み、見初め……? っ! 一目惚れってこと!? そ、そんなものしてないわよ!」
ばっさり斬り捨てられた。相手が美女なだけに心が痛い。
「とぼけないでリフ! 私を差し置いてこいつをSランクにするんでしょ!?」
「それなら既に話し合いで決まっておろうが。まだごちゃごちゃ言うつもりか」
「話し合いってほとんど誰も参加してないSランクの会合とギルドの役職持ちの話し合いでしょ!? なんで私たちAランクは考慮されてないのよ!」
「当たり前じゃ。Aランクが上であるSランクの昇格について話せると思っておるのか」
「そりゃ今のAランクにいるメンバーの昇格なら問題ないわよ! でもぽっと出のやつが急になるのが変だって言ってるの!」
どうやらクエナは俺がSランクに昇格することを反対しているみたいだ。
前に聞いたことがある。ギルドはランク制でSランクが一番上のランクであると。さらにSランクになるには一年に一度だけ行われる試験で受かる必要があり、受かるのは一人だけであると。まぁ実際に受かるのは数年に一度だけって話だが。
「せめて実力の証明を行えと言うのじゃな?」
「そうよ! 今のままだったらAランクのやつらも不満でしょ!」
「じゃが既にSランクのソリア・エイデンからジードは推薦されておる。ほかにも様々な重役からもな」
「【光星の聖女】ソリア・エイデン様……まぁ、たしかに彼女が熱く推薦したから多くの冒険者は認めているわ!」
なんだ、置いて行かれているぞ。
俺がこうせい? の聖女さまとやらから推薦をもらっている……? ほかにもいろんな重役から……?
リフだけじゃなくて俺を推薦した奴は一杯いたのだろうか。
でもどうしてだろう。俺は推薦されるような人脈はないはずなんだが。
「けどそれでも私は自分の目でたしかめないと認められないわ!」
「はぁ、ごちゃごちゃうるさいのう、じゃあ殴れ。ほれ、ジードを殴って殺せ」
「おまえ過激派か!?」
リフが俺の命をあっさり奪わせようとする。
随分と乱雑だ。クエナも殺気のこもった瞳を向けないでくれ。腰に携帯している剣に手をかけないでくれ。