そろそろ閉じられる
強者ばかりのルイナの側近。
それは実力主義での取り込みを目論むウェイラ帝国の新女帝ルイナの方針の表れでもあった。
事実、側近はすべて実力のみで選ばれた。
ギルドのSランクを数名引き抜き、小国で名を馳せていた騎士を引き抜き、次期将軍と呼ばれる若者を抜擢した。
全員が優秀だった。
人族の『精鋭』と呼ばれるに相応しい逸材の集団だ。
それが――たった一人の男を前に指一本でさえピクリとも動かせずにいた。
側近の長だった男は観客席に突っ込んだまま意識を失っている。
クエナとは入れ替わるようにしてギルドと帝国を行き来したため、ジードやクエナの耳に入ることはなかった。
だが、それでも、かつてはSランクであり、各国に名前を轟かせた傑物だ。側近の誰もが一目置いていた。
その男を倒してなお、ジードが口にしたのは、
『やべ。これはさすがに依頼に支障あるかも』
だ。
元Sランクの強さなど眼中にすらなかった。
ジードに警戒の必要すら感じていなかった側近たちは一瞬でどん底にまで落とされる。
目の前に立つ男の強大さに膝を震わせる者さえいた。願わくば悪い夢であってほしいと神に祈る者もいた。
「もう話はいいか? じゃあ俺は依頼があるからさ。……バイリアスさん、あれ問題ないですよね?」
ジードは動けずにいる側近達とルイナから目を離して、愕然としているバイリアスに声をかけながら壊れた観客席に人差し指を向けた。
バイリアスはハッと気を取り直す。
「……あ、ああ……いや。ちっ、仕方ないだろう。いいから早く守れ!」
「ええ。分かってます」
乱暴な言葉に苛立ちすら見せようともせず、にっこりと微笑んでジードが王竜へと向かう。
王竜は、バシナにボコされて捕縛された。
しかも自分でも分かるほどに手加減をされて。
そのバシナをあっさりと一蹴したジードに畏怖を抱いた。この男がその気になれば、あっさりと消し飛ばされることを理解した。
だから、ジードの言葉はなんであれ、それを飲み込むしかないと諦めていた。
竜の王の血統である高貴な魔物が固唾を飲んだ。
だが、ジードから出た言葉は、かなり意表を突かれるものだった。
「あのバイリアスって男がおまえを捕縛した犯人だからさ、アレで手を打たない?」
「「「「!?」」」」
『!?』
その場にいる誰もがギョッとした。
クエナもルイナも側近達も、そして王竜も。
だが――それが最善だった。
「ほら、これだけドラゴンも集まってるし、なにか決着をつける糸口がないといけないだろ? あれで勘弁してほしいんだけど」
「き、貴様! なにを言って……! 依頼はどうした!?」
「依頼? そりゃここの護衛だろ? おまえの保護じゃない」
「は……はぁ!?」
ジードの言葉にバイリアスが反論の弁を失う。
適当に依頼した理由が仇となっていた。
『いい……のか?』
「ああ。むしろこんなんしか用意できなくて悪い」
ジードは知っていた。
この闘争が起こった本当の真実を。元凶がどこにあるのかを。
しかし、それを渡すことはできない。だからこれで手を打ってもらおうというのだ。
王竜としても頷くしかない。
そもそも、バイリアスを譲られるだけで感謝と驚愕が一斉に押し寄せるほどあった。
王竜は幾重もの言葉を思い描いて、まずこう問う。
『……名を聞こう』
「ん、ジードだよ。ギルドのSランク、ジード。なにか困ったことがあったら指名依頼して来てくれよな」
『……ジード…………わかった。それでは外で暴れている我が同胞達と共に帰ろう』
王竜が翼を開く。
この短時間で負傷していた部位がほとんど治っていた。さすがの治癒力とも言えよう。
こうして、今回の騒動の幕が閉ざされようとしていた。
しかし、当然まだ終わらない。
「待て、ギルドの」
ルイナだ。
臆する側近達を差し置き、自らが前に出る。
彼女自身に大した力はない。多少の教育は受けているが、精々ギルドでいうCランク程度だ。
だが、その威風はジードの足を止めるに値した。
「ジード、地位に興味ないか?」
ルイナは、ハッキリとそう言った。