元
クエナがフィールドまで降りてきたルイナを、驚いたような睨みつけるような複雑な感情で見た。
「ルイナ……!」
「おい、冒険者。この方の名前を気安く呼ぶな」
ルイナの側近がクエナを諫める。
姉妹感動の再会というわけにはいかないようだ。ルイナは一瞥たりともクエナに配らない。
ルイナがバイリアスに対して言った。
「勇者協会の男。中継を繋いでいるすべてのマジックアイテムに神都の様子を映せ」
「は、はぁ!?」
「列強と言われる神聖共和国がこうも打撃を受けている様を映せと言っている」
「こ、こんな事態を!?」
「ああ。列強と呼ばれる国がいかに脆いか……そして真に強いのがどこの国かを示してやる」
にやりとルイナが不敵に笑う。
「あんたなにを企んで……!」
「気安く呼ぶな、と言ったはずだが?」
横で身体を乗り出して迫ろうとするクエナを、側近の一人が剣を向けることで止める。
決して軽くはない圧に、ギリっとクエナが歯を食いしばる。
「クエナ、神都に強い魔力が集い出している。おそらく――軍隊だ」
「……っ。そういうこと……ね」
「ああ」
不足気味な言葉だったが、あっさりとクエナが理解した。
おそらく、今回の件はすべて帝国が企んでいたことだ。
勇者協会から選定用の竜が逃げ出したことも、適当に探していたのに王竜が見つかったことも。
あるいは、もっと深いところから根付いていたのかもしれない。
目的はルイナが口にしている『真に強い国がどこか示す』ことだろう。そのために近くに軍隊を呼び寄せていたのだ。
それが神聖共和国が許可していたことなのか、秘密裏に潜伏していたのか……
今は突然のことで知る由はない。
しかし。
それだけ分かれば十分だ。
「悪いが竜と戦闘させるわけにはいかないな」
今度は俺が横から割り込む番だった。
王竜の子供を囲もうとする側近たちの間に入りこむ。
「貴様は……?」
ルイナが口を利く。
鋭い眼光は既に王たる者のそれだ。
「ギルドの冒険者、ジードだ。今回の依頼でここの護衛を任されている」
フィールドに人差し指を向ける。
瞬時に理解したルイナが、「ふっ」と鼻で笑った。
そして、側近らがすぐに俺を取り囲む。
「悪いがギルドの雑兵は邪魔をしないでくれないか。これはウェイラ帝国の威信をかけた作戦だ」
ルイナの言葉だ。
さらに続けた。
「どうしても身体を動かしたいというのであれば彼らと戦うと良い。その中には数人ばかし先輩がいるぞ?」
「先輩?」
チラリと囲む側近たちを見る。
そのうちの一人であるバシナが余裕な笑みで俺に伝える。
「俺も元々はギルド所属だった。今は引き抜かれてウェイラ帝国にいるがな。ランクは――Sだ」
言いながらバシナが大剣を横一筋に振るう。
バックステップで下がる。
「っと」
風音が後になって続くほどの速さだ。当然破壊力も連なって高い。
シュッと衣服が大剣の先に当たっていたのか破けた。
「なるほどね」
ここにいる側近のうち数人はギルド出身のようだ。
そういう意味での『先輩』というわけだ。
「一つだけ訂正してもらおうか」
「あん?」
「あんたは――」
「ッ!!!」
足腰に力を入れて駆ける。
反動でフィールドが多少崩れたが修復可能な範囲内。依頼に支障ない。
むしろ『邪魔者』の排除を優先だ。
「――『元』Sランクだ」
迫って蹴り飛ばす。
服の分を返す意味合いも込めて力強く。
「グぃッ……!」
バシナが大剣を使って両手で止めようとするが、飛ぶ。
それも観客席まで。
残骸と共にホコリが舞う。
「やべ。これはさすがに依頼に支障あるかも」
思わず口にした。