静けさ
やることもなく会場で座って待っていると、次第に人が集まりだしていく。
公式ではないものの、やはり勇者のブランド力があるのだろう。
一般的な観客席だけでも半分は埋まりかけている。ここからさらに増えていくであろう。会場の外からも賑やかな声が聞こえる。
移動の便から階段に面する席に座っていた俺は、後ろからドンっと人にぶつかられた。
ただ力強さはない。むしろ軽いと言える。
「あわわっ、すみません!」
「ん。平気だ。怪我はないか?」
ぶつかってきた声の主を確認すると、やはり小さな子供だった。
お世辞にも綺麗とはいえないフードを目深く被っている。まだ声変わりもしていないだろうから少女か少年か分からない。ただ、なんとなく少女だろうなと思った。
手には布に入れられた細長い物を持っていた。
「はい。ありがとうございますっ」
「きょ、教祖さま。ご無事ですか?」
「うんっ、はやく行こ。できるだけ前の席に」
教祖さま?
少女の後ろからやってきた男から、そんな単語が耳を過った。
だが、なにを聞けるわけでもなく、二人は急ぎながら人気な前列を取りに行っていた。
まぁなんらかの宗教も視察的なものをしているのだろう。
実際に、もう前列にいる人らの中に、明らかに独占している枠がいくつもある。そこは奇妙なまでの団結力と連携力で場を奪っていた。
本当に色々な人が集まる場所だな。
さらに上をちらっと見ると、コロッセオの上段でガラス張りになっている、もはや個室の空間も幾つかあった。
そこには豪華な服装を身に着けた者達がいる。
さらに赤いドレスを着た凛々しい女性が豪勢な部屋に入っていく。決まっている軍服を着た集団を携えて。――あれ、クエナ?
じゃない。クエナは隣にいる。
だが似ている。瓜二つだ。
……あ。そういえばニュースで見たぞ。
まさか噂の女帝?
確認のために隣で暇そうにしているクエナに声をかける。
「クエナ、あれって」
「――! ……ルイナ」
「まじか」
クエナがギリっと歯を食いしばる。
ドンピシャ正解だったようだ。
まさか女帝さんまで見に来ているとは。そこまで大きな催しなのか。
「暴れるなよ?」
「なによ、人を暴れ馬みたいに言って」
「いや、なんか悪い縁があるみたいだから念のためだよ」
「大丈夫よ。そもそも新しい女帝になったって話だから見せつける必要もあるんでしょ。これくらい予想していたわよ」
はぁっと、ため息をついて腕を組み、椅子にもたれかかる。
この態度を見ていると女帝のルイナが、クエナが拗ねた元凶っぽい。
一瞬、女帝の方からチラっと視線がこちらに配られた気がした。クエナのことを見たのだろうか。
やはり姉妹のようだ。
なんともまあ。
本来なら選定する場所に立っていたかっただろう。
そうしたら、すでに見返せていたはずだった。
なんとも言えないむずがゆさがある。
「あっ、いた。おい! 冒険者ども!」
「ん?」
俺らを呼ぶ声。
服はコロッセオの従業員ではなく、勇者協会のそれだった。
近くまで寄ってきて、周りには聞こえないように手で遮りながら口を開いた。
「捕縛したドラゴンが暴れているんだ、あんたら手伝え!」
「なんで?」
素直に問う。
「なんでって……バイリアスさんがあんたらを使えって言ってんだよ! どうせ役に立たねえんだからここでくらい働けっての!」
「んー。あくまでも依頼は『選定場所の護衛』ってだけなんで」
「は?」
「だから捕縛をするのは依頼じゃないんで動くつもりはないです」
「いや……! これは立派な護衛だろ!」
「俺はそう思わないです。実際にここまで来て暴れているならともかく、そっちが手こずっているだけでしょう」
「ちぃ……っ! ゴミが! せっかく王竜の血統を捕まえてきたというのに……!」
捨て台詞を吐いて去っていった。
本当は手助けしても良かった。将来的にはここで暴れる可能性もあったのだから。
それでも俺が手を貸さなかったのは苛立ちがあったからだろう。
「俺は冒険者、失格かな」
「そんなことないでしょって言うわよ。じゃないと行かなかった私も失格ってことになっちゃう」
そんな会話をしながら、始まっていくイベントを眺めていた。




