試験的な依頼
「――この依頼、断ってほしいの」
この依頼。
つまり勇者パーティー候補として選ばれるであろう試験の一つを断れということだ。
クエナが付け加える。
「もちろん、依頼分の金銭は渡すわ。もちろん達成した成功金の分を」
「ほー。ギルドからの本決定じゃから今回の依頼の成功分は高いぞ。よいのか?」
俺の代わりにリフが問う。
実際に依頼書にはバカにならない金額が書かれている。
だが、クエナは迷うことなく頷いた。
「べつにこの依頼金を払う分は持っているわ。それに今まで頑張っていたのは……このためと言っても過言じゃないもの」
「ああ、そうじゃったな」
「どういうことだ?」
二人だけで進んでいく会話を止める。
しかし、俺の問いにクエナが顔を逸らした。
「ジードとシーラは無暗に話すような性格ではないじゃろうて。説明した方が断ってもらいやすくもなろう」
「……そうね」
クエナが依頼書を再確認する。
依頼内容。
禁忌の森底というSランクに指定されている巨大森林の中心部。そこに癒しの湖というどんな傷や病気も治る癒しの水がある。
その水を確保し、持ってくること。それが依頼内容だった。
最初の依頼と同じ。探知魔法と転移によって俺が最も有利に進める依頼だ。
さらに言えば禁忌の森底は幼少から少年時代まで住んでいた場所になる。癒しの湖と呼ばれる場所も把握している。
俺の勝ちは近いだろう。
だからこそ、クエナが俺に依頼を断るよう持ち掛けてきたのだ。
そのクエナが言いづらそうにしながら唇を震わせ――開いた。
「信じられないかもしれないけど、私はウェイラ帝国の皇帝の……一族よ」
「わお!」
シーラがあからさまな驚き様を見せる。
……そういえば冒険者カードで出たニュース。新しい女帝が誕生したってんですっごい顔似ていると思ったのだが、まさに家族だったのか。
「……予想以上に反応が薄いわね」
「いやいや! 驚いてるわ!」
シーラが素直な感想を残す。
ただ、俺はあまり似たような表現はできなかった。
ぶっちゃけ帝王の娘と言われてもすごさがわからない。いや、すごさは分かるが実感がないと言うべきか。
これも辺境田舎に住んでいた弊害か。
「でもでも、どうしてそんな大物が王国に? しかも冒険者だっていうのに話題にすらなってないわよね?」
シーラが尋ねた。
「私は妾の子供だったからね。しかも、ただの娼婦の。ほとんど存在はなかったことにされているし、ずっと妾の子供だからってバカにされてたわ」
「ああ、なるほど。だから見返すために」
「そうよ。Sランクか勇者にでもなれば私と母さんをバカにしていた奴らの鼻をへし折ってやれる。だからバカにされる息苦しいあの城を出たの」
クエナの拳が強く握られている。
きっと悔しい思いをしたのだろう。
「まぁそんな事情があるなら、俺は勇者なんかに興味ない。断るとまではいかなくとも、二番目以降に達成するよ。それでいいだろ?」
この依頼は一番最初に達成した者だけに報酬を払う、というものではない。
太っ腹にも達成者全員に払うのだ。
ここまでクリアしてきた人たちに対する手向け的なものだろう。
「……ありがとう。ごめんなさい」
クエナが握った拳に力を込めた。さらに強く。
彼女としても不本意な頼みだったのだろう。感謝よりも屈辱という感情が上回ったはずだ。
悔しいなら頼まなければいいのに。と思うが、それ以上に見返したいものなのだろう。
そこまで生まれた環境は人生に関わってくるものなのだ。
「えー。私はジードとパーティーになりたいから依頼受けてたのに……」
ぷくーとシーラが頬を膨らませて不満を口にした。
「パーティーくらい組んでやればよいじゃろ」
「うー。私も組んでほしいと言ったんですけど……」
「依頼を受けるペース、達成するまでの時間は今のところ問題ないからな。パーティーは考えていない」
「とのことです……」
がくっと露骨に落胆する。
「まぁ、パーティーを組む必要のある依頼とか来たら頼むよ」
「ほんと!? 楽しみにしてるからね!?」
シーラが息がかかるほどに顔を近づける。
いい匂いが鼻をくすぐる。
「ではシーラは依頼を受けないということでよいか? 正直、ギルドには騎士に適性のある者が少ない。Cランクとはいえ実力面でAランクほどはあるシーラなら勇者パーティーの候補となってしまうじゃろう」
「ええ。じゃあ依頼は受けないということで」
「ふむぅ。勇者パーティーの候補になれるのじゃから、もっとこう『やりたいです!』とかなるものじゃがなぁ……」
「うーん。興味ないので」
シーラの様子にクエナが申し訳なさそうに言った。
「依頼金の分、渡すわね」
「えっ、どうして?」
「だってジードが依頼を達成しなさそうだから放棄したのでしょ。なら私が補填しないと損したも同然じゃない」
「うーん?」
シーラが苦笑いを浮かべながら顔の側面を掻く。
困った、と言わんばかりの様子だ。
「クエナ、そういうことじゃないだろ。おまえ気負いすぎてないか?」
「……どういう意味よ」
刺々しい言葉が返ってくる。
言って、ハッとなったのかクエナが力強く瞼を閉じながら、
「ごめん」
そう言いながら部屋を出ていった。
いやな空気が流れる。
「すまんの。あれは昔っから一人で背負ってきた。それもこのために。許してやってくれ」
「ああ、わかってる。許すどころか、ギルドに来て俺はあいつに助けられることばっかりだった。今度は俺が返す番だよ」
クエナなら言うだろう。
あれは勝負の代償でやっていただけだと。
けど俺の解釈では違う。
これだけやりたいことがあっても面倒を見てくれたんだ。
その分に見合った恩返しをしたい。
「さて。依頼でも受けてきますかね」
リフから渡された依頼書を手に取る。




