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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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結婚式前日と大食い大会

 ジード達はウェイラ帝国の首都――ではなく、精霊の抗戦において活躍した準首都を結婚式の場とした。

 ルイナの時と同様に前日祭が開かれており、露店は昨日から反響を見せていた。昼だというのに、市街の方が太陽よりも明るいくらいだ。

 そんな光景をルイナは城の窓辺から見下ろしながら、部屋にいるもうひとりの女性に声をかけた。


「さすがに帝都の復旧が完璧ではないからな。まあメインの私とサブのおまえとの違いだと思ってくれ、この結婚式は」

「鬱陶しいわねえ……わざわざ言わなくてもいいでしょうが」


 それは明日の主役となる、クエナだった。

 彼女は蒸したタオルを目に置きながら顔を仰向けにして椅子に座り、予行練習の疲れを癒していた。


「いやいや、これから私に続く夫人となるのだからな。分というものを弁えてくれよ? 争いの種はごめんだからな」


 高貴な身分となれば、夫人間での格付けはされるものだ。第一夫人は誰か、第二夫人は誰か。それによって国政や外交の立場が変わってくる。

 さらに生まれてくる子供の立場も変わる。


「ウェイラ帝国を引き継ぐのはあんたの子供でいいわよ」


 一般的に第一夫人の子供が王位継承権第一位となる。国によっては男児が優先的に保持する場合もあるが、ウェイラ帝国は男女同権であるため、やはり基本的に第一夫人の子供が有利である。

 クエナはそのことについて妥協していると伝えていた。

 だが、ルイナは首を横に振る。


「それはいけない。子供の意思も尊重しなければいけないからな」

「どうせ、私の子供は興味ないと思うけどね」

「そうじゃない。私の子供が王位に興味ない場合を言っている」


 ルイナはあくまでも自分の子供が優先だった。

 クエナがタオルを軽く持ち上げて、ルイナを見る。ルイナは面白そうに笑っていて、一連の会話を真剣に語っていないことがわかる。

 クエナは目をジトっと細める。それは抗議する眼差しだった。


「明日は私のお祝いなんだから、ちょっとは気遣いなさいっての」

「今さら気遣う間柄でもないだろう」

「それもそうね。でも、そうやって憎まれ口を叩いて何になるのやら」

「こうでもしないと私は好かれてしまうからな」

「好かれてもいいじゃないのよ。愛される第一夫人サマなんて一番宮廷に良さそうなものだけどね」


 言いながら、クエナは「なんだか凄惨な宮廷劇が始まりそうな前フリね……」と思ったが喉から出ることはなかった。

 それは明日に婚礼を控えているから縁起が悪いというのもあるが、唐突に部屋が開かれて気を取られたことも原因だった。


「二人とも! 外に出ないの!?」


 入ってきたのはシーラだった。

 両手には紙皿を持っていて、口には幸せの跡が残っている。


「ほう、いい匂いだな」

「うん! 屋台のご飯だよ!」


 シーラが紙皿をルイナに向ける。

 上には美味しそうな料理の数々が乗っていた。

 大混乱にあっても食事に困っていない、良い証だ。


「なるほど、市井の食べ物か。それは美味しそうだ。クエナも行くといい」

「私は予行練習で疲れたからやめとく」

「えー! でもジードもいるよ! 今は大食い大会の準備時間中だって!」

「あの体力オバケ……」


 クエナが頬を小刻みに震わせる。

 自分が経験した予行練習を思い返して、それでも屋台を楽しんでいる――というか大会にまで出ている――男に苦笑いも出ないようだった。


「くく、仮面を付ければ正体がバレることもないだろうさ。安心して行くといい」

「あんたはどうするのよ?」

「やめておく。私は仮面を付けていてもバレそうだ」


 ルイナが優雅に髪をかき上げる。

 実際、ジードやクエナは市井の暮らしの方が長く、ルイナは宮廷での生活が多い。見る側にはひとつひとつの所作に威儀を感じられることだろう。


「じゃあ仮面を付けずに出ればいいわよ、大食い大会」

「おいおい、なんでその大食い大会とやらに出る前提なのだ」

「物は試しでしょ?」


 クエナの頭の中で「ルイナは負けず嫌いだから大食い大会で必死になるところが見たい」という意地悪な考えが浮かんでいた。

 しかし、ルイナは頑として首を縦に振らない。


「ダメだ。この後は全体の復興報告を聞かないといけないんだよ」


 こうしてクエナと語り合っている時間も、ルイナが隙間を縫って作ったものだ。

 普段からルイナは政を真面目に行っている。

 帝王がジードになってからも、それは変わらない。ジードが武力や軍事方面に注力するためでもある。

 クエナがルイナに歩み寄ってから肩を揉む。


「ちょっとくらい構わないって」


 しばらく場に沈黙の空気が流れる。

 不意にルイナの首が縦に振られる。


「そうだな。まあ一日くらいはいいかもな」

 その言葉を聞いて、クエナの口角が吊り上がる。


「よし! そうと決まればルイナを大食い大会にエントリーさせてきなさい!」

「ラジャです! シーラちゃん行ってきます!」

「名前はちゃんと変えてくるのよー!」

「あっ、おい! やめろ! 大食い大会は違うだろ!? 出ないからな、私は!」


 シーラが敬礼してから全力ダッシュで大会の開催場所にまで向かった。

 クエナの言葉が届いていたか怪しい速度だ。なおのこと、ルイナの言葉は聞こえていないだろう。


「ぷっ。もうなにを言っても遅いわよ」

「計ったな……?」

「いいじゃないの。付き合いなさい」

「疲れていたんじゃなかったのか? 明日どうなっても知らないからな」


 ルイナは正気を疑うような視線を投げかけた。

 明日は人生の分岐点と言っていいほど大事な日だ。寝不足で遅刻などあっては目もあてられない。

 しかし、当のクエナ本人はそうなっても後悔や反省すら起こさない様相だ。


「シーラに感化されたのよ。最近色々あったんだから楽しみたいじゃないの」

「やれやれ、どこにあれだけの元気を貯め込んでいるのやら」

「それは私も謎ね。ジードの方も是非とも知りたいわ」


 クエナの目標はジードと並び立つことだ。

 しかし、それも余計に難しくなってしまった。

 だからといって諦めることをクエナは知らない。本当に興味深そうに、まるで探偵のように鋭い眼で真剣に考察を始めていた。

 ふと、ルイナが口を開く。

 月が照らしているのか、市街から漏れる光か、ルイナの顔が穏やかに照らされていた。


「――おめでとう」


 穏やかな口調はどこか気恥ずかしそうだった。

 それを受ける側も思いもよらぬ言葉に目を見開いた。

 一拍置いて、クエナが返す。


「……どーも」


 それは声が小さくとも、確かに行われた掛け合いだった。



 大食い大会の会場は安価に済ませられるよう、簡易な設備に留まっていた。それでも観客は百を超える大人数であり、参加者も屈強な腹部の者たちが集まっている。


「さあ、大食い大会が始まります!」


 実況らしき男が響き渡るマイクに声をあてながら叫ぶ。

 参加者の名前が次々と呼ばれ、十個ある席に着く。


「お次は大陸中の大食い大会を荒らす怪物! その底なしの腹には大地すらも入るのではないかぁ!? ビッグイートプロ氏だぁ!!」


 呼ばれて出てきたのは大巨漢だった。

 観客から熱狂的な声が挙げられる。

 そして実況者が手にしたメモ用紙を震わせながら、声を張り上げる。


「お次はこの〝お方〟だあ! 戦闘能力は随一! 冒険者として民衆にも寄り添いながら、大陸の混乱を一手に鎮める男! その胃袋も〝王〟なのか!? ここで帝王ジードが参戦だー!!!!」


 普通ならばどよめきの方が強いだろう。

 しかし、ジードも他の参加者同様に歓迎されていた。

 実況のとおり、庶民派であることは理解されており、その立場を考えるとありえないほどに親しまれている。

 その中のひとつに黄色い歓声があった。


「きゃー! ジードーー!」

「まったく素性隠してないし……」


 赤色と黄色の仮面を装着した二人女性だった。

 クエナとシーラである。


「お次は謎の仮面L氏が参戦だー!」


 たった一言だけ添えられて、黄金色の仮面で顔上部を隠している女性が現れる。ルイナだ。下半分だけで整った顔立ちが伺える。

 佇まいのオーラから観客はただならぬ気配を感じていた。


「がんばってー!」


 シーラの応援と、クエナの「結局出るのね」という声以外に目立ったものはない。

 それから料理が運ばれてくる。


「今日の〝メインディッシュ〟は超ハイパーウルトラ高カロリーのどんぶりだあ! 下に敷き詰められた甘くて美味しいお米に、草原を駆け大岩を砕く巨躯の魔物サイポロンの肉! タレは味変のために多くの小皿が用意されています!」


 参加者の前に香しいどんぶりが用意される。

 机に置くと重々しく揺れ、自己主張の激しい存在感もあり、一部の参加者が気圧される。


「制限時間は三十分! それではさっさと始めちゃいましょうー! よーい、どん!」


 実況が手を挙げる。

 同時に劈くような音が鳴る。

 参加者が一斉に箸を持ってどんぶりをかっ喰らう。

 実況の注目は二人の人物だった。

 ひとりはビッグイートプロで、もうひとりはジードだ。


「うおー! すごい迫力だー!! 成人男性ですら一杯を平らげるのは困難だというのに、経過一分もない段階でどちらも既に半分を残すのみーー!!」


 二人の勢いは他の参加者を圧倒している。

 別の意味で圧倒している者もいた。


「なんと! 謎の仮面L氏は未だに一口程度しか食べ進めていないぞー!?」


 観客が「「おおっ」」と沸き立つ。

 どうやらハンデと捉えられているようだ。

 しかし、謎の仮面L氏――ルイナの心境は違った。


(まったく、このような催しに出るとはな)


 シーラが過剰にまで勧めるので仕方なく参加したが、ここで本気で戦ってはクエナ達の思うつぼになると考えていた。

 だから、ルイナは一杯どころか半分も食べないつもりだ。

 だが、ルイナとクエナの視線が合う。


(……最近は不甲斐ないところばかり見せているな。おまえにとって私は偉大な姉だったはずなのになあ)


 その生涯に敗北はなかった。

 姉として妹に実力を見せつけているはずだ。

 だが、最近は舐められている気がする。

 妹はもっと反抗的な目を見せていたはずじゃないか。もっと畏怖していたはずじゃないか。

 ルイナが視線を落とした。


(ふんっ、これくらい食べられないでどうする)


 ルイナの手元に力が入る。

 パキリ、と音がした。


「おっと、L氏の箸が折れたぞ~!!」

「代わりを持ってこい」

「え? 私は実況ですが……」


 配膳の役割が振られた係員がいるのに、自分に声を掛けられて実況者が目を丸くした。

 仮面のくり貫かれた目元が神々しくも威圧的に光る。


「いいから持って来い」

「は、はいー! ただいまー!!!」


 気圧された実況者が役割を投げ出して代わりの箸を急いで用意した。

 ルイナが受け取り、どんぶりを手に持って口にかきこむ。その勢いは凄まじかった。


「な、ななな、なんとー! 箸を持ち替えた途端に速度が上がったぞー!! さっきの箸は気に入らなかったようだー!」


 実況の軽快な声に観客の雰囲気がさらに一段と緩む。

 だが、クエナとシーラは驚きをもって迎えた。


「た、食べ始めたよ!」

「うそでしょ……どういう風向きよ」


 ふたりともルイナが本格的に食べ始めるとは考えてもいなかった。大食い大会に参加している場面を見られるだけで儲けもののつもりだった。

 最初のやる気のなさはどこへやら。

 小さな口に次々と肉や米が運ばれる。

 ついに一杯目を完食した。

 さらに二杯目も完食する。

 ルイナの勢いは止まらない。

 次々に参加者を追い抜いていく。


「――おっと、ここでビッグイートプロ氏がダウン!」


 優勝候補の一人はジードの勢いに合わせようとして調整をミスしてしまったようだった。顎が痙攣している。

 そうとも知らず、独走状態のジードはさらに六杯目を平らげて七杯目に手を付ける。


「うまっ、うまっ」


 杯はみるみるうちに中を減らしていく。

 ルイナもなんとか四杯目を食べきっていたが、ペースダウンは明らかだった。お腹を気にしながら苦しそうにしている。


(やはり、この私が惚れた男だな……だがな。今回ばかりは負けるわけにはいかないんだ)


 ルイナも勢いを止めない。

 すべては姉の威厳を保つため。

 だが、ルイナがジードに速度で勝ることはなかった。

 差はみるみると開かれる。

 ジードは七杯目も食べ終わりそうになり――


「ん……。俺の記録はここまでにしておいてくれ」


 突然独走状態の一位が立ち上がった。

 なにやら手元にはカードがある。


「えっ? い、いや、大会ですから途中の退場は……!」

「悪いな。転移」


 実況の制止は微塵の効果もなかった。

 ジードの姿がたちどころに消える。


「な、なんということでしょう! やはり庶民の大会などには付き合えないと――」


 突然の辞退に落胆の声があがる。

 街の角から人がやってきて声を張り上げた。


『た、大変だー! 近郊で精霊が見つかったぞー!』

『大丈夫だ! 帝王が戦闘してるってよー!』

「……さすがは帝王ジード! 民の危険を感じ取り、大会優勝の名誉を放棄してまで救いに行ったー!!」

「きゃああー! ジードー!!!」


 民衆の歓声が響き渡る。

 ひときわ大きい声が黄金色の髪の持ち主から発せられた。


「ずっと応援してるシーラはともかく、実況と観客は見事な手のひら返しね……」


 クエナが呆れたような声で困惑した。

 そして、ついに箸を動かしているのは一人だけになった。

 ルイナだ。


「おっと! 仮面L氏! 帝王ジードを越えるまであと三皿となりましたが、残り時間は七分しかないぞー!」

「くっ……だが、私は……!」


 ルイナの胃袋は悲鳴をあげている。

 汗は滝のように流れている。

 それでもルイナは五杯目を食べきった。


「これで仮面L氏がビッグイートプロ氏と並んだ! なんというダークホースだああ!」


 ルイナの前に六杯目が届けられた。

 もはや見るもイヤなどんぶりだった。

 美しい色合いの鳥が描かれているが、鶏肉を連想させて吐き気がする。

 ルイナは眩暈を催しながらも手を付ける。


「……っ」


 なにも考えない。

 美味しいとか不味いとか、そういう感覚は既になくなっている。

 ただ無心で口に入れて喉から胃に送り込む。

 これは作業だ。

 そう考えながら、ルイナは頬張り続ける。


「どうしてそこまで……」


 クエナが愕然とした口調になる。

 ルイナの苦しそうにしている姿を見て、誘ったことや勧めたことを後悔してしまうほどだった。

 シーラがクエナの手を握る。

 真を見つけたような目でシーラが言う。


「きっと、どんぶりが好きなんだよ。また作ってあげたいねっ」

「絶対違うと思う」


 さすがのクエナもシーラが間違っていることはわかった。

 不意にルイナが大きく揺れた。

 仮面の紐は水分を吸い取り、重たくなって緩んでいる。

 衝撃で仮面が外れた。


「「「ル、ルル、ルイナ様ァ!!!???」」」


 ルイナは実力主義で身分の差異を問わない。

 しかし、それだけ実力を見せる機会のない一般的な人々と交流を持つことは少なく、あっても厳重な体制で数分程度しか用意されない謁見のみである。

 その謁見も選ばれた代表だけだ。

 実況や観客の震撼は激しく、思わず膝を地面に付いてしまう人々まで現れるくらいだった。

 ルイナは顔に触れて、仮面が外れたことを確認する。


「ふっ……」


 口を三日月の形にして、ルイナは不敵に笑う。

 地面に落ちた仮面を見て、すぐにどんぶりに視線を戻す。


(勝つ。それだけだ)


 ルイナの箸は止まらない。

 たかだか正体がバレたくらいで、ルイナの気持ちは押し負けない。

 半分、さらに半分、半分……

 目の前の勝利を信じて疑わない。

 身体の節々が悲鳴を挙げている。

 ついに。


「仮面L氏……いや、ルイナ様の記録がビッグイートプロ氏を越えたー! 帝王ジードは七皿目の途中で終えたので、記録は六皿となっています! なので仮面L氏……いえ、ルイナ様の優勝まであと一皿だーー!!」


 限界はとうに超えている。

 不意に観客の一人が声をかける。


「お、おい実況! 今のところルイナ様とジード様の同列一位だよな!?」

「はっ、はい、そのとおりですが」

「じゃあここで終わったら優勝はどうなるんだ!」

「え、えーとぉ。ルールでは両者が表彰されるはずですが……」

「でも帝王はいないぞ?」

「あっ……まあ放棄ということでもあるので……」


 実況の歯切れが悪い。

 進行に影響が出ることを恐れているのだ。

 だが、観客にそんなことは関係ない。

 さらに女性が続けて尋ねた。


「それってもうルイナ様の優勝でいいってこと!?」

「うっ……まあ、はい」

「なら無理をしないで、ルイナ様ー!」


 感情の昂ぶりをそのまま口にする。

 それは純粋な心配と応援の気持ちだった。

 だが、ルイナにとっては一連の会話こそ挑発であり、背中を押すものだった。


「私は負けない。引き分けもない」


 苦しそうな表情とは裏腹に力強い言葉だった。

 ルイナの視線がどんぶりにいき、一気に食べ始める。


「おっ、おおっと!? ここでルイナ様がラストスパートに出るー! しかし、残り時間はわずかだぞー!」


 実況が職務を全うする。

 観客は息を呑んで見守っている。

 それからさらに食べ、食べ、


「残り五秒……四、三、二、一、終了です!!! 係員は確認をお願いします!」


 ルイナが箸を置いて、どんぶりを見せた。

 中は空だった。


「は、七杯目も完食されています!」

「文句なしー!! ルイナ様の逆転優勝だあああーーー!!!」

「「「うおおおおお!!!」」」


 拍手や歓呼の渦が沸き上がる。

 惜しみない賞賛の言葉と共に、ルイナはよろよろと立ち上がった。

 しかし、がくりと姿勢を崩す。

 その肩を抱きとめたのはクエナだった。


「やるじゃないの」

「だれに物を言っている」


 クエナとルイナは視線を交わす。

 それだけで互いの想いを感じ取っていた。

 実況が叫ぶ。


「それではこの後は授賞式が開かれますー! 『予選』優勝はルイナ・ウェイラ様です! 本選は婚礼の翌日に開かれますので、どうぞ皆さまご来訪くださーい!!」

「……は? 予選?」


 ルイナが思わず実況の方を見る。

 観客の熱のある視線が痛く刺さる。


「がんばってください~!」

「応援しています!」

「ルイナ様がここまで親しみのあるお方だとは知りませんでした!!」

「本選も必ず行きます!」


 クエナが横で「ぷっ」失笑する。


「が、がんばってね」

「応援してるよぅ~!」


 クエナとシーラも容赦がなかった。

 ルイナは半ばやけくそになりながら空に叫んだ。


「ああ、もう! かかってこい!」


 今まで冷たい女性だと思われていた元女帝ルイナだが、この大会を機に民衆との距離感を一気に狭めていった。

 民衆からの貢ぎ物は増えて王城から食料が不足することはなかった。それはシーラが調理することも多かったが、基本的に必要な場所に再運搬された。


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