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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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未来の俺

 翌日。

 エルフの里は深い森林地帯にある。

 人影がない場所も、当然ある。


 俺、リフ、ネリム、そしてソリアの四人はエルフの里から離れて逆召喚を行うことになった。

 初の試みだから、どのような被害が生まれるともわからない。

 リフも「魔法は失敗するやもしれん」と言っていた。研究と開発は多くの失敗を重ねて成功に辿り着くそうだ。


 とはいえ、あのリフのやることだ。不思議と魔法が失敗することはないと思った。

 それ以上に怖いのは逆召喚によって通じた精霊界の怪物たちが押し寄せてくることだった。

 だから俺達は人里から離れた遠い場所で逆召喚を行う。もちろん、俺の探知魔法も発動済みだ。


「逆召喚は時間をかけん。わらわが魔法を行使した瞬間に精霊界に飛ばされるはずじゃて。そうなれば戦闘はすぐに始まると思った方がよい」


 一同が頷く。

 この手の話は事前に聞かされていた。

 全員が不満もなければ疑問もない。

 それらはすでに話し合いによって解消されている。


「とっとと始めましょ。私はいつでも構わないわよ」

「くく、自信満々じゃのう。よかろう、では行くぞ」


 リフが両手を地面に向ける。

 小さな風が舞う。

 人影どころか魔物の気配すらなかった場所から、小枝を踏み抜く音がした。


「いよいよ決戦か」


 男性だ。

 なんだか見たことのある顔をしている。


「およ? お主は未来のジードではないか?」


 リフが顎に手を当てて、突然の来訪者の正体を言う。

 未来の俺?


「久しぶりだな。そして、この時代の俺とは初めまして」

「お、おお……初めまして……」


 変な感覚だ。

 未来の俺と会うってのは、故郷のやつらと久しぶりに会うような感覚に似ている。色々と話したいことがあるけど、どれから口にするべきなのだろう、とか考えてしまう。

 元気しているかなぁ、ベアウルフとかゴブリンとか。


「あれ? 十年後を召喚する魔法使ってませんよね?」


 ソリアがそんな問いかけをする。

 そういえばそうだ。十年後の俺がいるということは、現代の俺がここにいるのはおかしい。いや、おかしくはないのか。


「時空を越える魔法は編み出しているからな。激励に来たんだよ」

「ほう、激励か。わざわざご苦労なことじゃのう」


 リフが未来の俺に言う。

 どこか、わざとらしい言い方だ。


「やっぱり見抜かれてるか。いや、別にプレッシャーをかけるつもりはなかったんだがな」


 未来の俺が後ろ髪を撫でながら、続ける。

 ギラリと鋭い目で物々しい雰囲気が場を覆った。


「――おまえらがアステアに負けた時のために来たんだ」


 たしかにそれはプレッシャーになる言葉だった。

 でも、それ以上に俺が気になったのは、未来の俺のどこか切羽詰まったような顔つきだ。


「ふむ。つまり保険というわけか。それならば顔を出さなくても良いじゃろうに」

「俺もあんまり顔を出そうとは思わなかった。でもさ、言っていいのかな。時空を越える魔法ってのは無限の可能性を見るってことでもあって……」


 なんだか難しい話でそれ以上は理解できなかった。

 だが、最後に未来の俺が口にしたことだけは、否応なしに頭に叩き込まれた。


「……俺はちょうど十年前のおまえ達だけを見ているわけじゃない。つまりな。直近の未来のおまえらも見てきているわけだ。そこで連続して負けてるからさ。顔を出しておこうかなって思ったんだ」

「かっかっか、まるで脅すようじゃのう」


 リフが軽妙な口調で誤魔化す。

 だが、俺達はたしかに感じている。肩が重たい。

 連続して負けている。


 最悪のケースを想像して吐き気すら催す。

 未来の俺は意図しているのだろうか。あるいは気づいているのだろうか。俺達に辛い言葉を投げかけていることに。いいや、違う。きっと……

――彼の負担がそれほど大きいということなのだろう。


 俺達に気を遣う余裕すらないのだ。

 ああ、きっと未来の俺は……

 話を変えるようにして、笑みを浮かべる。


「未来を変えてしまうなら答えなくてもいいんだけど、アステア討伐にあたってヒントとかないのか? 精霊の弱点とかさ」


 軽口のようなつもりだった。

 怒られてしまうと思った。

 だが、未来の俺はあっさりと口を開く。


「そうだな。擬態する精霊とかいるから気をつけろ。探知魔法にもかからないんだが、皮膚の形状変化と硬質化で鋭利な刃物を身体のどこにでも作り出せて、さらに速度もある。しかも、最初に治癒のソリアを狙ってくる知能だ」


 初めて聞く。随分と凶悪そうな精霊だ。

 アステアによる大陸侵攻で、事前に強い精霊の情報は集まっているはずだった。しかし、それでも隠し玉は多くあるということか。

 探知魔法にかからないなら、かなり無差別に攻撃を行わないといけないのだろうか。俺の魔力は無尽蔵と言ってもいいが、リフの魔力変換はもう限られている。あまり無理はさせたくない。


「とても怖いですが、未来のジードさんがいるのなら安心ですね」


 ソリアが言う。

 たしかに、そうだ。

 未来の俺がいるから……大丈夫なはずだ。


「ああ、でも頑張れよ。俺はできるだけ干渉したくないからな。それに他の世界も見張る必要がある」


 どうやら未来の俺は途方もない過労に明け暮れているようだ。あまり迷惑をかけないためにも頑張らなくてはいけないな。

 ネリムが腕を組みながらつま先で何度も地面を叩いている。


「話は終わった? さっさと行きましょうよ」

「うむ、そうじゃの。全員並べ」


 ネリム、俺、ソリアの順番で立つ。

 リフが俺達の前に立ちながら手をかざす。

 ソリアが横で口を開いた。


「ジードさん、帰ったらお話があります」

「?」

「言いたいことがあるならここで言った方が後悔はなくて楽よ」


 ネリムが語気に力を込める。

 俺では想像もつかないくらい、ネリムは多くの人と死別しているはずだ。

 そういった人生経験から、なにか思うところがあるのだろう。


「いえ、ジードさんが好きなのは伝わっていると思うので後悔はありません! あくまでもアステアを倒した後の話ですから!」

「そ、そう……」


 ネリムがソリアに気圧されている。

 かくいう俺も照れて言葉に詰まってしまった。

 なんだかピクニックに行くような雰囲気だ。

 それもこれも未来の俺がいるおかげか。


「行くぞ!」


 リフの掛け声で気を取り直す。

 視界が明転した。


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