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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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よかった

 案の定というべきか、まあ予想はしていたけど結婚式は台無しになった。


 そりゃ戦争してるのに開くものかなとは思っていたけど……


 とはいえ、誓いの儀式は済んでいるし、仕切り直しということはない。その代わりに大々的なパーティーが催され、改めてルイナとの結婚が広まった。


「ご苦労様じゃったの」


 リフがギルドマスター室の高さを随分と調整された椅子に座りながら言う。


「リフやルイナほどじゃないよ」


「かっか。わらわ達が手こずっていたレ・エゴンを捕まえたのじゃ。謙遜するでない」


「今回の主犯だっけ」


「うむ。とはいえ、所詮は小物じゃ。『アステアの徒』でも大して目立っていなかったから活かしておったんじゃがの~」


「活かしておいて良かったのか?」


 ふと、そんな疑問が浮かぶ。


 殺しておけばこんなことにはならなかったかもしれない。あの不快な言葉を聞いてからだと、どうしても敵意が湧かずにはいられない。


「くく。では、スフィはどうするかの」


「それは……」


「今回もそうじゃの。フィフについては不問にした。そもそも表立った活動はしておらなんだが、それでも裏で操っていたのはたしかであるにも関わらず、じゃよ」


「ウィーグの妹だっけ」


 結局、王位はウィーグに戻りそうだとか。


「うむ。アステアによって影響を受けていた人物の罪を測ることなど難しい。もちろん、それだけで収まるなら良いが、償わせる必要もある。それが大陸のためならば奉仕させ、個人のためならば……」


 リフはあえて言い切らなかったのだと思った。


 それは恐らく俺のためだ。


 俺のことを慈母のような目で見てくる。


「なぁ、リフ。この対アステアの戦争についてどう思う?」


「これはもう生存競争かの。人族らが生きるために必要な戦いじゃ」


「そうだな。俺もそう思う。でも、それ以上に……なんだろうな。なんだかワガママな気がしてきたよ」


「かかか! そうじゃの。ワガママでもあると思うぞ。生きたい、自由になりたい、そういう願いもあるからの。生きるということはワガママでもあるじゃろう」


「そこでいうと、こうやって人の命を危険にさらすのは……どうなんだろうって、思うようになってきたんだ」


 それはもうひとりの自分と向き合って得た言葉なのかもしれない。


 命を奪う行為が普通になっていく。


 そんな麻痺した感覚を否定したい。


 でも、今回の件とリンクして、俺は戦争という行為自体をなんとか止めたいと考えてきた。


「では黙ってアステアに従うかの?」


 そう突き付けられると、俺は頷けなかった。


「わかっているんだ。ただ、そうやって否定することもワガママだ」


「うむ。もうこの戦争はお主かアステアが死ぬまで終わることはないじゃろう。わらわがそのためにお主をバックアップしておる」


「俺? リフじゃないのか?」


「いいや、キーマンはジードじゃよ。それはアステアの動向を見るかぎり、わかる」


「……そう、なのか?」


 得心はいかなかった。


 今だってアステアの影響を抑えているのはリフの技術によるものだろう。


 ギルドや、その連携だってリフが構築したものだ。


「ジードよ、わらわは天才じゃ」


「う、うん。まあ、それは知ってるけどさ」


 いきなり言われて戸惑う。


「アステアも天才じゃ」


「……?」


「アステアは神なんかではない。おそらく、ただの人間じゃよ」


「え?」


「わらわの技術が通じておるということは、アステアは全知全能の力を持っているわけではないと思う。おそらく、わらわ達が通るであろう道の先を言っておるのじゃ。それゆえに、持ちえない力を必要としておる。それがお主じゃよ」


 フィフの言っていたことに合点がいく。


 アステアが俺を求めている理由。


「だから、俺に突破口があるってことか?」


「うむ。ゆえに、もしもワガママを通したくなければ、自らの灯を消すが良い」


 言われて、一瞬だけドキリとした。


 そんな発想になったことがなかったからだ。


 今まで生きるのに精いっぱいで、逆の考えに至ることはなかった。


 だから、なのだろうか。


 すこしだけ涙が流れた。


「ちょっと安心した。逃げる場所があるって思うとさ」


 それは情けない言葉だった。


 リフが歩み寄ってくる。


 それから浮かび上がって俺よりも高くを飛んでいた。


 なにをするのだろう、と思っていると。


 ぎゅっと俺の顔を胸に埋めた。


「今まで気苦労をかけたの。これからも掛けてしまうの。それでも、逝く時は一緒に逝ってやろう。それがわらわにできる責任の果たし方じゃからの」


 ああ。


 感じたことのない温もりだ。


 母親がいるのなら、きっとこんな感じなのかもしれない。


「リフも……大変だろ……」


「わらわは大人じゃからの。お主の何倍も生きておるからの」


「それでも、大変じゃないのか……」


 今度は俺の方からリフの背中に手をあてて、力をこめる。


 リフの鼓動が聞こえるほどに。


「お主は希望じゃったのよ。アステアと戦うにはどうすれば良いか、考えて考えて。お主が現れた。それだけでわらわは救われておる。人はワガママで生きておるが、互いに助け合って生きておる。わらわにとって、おまえは人の象徴のようなものじゃよ」


「なんだか責任、増えた気がするよ」


「そうじゃの。お主の肩にある大陸全ての重みに、ほんの少しだけの」


 リフの温もりを感じながら、アステアとの戦いが近いと、そんな予感があった。




 不意にギルドマスター室がノックされる。


 リフが入室の許可を出す。


 ちょっと待て。


 俺はリフに抱きかかえられたままだ。


 入ってきた影は二つ。


 そのうちの一つが慌てた様子を見せる。


「あ、兄貴! さっそく不倫はまずいでしょ!?」


「ウィーグ……いや、これは違くて……」


「なにが違うのじゃ? わらわの気持ちをもてあそんだのか?」


「いやいや、勘弁してくれよ……!?」


 リフまで酔狂に乗ってきた。


 これでは本当にルイナにどやされてしまうではないか。


「あら、いいではありませんか。もしも刺激が欲しくなれば、是非スティルビーツに来てください」


「フィ、フィフ!?」


 ウィーグの隣にいた少女が大胆な発言をする。


「かっかっか! これは聞いてはいけないことを聞いてしまったかの!」


「いえいえ、この様子だとリフ様もギルドの本拠をスティルビーツに構えると良いかもしれませんよ」


「怖いのお。スティルビーツとギルドで手を組むと言っておるのか」


「私とリフ様が、ですよ」


「恩赦を受けたにも関わらず、とんでもない提案をしてくるではないか。怖いのじゃ」


 先日まで敵同士だったのに険悪なムードは一切ない。


 彼女らの指示でどれだけの犠牲が積みあがったのか想像すると、それは……あまりにも酷な話に思えてきた。


 きっと、だから、彼女達は心の中の剣を見せないのかもしれない。


「ところで、ウィーグ達はどうしてここにいるんだ?」


「護衛が必要でして。俺がいきなり国王になったものだから、宮廷や周辺の国々も大慌てでしてね」


「ああ、戴冠の儀式とかの見回りとかか?」


「それもありますけどね。フィフはしばらく外国に預けることになりまして。本人の主張でクゼーラがいいかなってことになっていましてね」


「スティルビーツの近衛騎士が守ってくれるという話もあったのですが、なにかと私は動いていましたから……もっと信頼できる方が良いと思いまして」


 フィフが上目遣いでこちらを見てくる。


 ……指名依頼ということなのだろうか。


「あいにくだが、俺は忙しくてな。それにルイナと結婚したからウェイラ帝国に移らなければいけないんだ」


「えっ、もう移るんですか……!?」


「ああ、悪いな」


「ぐぬぬ……見当が外れました。仕方ありません。私もウェイラ帝国に……」


「おいおい、また妹に暴れられたら困るんだが」


「ご安心ください。お兄様のバックアップもちゃんとしますから!」


「元気で何よりだよ……」


 ウィーグはちょっと疲れた様子だった。


 まぁ、でも。


 なんだかんだ、ウィーグ達の関係が戻ったみたいで良かった。


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