長い2
目を覚ますと、特別な気配に包まれていた。
帝都中が騒がしく、王城の中も慌ただしくも浮かれている。
「ジード様、おはようございます」
朝支度を終えると老齢の執事が部屋に入った。
「ああ、おはよう」
「朝食の用意が住んでおります。今日はルイナ様とお二人だけでお楽しみください」
「わかった」
王城に来てからはクエナやシーラも供にしていたが、今日は特別なんだろう。
それから長い机に豪華な食器が並べられ、俺には正直わからない芸術と綺麗なメイドたちに囲まれていた。
俺の舌を試してくる破格の食事は初日だけで、今は日ごとにグレードアップされていく『庶民』のご飯が俺に気品を叩き込んでくる。
(本当はこんな柔軟に変えることはないって言われたっけか)
調理場では毒見などもある。
そのため、いきなり食材――もとい、流通ルートを変えることは難しい。
だが、それができるのがウェイラ帝国のキッチンであり、調理を行う者達の実力なのだという。
それも、ルイナによる実力主義と賢帝を思わせる目によるものだとか。
目の前で気品よく食事している女性がどれだけ凄いのか、朝の風景だけでもわかるというものだ。
この人が俺と結婚するのか。
「ジード、今日は緊張しているか?」
「実はちょっとだけ……あまりこういうの慣れてなくて」
「まあ慣れておけ。これからパーティーは多くなる」
それは客人の立場としても増えていくという意味だろう。
今日で俺は帝王となる。
とはいえ、冒険者としての立場も大事だとわかってくれているだろうから、パーティーとかに時間を取ろうとは考えないはずで……
そもそも、ルイナは俺を手札だと考えているのなら、もったいぶるだろうから……
(あれ、そういえばウェイラ帝国の帝王が冒険者で依頼を受けるってどうなんだ……? いや、俺としては立場とかどうでもいいけど……依頼者とかどう思うんだろう……)
朝から柔らかくて甘いパンを頬張りながら、そんなことを悩む。
(ああ、シーラやクエナの作ったご飯が食べたい……)
ここの食事はもちろん美味しい。
とびっきり美味しい。
そりゃそうだろう。
しかし、つい変な悩みを抱えてしまう。
俺の胃は彼女たちに支配されているのだ。
いわゆる、家庭の味というやつなのかもしれない。
「ルイナ様、ご報告に参りました」
「イラツか」
黒い髪に青い目をした中年が入ってくる。
荘厳な見た目に相応しい軍服と勲章を着飾っていた。
実力もかなりの手練れだとわかる。
不意に視線を交わす。
「! ジード……様もいらっしゃいましたか」
「はは、もう警戒する必要はない。イラツ」
「あれ、どこかで会ったっけ……?」
「何度か打ち負かされております。実戦でも、精神面でも」
「そりゃ、その……悪かった……」
なんだろう。
これから身内になるのに気まずいな。
しかも覚えていなかったなんて最悪だ。
いや、元Sランクの冒険者の人とかなら覚えているんだけどさ……
あれ、そういえば彼の名前なんだっけ……?
「気にする必要はない。イラツも武人だからな。私の父の代から仕えてくれている。なによりアイバフ家はウェイラ帝国の建国からの重鎮だ」
「そのとおりです、どうぞお気になさらず。帝王陛下」
随分と畏まっている。
いや、これが臣下というやつなのか。
所作もすごく洗礼されている。
「ふふ、ジードはまだ帝王ではない。今日の結婚式と私の引退式を行ってから、ようやく帝王となるのだ」
「はは、そうでしたな。私としたことが気を急いてしまいました」
引退式。
そこでルイナは女帝をやめるのだ。
女帝は結婚ができないというのがウェイラ帝国の決まりで、空の帝位に俺を即位させ、ルイナが配偶者となる。
この状況に賛同するよう世論を誘導するためにかなり無理をしたらしい。
まあ、政治は引き続きルイナがやるからあまり変わらない。
……と、この結婚式をやる前に色々と教鞭してもらった。
忙しかったのはこのためだ。
「それで、報告は?」
「はっ、戦争の用意が進められているようです」
「やはり動くか」
イラツの言葉にルイナが頷く。
複合軍の件だろう。
先日のフィフとの会話を思い出す。
やはり、ルイナ達は随分と把握しているようだ。
「こちらも応戦の用意は整っております」
「ああ、頼んだぞ」
ルイナが言うとイラツが会釈して退出する。
もう邪魔をしても良さそうなので尋ねてみる。
「なにかあったのか?」
「私たちの結婚式を邪魔しようと企んでいる者達がいるみたいだ。けど気にするな。おまえは堂々と座っていればいい」
「わかった」
フィフのことを思い出しながら、俺は首を上下に振ってみせた。
◆
婚儀の日、帝都の空も祝っているような明るさで晴れ渡っていた。
ウェイラ帝国女帝の婚儀だけに、式典に参列したのは、500人を超える王侯貴族ならびに各界のトップたち。
王城に複数ある中でも、もっとも巨大な中庭は、今日だけは普段よりもさらに彩られていた。
バージンロードを、少女二人を先頭に、婚儀の参加者が息を呑むほど美しい女性が歩く。
女性――ルイナは赤いシルクのローブ・デコルテをまとっている。女帝と称されるには若い美女は、誰をも魅了した。何よりも驚いたのはジードである。
司祭ソリアが儀礼的な文言を並べ終えると、ジードとルイナは一生の契約に言葉で同意した。
ジードが包まれたベールを繊細に上げると、ルイナの美しさに胸のときめきを感じざるをえなかった。
二度目になる口付けに、ジードの脳はとろけそうになる。
パーティーが始まる。最高の料理人が揃った会場で大勢が舌鼓を打っている。
例にならって人々が挨拶に来る。
「いやー、以前は依頼を受けていただいてありがとうございました。おかげで国を乱していた魔物はめっきり顔を見せなくなって……」
「是非ジード様には我々鍛冶大国のお力を見せたく。つきましては我が国最高の槍を差し上げたいのですが……」
ジードは中々居づらそうにしながら、それでも強かに卓に並べられた食事に手を付けている。
そしてフィフの番になる。
だが、彼女が口を開くよりも先に、ルイナの側近が慌てて近寄る。
「戦争の決着がつきました」
「はやいじゃないか。それでどうなった?」
側近の言葉にフィフも釘付けになっていた。
隣にいるジードも静かに聞いている。
「はい、全てが狂いました。未知の技術により、相手側の総勢三万の軍勢が転移を行い、帝都近辺のエクソワール平原まで至りました」
ここでいう未知の技術はふたつあった。
ひとつは大規模な転移だ。
転移は高度な魔法であり、消費する魔力量も尋常ではない。
大陸で三万もの数を一斉に転移させる荒業を行使できる者は0だ。それができるのは女神アステアが背後にいるからに他ならない。
そしてもうひとつは帝都近辺にまで転移したこと。
ウェイラ帝国は通常、警戒に値すると判断した戦争には全力をもって執り行う。
婚礼の日を狙い澄ましたように起きたこの戦争も例外ではなかった。
そのため帝都近辺には対魔法用の陣が組まれており、軍用の魔法でさえ行使できないよう仕組まれていた。
特に防戦となると一切の魔法を無効化するほどの強力なはずだった。
この報告では、それが突破されていることになる。
ジードの頭に敗北の文字が過る。
(やばいのか?)
フィフが勝ち誇った顔をする。
だが、ルイナの表情は泰然自若としていた。
「もったいぶるな。結末はわが軍の勝ちなのだろう」
「もちろんでございます。帝都の防衛にあたっていたイラツ様をはじめ、精鋭一万が敵軍を封じ込めました。また二度目の転移は叶わなかったようで、戦場で散り散りになった兵を含めると二万弱が捕虜になっております」
一万対三万で勝利をする。
完全な奇襲を受けた状況でもこれができる。
だからこそ、ウェイラ帝国は人族でも最強の国家となったのだ。
その国家の軍勢を打ち破れる人族は、一人しかいないだろう。
「たかだか三万でどうするのかと思えば、アステアの奇策頼りだったわけだ。それもたいしたことないな」
ルイナの視線が、立ち尽くしているフィフに向く。
「それで、はなから勝ち目のない戦いだとは思わなかったのか? 目的はなんだ?」
「き、気づいていたのですか……!」
「変な話だな。気づくように仕向けていたのではないのか? だとするとあまりにも杜撰だな。アステアの力で上に立ち、アステアの力で扇動し、アステアの力で……戦争を有利に進められると思ったのか?」
「なんっ……」
「ただアステアの駒として流されるまま働いただけだ。これならば生粋の駒だったロイターの方が幾分か怖かったな。『アステアの徒』並みの敵との戦争を想定していた私がバカみたいじゃないか」
ルイナが退屈そうに欠伸を漏らす。
「か、勝ちを信じていたのですか」
「ここにいる人間が戦争の勃発を知らないとでも思っているのか。パーティーの参加者はおまえを除いて我ら帝国の勝利を信じている。だからこうして楽しんでいるのだろう」
言われて、フィフは握り拳を作った。
ジードにまで届く、ぎゅっという音。
「ここで負けておいた方がよかったですよ」
それは苦し紛れの言葉だった。
「なぜ?」
「相手は神です! 我々が勝てる相手ではありません!」
「いいや、すでに二回勝っている。どちらも相手は駒だったわけだがな。それに神だからといって諦める理由にはならないな。本当に万能ならこんな火種を起こす必要もないだろう」
フィフが脱力する。
それから両手で顔を覆い隠す。
しばらくして、
「……はぁ、負けです。ふふ、私にはお城で裁縫をするのがお似合いですね。ずっと怖いことばかりでした。震えも隠せてませんでしたかね」
小さな微笑みを浮かべていた。
「いいや、頑張っていたさ。前に何度かパーティー会場で見かけたが、大人しいあの頃よりは立派にやれていたさ。私は大人しい方が好みだったが」
「私も昔の方が性に合っているので、そう言ってもらえると嬉しいです」
ルイナが指を立ててフィフを見据える。
真剣な面持ちだった。
「ひとつ聞きたいことがある。どうしてアステアに従って戦った? 兄を蹴落としてまで、おまえにやれると思ったのか?」
それは今後、アステアの影響を受けた人物の行動に関するヒントになることだった。
最悪、答えられないとまで考えている。
だが、フィフはあっさりと口を開いた。悩む素振りすらない。
「そそのかされたんです。私が人を操れていたのには理由があって、アステア様の目は世界にあまねく届きます。だれかが人に言えない悪いことをすれば弱点になりますよね。スティルビーツの将軍はさる高貴な方と浮気をしていて、宰相は親縁の方が家族諸共極刑になる大事件をもみ消していました」
フィフはそこを利用して、兄のウィーグを蹴落とした。
そうやって女王となってみせたのだ。
レ・エゴンの動向を知りえたのも、アステアの目があったからこそ。
ウェイラ帝国の目をかいくぐったように見えたのも――実際に一部は本当にかいぐくっていたが――同じ理由だ。
「はははっ、おもしろいな。しかし、言っても良かったのか? スティルビーツの弱点になるぞ?」
「ええ、いずれ片付けようと思っていたことですから。後のことは任せます。きっと、ジードさんもそれが望みだったでしょうから」
「んぐ?」
ジードがご飯をハムスターのように食べながら、急に話を振られたことで顔を向けた。しかし、話をほとんど聞いていなかったので返事は曖昧だった。
「むしろ、後々になって処理を頼もうとしていたように見えるな。それだけ情報を整理しているとなると。スティルビーツの本軍も動いていないようだしな。まだなにか隠しているのか?」
今回の3万人もの数はレ・エゴン配下の者ばかり。つまり盗賊や『アステアの徒』の下についていた組織などの烏合の衆だった。一部国家に属する軍隊もいたが、複合軍の顔になるほどではない。
「なにも隠していません。勝機があればスティルビーツの軍隊を動かすつもりでしたけど、完敗ですからね。無用な犠牲は払いたくありません」
「……その言い方は」
「ええ、悪事を働いた人達を使っても結局浄化されますから」
さしものルイナもこの時ばかりは肝を冷やした。
一瞬だけ言葉に悩んでから、不敵に頬を緩めた。
「恐ろしい女だ。訂正しよう。一歩違えば、おまえは私になっていただろう。いいや、今からでも遅くはない。こちらの世界の方が向いているぞ」
ルイナが純粋に褒める。
自分には関係ないと食事を進めていたジードも視線を向けたほどだ。
だが、フィフは首を左右に振ってみせた。
「いいえ、やめておきましょう。あとはルイナ様に任せます」
「私を信じるのか?」
「ええ」
迷わずに肯定してみせた少女をルイナは痛く気に入ったようだった。
「ふっ、そうか……それで言うとジードの弱点でも見つけられるとそちらに有利だったのにな」
「ジードさんは特別だそうで、近くにいる方を見ることさえムリなんだそうです」
「そこにアステアが欲している理由がありそうだな」
「そうかもしれませんね。そこまでは聞いていませんでした。あちらの都合でしか喋ることが叶いませんから」
「そうなのか? 私はおまえを伝言係にでもできないかと考えていたのだがな」
「むりでしょうね。アステア様にとってもう私は失敗した駒ですから、連絡をとってくることもないでしょう」
残念そうにしながら、ルイナは話を変える。
「しかし、肝心なことを聞けていないな。おまえがそそのかされた理由はなんなのだ? アステアに弱みも握られていたんだろう?」
「そういうわけではありませんが……ふふ、乙女の秘密ですけど、今回は特別です。あなたが我が国に攻め入ったことを覚えていますか」
「もちろんだとも。恨んでいるのか?」
「いいえ、恨みよりも強烈な思い出があるのです。たった一人で大軍勢を跳ね返した方の思い出が」
「ほう、それは随分と良い男なのだろうな」
察したルイナが笑む。
今日、一生を誓った男が褒められたのだ。
跳ね返された大軍勢の長だとしても、自分のことのように嬉しい気持ちがある。
「はい。そのお方の勇姿に憧れて、私が行動を起こしてしまうくらいに。その人と肩を並べられるんじゃないか、私のような小心者で城から出たことのないような小娘でも、と」
「はは、妬けるじゃないか。そうやってそそのかされてしまうくらい、焦がれたか」
当の本人は話がよく分かっておらず、皿に盛り付けられたステーキを頬張っていた。
あの戦場では救いたい人を救い、敵だった女性からキスをされた。
印象的な出来事は決して、他人から見たものと一致するとは限らないようだ。
――不意に。
フィフの身体が強く発光した。
ジードが魔力の大きな波を感じる。
「危ない、ルイナ!」
ジードが即座にルイナを庇ったのは良い判断だった。
衝撃と共にジードとルイナが宙を舞う。
『キョゲェェェエェッッッ!!!!』
絶叫は帝都中を包んだ。
その声以上に強大な魔力は辺り一帯を震わせた。
サイズは空を覆い隠すほどであり、体は一つ目の球体状。青紫色の六つの手を器用に使っている。口は目よりも大きい。
参列者は一瞬で危機を理解して、口々に「逃げろ!」と叫んだ。
化け物の下にはフィフがいた。
魔力が枯渇した状態でひどい顔になりながら辺りを見回している。
「これ……は……精霊……? アステア様が私に……埋め込んだ……?」
精霊。
フィガナモス。
それは大陸には一度も出現したことのない、『禁忌の森底』の主を超す怪物だった。
フィガナモスが最初に目を付けたのはフィフだった。
手で踏みつぶそうとするが如く。
フィフのいた近くで煙が広がる。
手の動きを追えた者は会場では少数だ。
だが、手は止められていた。
ウィーグ・スティルビーツ。
衝撃で両手は折れながらも身体全体で受け止め、鼻や口からは血が流れていた。
ウィーグはAランクの冒険者であり、実力は大陸で上位に入る。だが、それでもたったの一撃を止められただけでまさに奇跡ともいえた。
「フィ……フ……だ……大丈夫か」
「ウィーグお兄さま……!」
それは素晴らしい兄妹愛といえる。血みどろの争いになることの多い王族間では珍しいものだ。
だが、二撃目はない。
フィガナモスの手が横から襲来する。
それを影の魔法で受けたのはユイだった。
今日は戦争には参加せず、ルイナの護衛として立っていた。
だが、彼女もフィガナモスの手によって王城の部屋にいくつもの穴を開けながら吹き飛ばされた。
ほかにもウェイラ帝国で精鋭と言われるような武人が王城を護っていた。
だが、彼らも一瞬で意識を削られる。
「ちょっと鎮まりなさい、化け物!」
最初にフィガナモスに一撃を入れたのは客人として招かれたクエナだった。次にシーラだ。
だが、結果はかすり傷すら付けられていない。
フィガナモスの目がクエナ達に向けられる。
そんな時に声が届いた。
「参加者や非戦闘員の転移完了させたのじゃ」
「ったく、めんどーなことに巻き込まれたわね」
「こんな時にフィルがいれば……みなさん、回復します!」
リフとネリムが転移を済ませ、ソリアが回復を終わらせていた。
フィガナモスの足元にいたウィーグを含めて一切の損傷は癒えている。フィフとウィーグはリフによって転移させられた。
『キュァァァァァァァァァァァアッッッッッ!!!!』
うっとうしいと感じたのか。
フィガナモスが再び叫び声を挙げる。
鼓膜が破れんばかりの勢いで、思わず全員が耳を塞いだ。
堅固な王城でさえ、一部が崩落したほどの音波だ。
間髪を入れず、フィガナモスの手が魔力をまとう。
一本を炎、一本を氷、一本を雷、そして一本を暗闇。
全員が構え、しかし、フィガナモスの一撃は届かない。
「伍式――『激震』!」
ジードの魔法により、フィガナモスのまとった魔力は霧散した。
動きが一瞬だけ止まったことにより、クエナ達は一撃を避けられた。
「ジード、無事だったのね!」
シーラが声をかける。
「ああ、ルイナも大丈夫だ」
土ぼこりからルイナとジードが現れた。
「お主から見てこいつはどうじゃ!」
「やばい化け物だ。勝てる気がしない。――でも、ここだともうひとりの人格は出せない。だからリフ、例の魔法を使うよ」
「お、おい、結局昨晩は使わなかったじゃろうが! どうなるかわからんぞ!」
フィガナモスの手が再び上がる。
今度はより濃い魔力をまとっていた。
「魔法――『運命輪転』!」
ジードが魔法を口にすると、
場に一度だけ奇妙な時間が流れる。
だれもが1秒を1分のように長い時を過ごしているように感じていた。
もっともはやく動いているのはフィガナモスだが、やはりその手は木から落ちる枯れ葉よりも遅い。
「――おお、懐かしいな。この化け物も、この景色も。――弐拾漆式『王奪』」
やや低い、それでもジードだとわかる声だけが場を支配していた。
フィガナモスの動きが決定的に止まる。だが、同時に他のメンバーの時間は動き始めた。
「だ、だれ……?」
最初に戸惑いを見せたのはクエナだった。
「あれ、ジード!? うん!? いや、ジード……!?」
次にシーラだった。
状況を理解しているのはリフだけだ。
「ああ、ジードじゃよ。より正確に言うのならば十年後のジードじゃ」
「元気そうでなによりだよ、みんな」
リフに紹介されて、ジードが明るい笑みを浮かべる。
身体はより大きくなっていて、顔立ちも落ち着いている。
だが、それはたしかにジードだった。




