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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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 ウェイラ帝国での戦争から一か月が経過していた。


 その間に戦争の後始末が行われた。


 あまりにも大規模な戦争だったが、結果的に『アステアの徒』の主要メンバーが殺害や脱退したことであっさりと終結した。


 とはいえ、国家間の関係悪化や各所で沸き上がる不満で至る所に戦争の火種はある。


 特に今回の戦争の勝者の側にいる幼女――に見えるギルドマスターのリフは必要書類に忙殺されていた。


「ギルドマスター、来客です」


「誰じゃ、こんな忙しい時に」


 下の階と繋がっている連絡用のマジックアイテム。


 そこには受付の女性が映っていた。


 受付嬢は困ったような顔をしている。


「それが……レイニース、と」


 リフの腕が止まる。


 レイニース


 知らない者は少ないだろう。


 初代勇者と語られる、伝説の存在だ。


「イタズラではないのか?」


「私もそう思い確認したのですが古代の宝石を渡されて……純一級の本物でした」


 宝石の価値を示す指標はいくつもある。国や組織によってまちまちだが、純一級はどこにいっても通じる。


 それは大陸でも指で数えるほどしかない最高級のものだ。


「ふむ……」


 リフが顎に手をあてる。


 悪戯にしては手が込みすぎている。


 暗殺を疑うが、正面から来るものだろうか。


 よしんば来たとしてもレイニースを名乗る理由はなにか。


 リフ自身の腕は相当なものだ。


 さらにギルドマスター室は防護結界などもある。


「……レイニースは一人だけかの?」


「そのようです」


 受付嬢の答えにリフが頷く。


 それならば何があっても対処可能だと判断した。


「わかった、通せ」


「か、かしこまりました」


 受付嬢は通されるとは思っていなかったのか、少しだけ驚いたようなリアクションを見せてから頷いた。


 しばらくして部屋の扉が叩かれる。


 リフが入室の許可を出すと一人の老人が入ってきた。


「レイニースか?」


「うむ。貴殿が『アステアの徒』を倒したリフで間違いないかな?」


「お主は二代目勇者のレイニースで良いな?」


「ほっほ。互いに確認が取れたところで急ごうか」


 レイニースが椅子に座る。


「急ぐとは……む」


 リフが目を凝らす。


 まとう魔力に、何よりわかりやすかったのはレイニースの肌が剥けてきている。


「わかるか? もう随分と生きた。長くはないのだよ」


「それで、何を話すつもりじゃ?」


 リフには苛立ちの声があった。


 レイニースは勇者だ。


 そして仲間は魔王討伐の道中で死んだとある。


 つまり、レイニースは――。


「勇者パーティーには必ず処理班が存在する。強くなり過ぎた者を管理するのだ。お察しの通り、儂が最初の裏切り者だ」


 リフは百も承知だった。


 彼女は被害者であり、生き永らえた復讐者なのだから。


「なぜ今になって話すつもりになったのじゃ?」


「さてね。死の恐怖か、あるいは天国にでも行きたくなったのかもしれない」


「冗談を言う時間はあるようじゃの」


「……そうでもないかもしれんのぅ」


 レイニースの片腕が落ちる。


 それは原型からかけ離れた塵となる。


 互いに動揺はなかった。


 リフもレイニースの使っている魔法を知っているようだった。


 その行く末も。


「ジードに会ったのじゃよ。あの子はアステアの最高傑作じゃ」


「アステア? 最高傑作?」


 レイニースの言葉にリフが首を傾げる。


 その様子を汲み取れていないのか、レイニースが続けた。


「うむ。しかし、おそらく、だからこそアステアに敵う唯一の存在でもある」


「わからん。もっと分かりやすく説明しろ」


 リフが頭を振る。


 レイニースも顎を撫でて気持ちを落ち着かせることで、急ぎ過ぎてしまったと自省する。


「ふむ。まず言おう。女神アステアは実在する」


「与太話……ではないのじゃろうな」


「勇者パーティーの『裏切り者』は幼少の頃から声を聞く。女性の美しい声で、彼女はアステアと名乗る。様々な命令をしてくれるのだ。強くなる方法や、優秀な兵士と出会うタイミングや場所、それに危機も」


「まさか、その声によってパーティーを殺したと言うつもりではないじゃろうな」


「そのまさかじゃよ」


 リフが小さな拳を机に叩きつける。


 魔力に強化されていない身体は脆弱そのものだが、それでも反動で紙が宙を舞うほどには強い威力を伴っていた。


「その話を信じたとして、お主はどうしてここに来た。ジードがアステアに敵うと言っていたな。まさか女神を殺すつもりか?」


「儂も良心がないわけじゃない。一緒に旅をした仲間を手に掛けるのは……」


「わらわはシスターではない。懺悔を聞くつもりはないのじゃ」


 リフが冷たく突き放す。


「そうだの。すまん。……しかし、長い月日を費やしてアステアに辿り着いたのだ。許しは乞わん。乞う者はもういない。この手によって。だから、せめて仇を討ちたい。貴殿らに伝えておきたい」


 レイニースの片足が地面に転がり、塵となる。


「女神アステアは『精霊界』に存在する」


「精霊なのか?」


「いいや、どうだろうな。わかったのはアステアが実在することと、精霊界にいることくらいだからのぅ」


「しかし、精霊界に行く術など……あちらの生物を召喚することしかできんはずじゃ」


「生の半分を後悔に費やした。四分の一を逃避に費やした。もう一部で……これしか知ることはできなかった。アステアから殺されることを恐れたんだ」


 レイニースの足が塵となる。


 軸をなくして椅子の上で傾く。


 半面も塵となっている。


「――『アステアの徒』は機械にすぎない。アステアの……」


 弱々しい声はリフに届かない。


 だが、最後に残した声だけは聞こえた。


「……最後に……もう一度……反旗の狼煙に……ジードに会ってみたかった………」


 それだけ言い残して、レイニースは塵となる。


 リフは沈痛な面持ちで砂粒よりも細かな、魂のあったものを見る。


「……それを伝えてどうしろと言うのじゃ」


 それ、とは。


 裏切り者にも心があったことを指しているのか。


 それとも、女神アステアのことを指しているのか。


 どちらにせよ前者は過去であり、進むべき未来は後者にあることだけは確かだった。







 神都アステアが突然の消失をしたことが大陸中を衝撃に包み込んでいる。


 まことしやかに天災や女神アステアによって連れ去られたなどの噂は流れていたが、真偽は定かではない。


 国家や様々な第三者機関による調査結果についても「不明」の一点で、不安と恐怖が蔓延していた。


 そんな場所に五人の影があった。


「今日、ルイナは来ないの?」


「……」


「戦争の後始末に忙しいのだろう。リフ殿だって来ていない。それに何より、さすがにこの場所は来れないだろう。私でさえ吐き気がするほどだ。ソリア様、無理をせずに。もしも何かあれば去りましょう」


「い、いえ、私は大丈夫です。それよりジードさんを見つけなくては。一か月も行方をくらませるなんて……」


「ジードなら絶対に無事だよ!」


 クエナ、ユイ、フィル、ソリア、シーラ。


 それぞれが同一の目的をもって、旧神都アステアに来ていた。跡とはいっても何もない。建物や生物は一切なかった。


 漂っているのは死の気配だけであり、先に調査を行った組織や部隊は、ほとんどが嘔吐や失禁で立ち入りを拒んでいるほどだった。


「私もジードさんは信じています。ロイターも消息を立っていますから、勝っているはずです。でも、どうして行方を……あ」


「……」


 五人で歩いていたところをユイが一歩二歩と前に出た。


 思いが溢れて足が速くなり走り出す。


 一同が顔を見合わせてユイに付いていく。


 ユイは不自然な場所でとどまった。不自然な影がある場所に。


「これは……?」


 ソリアも気づく。


 その影は不自然だった。


 一ミリも動いていないため雲ではない。


 一帯は不毛の大地で影を生み出すものはない。


 とはいえ、注意して見なければ気がつかないだろう。


「「ジード」」


 シーラとユイの声がかぶる。


 少し引いたようにクエナとフィルが見た。


「あんた達は何を感じているの……」


「おまえ達には何が見えているんだ……」


 ユイが影に触れる。


 何の反応も見せないが、ユイの影が揺れ動いた。


 シーラが両手の握り拳を顔の前に持ち出す。


「頼むよ、ユイ!」


「ん」


 湖に入るかのように影が抵抗なくユイを取り込んだ。


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