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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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 悠々と佇むロイターを前に、形勢の不利を悟ったソリアがジードに対して声を荒げる。


「ジ、ジードさんがロイターに勝てなくとも私たちと一緒に戦えば……!」


「大丈夫。はやいところ逃げてくれ」


 ジードが口角を上げながら言う。


 それはぎこちない笑みだったが、ソリアは見知った表情だった。誰かを安心させるために無理やり作った笑みだ。


「ソリア様……残念ながら私たちは足手まといです」


 フィルが隣から声をかける。


 彼女達も素人ではない。いかに心情が許さなくとも撤退のタイミングは間違わない。


 それを非情と取るか、あるいはジードの戦いを応援する判断ができると取るか、それは当事者だけの問題だろう。


「――ご武運を!」


「ああ」


 全員が負傷者をつれて馬や馬車に乗る。


 その中にはスフィの姿もあった。


 全員の影が見えなくなったあたりでジードがロイターを見る。


「いいのか? 逃がしても」


 ゆったりとジードが問いかける。


 ロイターが微笑んだ。


「かまわないさ。おまえを殺せばすぐに追える」


「随分と余裕だな」


「私の力をわかっているのだろう?」


 ジードの目には大気を切り裂かんとばかりに放出される魔力が視えていた。


 それは圧としても肌にひしひしと伝わってくる。


「聞きたいことがある。俺の親ってどういうことだ? そんなに歳が離れているようには見えないんだけどな」


「気になるのか?」


「ああ。とても」


 ジードが素直に頷いた。


 たとえ敵であろうとも純粋な気持ちで応えている。


 しかし、ロイターは違う。


「それなら拷問でもすることだな」


 会話が進まなかったという点で、このやり取りに意味はなかったのだろう。


 だが、確実にロイターはジードに嫌がらせができた。


 狡いやり口だ。


 しかし、ジードはそれに気づいていない。


「拷問かー……」


 ジードの顔に苦悶が浮かぶ。


 それを見たロイターが愉快そうに笑った。


「ははは、わかるよ。おまえでは私を捕まえることなどできない」


「そうだね。生きて捕まえることなんて無理だ。だから普通に教えてくれよ」


「知るか。それよりも今度はこちらが聞かせてもらう。どうしてウェイラ帝国に与した」


「だって、おまえ達ひどいことしてるだろ?」


「必要なことだ」


「人を殺すのが?」


「犠牲は何をしようにも生まれる」


 ロイターがきっぱりと即答する。


 自らの行いが善であると信じて疑っていない。


 他の考えが悪であると言わんばかりだ。


「……そうやってあっさり人を殺そうとするの、すごく嫌いだよ。というかあっさりじゃなくても殺すのはいやだ」


「なら問答は無用だな。おまえは失敗作だっただけのことだ」


「失敗作?」


「聞く必要はない――」


 ロイターの大剣が抜かれる。


 そう認識した時には眼前に迫っていた。


 斜めに斬り込まれる。


 微かにジードの服を掠るがバックステップで避けてみせる。


 再び距離を離したことでジードが提案をする。


「待ってくれ。ここだとあの街に近い」


 ジードが神都を指す。


 ロイターが振り向いてからほくそ笑む。


「で?」


「被害が出る。別の場所にしないか?」


「くく。やはりおまえは勇者だな。出来損ないだが人のことを考えられる」


「……」


 褒められているようで、貶されているようで、しかし本質的にはジードについて語っていないようにすら見えた。


「でも変える必要はない。どうせおまえはここで死ぬんだ。あそこに被害が出ることもなく」


 ロイターが構える。


 ジードがやるせなさそうに後頭部を掻く。


「――死ぬのはロイターだよ」


 仕方なく、ジードが結果を語る。


 それは傲慢ではない。


 ただ神都の人々に被害がいかないように配慮しての言葉だった。


「あ? おまえも認めていただろう。私の方が強いのだと」


「うん。『今の』俺はね」


「……おまえは私を捕まえることはできないと言ったはずだ」


「『生きて』ね」


 ロイターが眉間に皺をよせる。


 ジードの言葉遊びのようなものに苛立ちを覚えている。


「ふざけているのか?」


「本気だ。おまえの勝機はソリア達がいるタイミングだったんだ。それなら俺も……いや、未練だな。やめよう。うん。――最後に頼むよ、他のやつらを巻き込みたくない。誰もいない場所に行ってくれないか」


「くどい」


 ジードの提案をロイターが吐き捨てる。


「そっか。悪いな。拾式――影陰(えいいん)


 ジードの背後に陰が現れる。


 それは卵のような形で、一人を丸ごと飲み込めるほどの大きさだった。


 ロイターが嘲るように顔をゆがめる。


「それはなんの魔法だ? 害意を全く感じない。警戒に値する気配もない」


「これは封印魔法だよ」


「封印?」


「そう、十個まで魔法を覚えられたら使う必要がなくなるんじゃないかって……そう思って番号を振ったんだ」


 今度はジードが意味深な答えをする番だった。


 それはまるで先ほどのロイターとの問答をやり返しているようにも思えた。実際にロイターはそう思っている。


 しかし、ジードは違う。


 わざわざそんなことはしない。


 ただ本能が明言を避けたのだ。


「私を封印でもする気か?」


「ああ、いや、これは俺を封印するんだよ」


 ジードが頬を掻いて情けなく笑う。


「は?」


 ロイターの目が点になる。


 訳の分からない物言いに戸惑いを隠せない。


「使う必要をなくしたい魔法ってのはこれからやるんだ」


 ジードが手を伸ばす。


 それは真っすぐロイターに向けられているようで――。


 ロイターの背筋がゾクリと震えた。


「いくよ。零式――【不浄神(かみ)楽落憑依(おちおち)


 瞬間、一帯の魔力がどす黒く変色する。


 ジードから噴出されているように見えるが、実のところ自然の魔力が勝手に染まっている。


 圧倒的なまでの支配と絶望があった。


 草木までもが生きることを諦めるように枯れる。




――瞬きは命の奪い合いにおいて決死の覚悟で行わなければいけない。




 ロイターに油断はなかった。


 そもそも距離はかなりあったのだ。


 たとえ詰められたとしても対処はできるはずだった。


 しかし、それは慢心だった。


 気づいた時にはロイターの眼前からジードがいなくなっていた。


 水滴が湖に溶ける暇もない瞬きだったはずなのに、もういない。


「あれえ、おにいちゃん。なつかしいあじがする。あじ?」


 ロイターの背後から声が聞こえた。


 それはいつものジードよりやや高めの声だった。幼げな声だった。


 喉を鳴らしながらロイターが振り返る。


――最強の部隊は全員が凄惨な死に方をしていた。


 魔族すら滅ぼせるという自負があった。


 実際にそれだけの戦力だった。


 それが全滅。


 瞬きをしている間に。


 なによりジードがなにかを食べている。


(あれは……手?)


 ガタリと、ロイターの傍で鉄が落ちる。


 見ると大剣が落ちていた。


 もっと見ると、腕がなかった。


「な……なんだ……これは」


 攻撃に遭った。


 しかも認知することができなかった。


 アステアからもらった力でも『差』すらわからない。


 ありえない。


 いや、ありえてはいけない。


 そんな考えがロイターの頭を停滞させていた。


 しかし、時間は嫌でも進んでいく。


「あじ? じゃない。うーん。あ、においだ。なつかしい、におい」


 ジードが口元を無邪気に綻ばせる。


 おぼつかない言葉遣いで喋っている。


 だが、似つかわしくない鮮血が顔いっぱいにある。


 食べているのだ、ロイターの腕を。


 知ったジードとは明らかに違う変容を遂げていた。


「これはなんだよ……」


 ロイターが目を見開いて後ずさりした。


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