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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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223/269

 いよいよウェイラ帝国中枢の奪還作戦が始まる。


 そんな折、リフから呼び出しがあった。ルイナまで待機している。


「どうしたんだ?」


「すまんの、こんな時に」


 もうあと数時間もしないうちに出陣だ。


 みんなが思い思いの時間を過ごしている。祈ったり、鍛錬をしたり。


「俺は特に何もしてないから気にしなくてもいいよ」


 おどけたように言うが、リフの表情は深刻そのものであった。


「実はスフィから連絡があった」


「本当か?」


 俺も何度となく連絡をしようと試みた。


 しかし、ギルドの経由は通じない。神聖共和国には行けない。どうしようもなかった。そんなスフィが連絡をしてきたのだから、声を荒げてしまっても仕方ないというもの。


 ただ、リフの顔は芳しくない。


 自然と不吉な予感を察して続きを待つ。


「おそらくロイターの暴走を知らなかったのじゃろう。今になって気づいたようであった……が、連絡が途絶えた。直前にロイターが現れおった」


「それって……」


「十中八九あの小娘の身に何かがあったのだろうな」


 遠慮するリフや、不吉なことを言いたくなかった俺の間から、ルイナが率直で簡単に推察できる状況を口にした。


「それで、俺を呼んだのはスフィの救援だな?」


「ああ、そうじゃ」


「いいや、違う」


 リフは頷いた。


 だが、ルイナは首を左右に振った。


 二人とも異なる見解だ。


「どういうことだ? 俺は何のために呼ばれた?」


「まず戦況を話す。ウェイラ帝国の中枢は帝国軍と複合軍によって固められている。しかし、スフィの生存と権限があれば多少は戦力を割くことができる。さらに、戦勝以降の治世にも貢献してくれるじゃろう」


「だが、複合軍は今も集結して数を集めている。実力者も揃ってきていて厄介だ。それにスフィがいなくとも治世はできる。それならば確実にウェイラ帝国を奪還することが最優先だ」


 なるほど、二人の意見は完全に分かれているようだ。


 だから俺を呼んだのだろう。


 俺の答えは簡単だ。


「スフィを助ける。戦争とか複雑なことは考えない」


 リフもルイナも俺の回答は予想していたのだろう。


 どちらも納得や不満といった顔をみせる。


 だが、否定をされることはなかった。


「じゃろうな。ジードならばそうすると分かっておった」


「ごめん。俺にスフィのことを黙っていたら何も知らずにウェイラ帝国の奪還に協力していたのに……俺のために話してくれたんだよな」


「あとで怒られるのが面倒なだけじゃ」


 リフがいたずらっぽく笑いながら視線を逸らす。照れ隠しなのだろう。


 その仕草には見た目も相まって愛くるしさがある。


 抱きしめたい欲求が湧き出るが、今はスフィが優先だ。


「スフィはどこにいる?」


「神聖共和国じゃ。神都までいけばジードの探知魔法で余裕で助けられるじゃろう」


「わかった。ありがとう。みんなによろしく」


 今は拠点としている街の一角。


 魔法での奇襲を避けるために特別な魔法が掛けられている。


 転移をするには一度ここから出なければいけない。




 リフ達に挨拶を済ませて廊下に出る。


 気配を感じて後ろを見るとルイナが付いてきていた。


「どうした?」


「んー」


 ルイナが近づいてくる。身体が密着しそうなくらいだ。


 思わず一歩下がると壁にぶつかる。


「な、なんだよ」


「ジード、私はおまえだけは認めている」


「俺だけを……?」


「この戦いが終われば『アステアの徒』によって団結していた人族の国々は結束力を失う。その結果、最強でありながら従属国を抱えているウェイラ帝国が覇権を握るだろう。あんな訳の分からない組織には一切依存していないからな。列強のうちの一つなんかじゃない。正真正銘の最強国家だ」


「もうそんな皮算用をしているのか」


 やや呆れ気味に言う。


 だが、ルイナは意にも介さず続ける。


「ウェイラ帝国に来てくれ」


 俺の胸元をルイナの手が触れる。


「その話は断ったはずだ」


「ああ。二回も断られたな」


「二回?」


「一回目はスティルビーツを侵略していた時のことだ。二回目はさっきだな」


「ああ……」


 微かに記憶が呼び起こされる。


 ただ、過去の思い出を享受する暇もなく、ルイナの手が妖艶に身体を這う。


「おまえは何か欲しいものはないのか?」


「……特に」


「では望むものは?」


「……」


 はやいところ切り上げようと、無言で見つめ返す。


 だが、予想に反してルイナが笑う。


「大丈夫。私を利用すればいい。おまえの望む世界をいくらだって作ってみせよう。おまえの好みの女だけで揃えた世界、おまえの好みの食事と酒がいつでも提供される世界、おまえがいつまでも眠っていられる最高の環境。いいじゃないか。世界平和の後にいくらでも楽しめる」


 俺から手を放して、ルイナが大げさに手を振り上げて続ける。


「たった一回だ。この一回で世界はおまえのものになる! クエナ達に気まずいか? なら会わないようにセッティングしてやろう。リフに恩があっても気にしなくていい。私の下で過ごせばいい。この一度でそれが叶うんだ」


 それはきっと魅力的な提案なのだろう。


 もしもルイナに従ったら一切が都合よく運ぶのかもしれない。


 しかし、俺は首を左右に振った。


「いくら話しても無駄だ」


 俺が離れようとするとルイナが手を掴んでくる。


「なぜ? おまえの感じている価値はこれから更新されていく。こだわる必要なんてない」


「それはルイナの考え方だろ。俺のものじゃない。……それに」


 すこし言いづらいが、ルイナの目を見てハッキリと言う。


「ルイナは怖いよ。ずっと俺のことばかり話しているじゃないか。俺の幸せとか、俺の楽とか。ルイナが見えてこない」


 俺の言葉にルイナが目を見開く。


 どこか彼女の胸を穿ったように感じた。


「いいだろう、本心を話そう。……私はおまえに媚びているのだ」


 ルイナの顔が曇る。


 どこか哀愁を漂わせていて、女帝ルイナの全く知らなかった側面を映し出している。それは俺の足を止めるだけの威力を持っていた。


「私はよく勘違いをされる。私は自分でも強者だと思う。だが、私よりも強い者がいれば傅こう。そして、おまえが私の人生で初めて現れた唯一絶対の強者なんだ。こう見えても実は結構尽くすタイプなんだよ」


「ルイナ、何度も言うよ。俺は――」


「――おまえの望む世界を言え」


「スフィがいる世界だ。平和な世界だ」


 俺の答えを聞くと、ルイナが諦めた様に口角を上げた。


「ジードには私の力が必要になるよ」


「……」


「結婚式とか考えたことあるか? クエナ達はおまえを待っていると思うよ」


「……結婚式?」


「愛し合っている者同士が愛を誓う儀式だよ。憧れる女性は多い。おまえ達は結婚だの子供だのと言っているのだろうが考えたこともなかっただろう」


 そ、そんなものがあったのか……


 でもクエナやシーラはそんなことひとつも……


「わかるよ。話にも出なかったのだろう。でも、私がおまえの傍らにいたら必ず手配していたよ。全員が満足する結果にする。社会や人間関係はこういった儀式も時に必要なんだよ。でもおまえには私がいる。私に任せればいいんだよ」


 だから、とルイナが続ける。


「もしもウェイラ帝国が滅んで、私の権力が失墜するようなことがあっても、私を助けて守ってくれると約束してくれ」


 ああ、今になって彼女の気持ちがわかった気がした。


 きっと、不安だったんだ。


 今までウェイラ帝国で君臨していたから、その場を下ろされたことに恐怖していたんだ。


 だからこうして俺を止めて、喋って、傅くなんて言っていたんだ。


「――必ず守るよ。スフィのように、ルイナが危険に陥ったら助ける」


「はは……なんだか初めて見透かされたような気持ちだ」


 ルイナが空を仰ぐ。天井ではない、どこか遠くを見ているようだ。


 それから清々しい笑顔で俺の下に歩み寄ってきた。吐く息が届くほどに顔が近づく。吸い込まれるような整った顔が俺の眼前に来て――交差する。


「私だけ約束してもらうのは都合が良すぎるな。……安心しろ。ウェイラ帝国での戦いが終わったら私がおまえの傍にいてやろう」


 ルイナが耳元でささやく。


 いくら鈍感な俺でも理解できた。


 きっとこれは愛の告白だ。


 ソリアの経験が生きてきている。


 果たしてそれが世間的によろしいものなのか……は、さておき。


「……それも何だか都合が良くないか? どちらにせよ結局、俺はルイナの傍にいることになるじゃないか」


「女子の覚悟を断るのか?」


 そう言われると……否定しづらい。


 でも、


「クエナ達の気持ちも大事だ」


 俺はクエナやシーラと過ごす時間が多い方がいい。きっと彼女達も同じ気持ちでいてくれているはずだ。


「わかった。それならまずは私の初仕事だな。あいつらに私を認めさせてやる」


「え? いや、別にそういう意味じゃなくて」


 俺なりに断ったつもりだったのに……!


「――武運を祈っているぞ、ジード」


 俺の話を聞く間もなく、ルイナが離れていく。


 ……いや、話し過ぎだな。


 今はスフィの下に行かなければいけない。


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