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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
10

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217/269

2

 翌朝。


 ネリムは俺よりも先に起床していた。


 というかリビングに行くと全員起きていた。


 俺が一番遅いのか。


 そう考えるとなんだか気恥ずかしさがある。


「おはよー! 朝ごはん作ってるから待っててね!」


 キッチンから良い匂いと共に心地の良い声が聞こえてくる。それに返事をすると洗面台に向かい、顔を洗って歯を磨いた。


 一通りのルーティンを済ませるとソファーに座る。


 先にクエナが座っていて新聞を読んでいる。


「面白い記事あったか?」


 俺の問いに、クエナが記事の一面を見せてくる。


 そこには見知った顔と目立つ見出しがあった。


「ルイナが死んだって」


「私がなんだって?」


 ルイナが真っ先に反応してみせた。


 俺達の対面に座っている。


 ルイナの膝にはユイが顔をうずめていた。


「ユイは甘えたがりな時期なのか?」


 昨晩のことも思い出しながら問う。


「いいや。朝に弱いんだよ」


 意外だな。


 もっと仕事をテキパキとこなすイメージだった。


 こうして一緒に暮らしてみると知らない側面を見ることができるものだ。


 それからシーラがテーブルに食事を並べていく。


「並べるの手伝うよ」


「いいって! いつも食器洗ってもらってるし!」


 俺の提案にシーラが手を振る。


 クエナが先にキッチンに向かっていく。どうやら俺と同意見のようだ。


「手伝わせなさいよ。ほら、あんた達も」


 クエナの視線の先にはルイナやユイ、ネリムがいた。


 ネリムなんかはさっきまでリクライニングチェアにいたのに、もう食卓の椅子に座っている。


 こいつ、ちゃっかりしてるな……


 先を読む力に豪胆な行動。これが女帝になる器なのだろうか。


「私は客人だろう? なぜ手伝わなければいけないのだ?」


「自分のことも自分でできないならご飯はないわよ」


「ふむ。まさか私が給仕係の真似事とはな」


 さすがの女帝っぷりと言うべきだろうか。


 しかし、心底いやがっていないのは、職業に対して貴賤を感じていないからだろう。あくまでも自分が労することに対して思うところがあるようだな。


 それでも朝からクエナと言い争いをする気力を比べると、皿を並べる方がマシだと思ったわけだ。


 朝から豪勢な食事がテーブルに並んでいる。


 ルイナ達が来ているから……ではなく、純粋にシーラの技量と惜しみない献身によるところが多い。


 この元気はどこから来ているのだろうか。


 いただきます、の言葉に力も入るというものだ。


「なかなか美味いじゃないか、金髪の」


「えへへ、女帝に褒められちゃった」


 シーラが照れ臭そうに後頭部に手をやりつつ、かしこまるように背を曲げている。


「ま、実際にあんたの腕は大したものよ。ルイナの内心はわからないけどね」


「いやいや、庶民の料理も悪くないさ。実際に専属として雇ってもいいくらいだ」


 それがどれくらいの誉め言葉なのか分からない。


 でも、王族に仕えるというのは名誉なことだと知っている。


 ましてや列強として数えられるウェイラ帝国の長だ。


 やはり結構すごいことなのだろう。


「うむうむ、大したものじゃよ」


 後ろから声がする。


 振り返るとリフが皿を持ってもぐもぐと食べていた。


 どうやらキッチンにあった余り物を取ったようだ。


「あ、あんたいつの間に……」


 クエナが先んじて言う。


 唐突な出現に一同が驚きを見せる。


「やっと来たか。私を待たせるとは良い度胸だ」


 ルイナが頬杖をつく。


 不遜な態度が似合う女帝を見ながら、リフは肩をすくめた。


「せっかちじゃの~。上にいるのならどしりと構えておれ」


「そんな猶予があるわけではないのだよ?」


「安心するのじゃ。ウェイラ帝国の実情を調べていたのだ。この件は優先度が高いからの」


「ちゃんと理解しているのなら何よりだよ」


 自分が軽んじられていないと分かるとルイナの口調が柔らかくなる。


 リフがどこからか椅子を持ってきて、俺たちとテーブルを囲んだ。どうやら一緒に食事をするようだ。


「ふっふ、失礼するぞ。わらわも朝ご飯はまだじゃったからの」


「どうぞどうぞ〜」


 シーラが軽快に返す。


 突然の来訪者に反対する者はいない。


 リフが親しまれていることの現れだろう。


 しばらくみんなでモグモグしていると、リフがようやく喋り出した。


「どうやらウェイラ帝国の中枢で洗脳の魔法が掛けられているみたいじゃ。相手は『アステアの徒』で間違いないじゃろう」


「どれくらいの規模だ?」


 ルイナが問う。


「帝都を中心にウェイラ帝国の大多数の都市を呑み込んでおる。軍も随分と敵対しているみたいじゃの」


「管理とか面倒くさそうだな。食事とか勝手にするのか?」


 率直な感想と質問をしてみる。


 リフがパンをちぎって口に放り込み、咀嚼して飲み込んでから口を開いた。


「洗脳といっても扇動に近いものじゃ。どうせルイナを敵視するように仕向けているのじゃろうな」


「随分と詳しいね?」


「くく、シーラの素直は良いのう。他の面々はなかなか聞きづらそうにしておったからの」


 たしかにその通りだ。


 まるでリフが魔法を掛けたかのように詳しい。


 たった一晩で知り得る情報ではないように思えた。


 ならばリフが敵の可能性もあり、問いかける内容にしては躊躇われる。


 選択肢が複数あり、迷いがあった。


 たとえばリフが敵の場合は、敵であると気づいていないフリをして情報戦をすることができる。


 だからこそ、リフに対して何かしらのアクションを今は起こせなかった。


 あるいはリフが味方の場合は、疑念を抱くことで怒りに触れてしまいかねない。


 その程度で怒るとは思えないが、現状もはや戦争であり、互いに戦闘のためのアドレナリンが分泌されているだろう。


 ある程度の距離感は必至なのだ。


 だが、そこにきてシーラの純粋な気持ちから来る問いかけは毒気を抜かれる。


「もう背中を任せあっているのだから余計な疑心暗鬼はやめましょう」


 ネリムが言う。


 かつて仲間に裏切られた彼女が言うのだ。その言葉の重みは理解できる。


 不意にルイナが言う。


「昨晩から気になっていたが、中々どうして落ち着いているじゃないか。ウェイラ帝国に来てみないか?」


 さっそくネリムを勧誘している。


 戦闘を介していないのに実力を見抜いたのだろうか。


「やめとく」


 ネリムがお茶を啜りながら冷ややかに断る。


 ルイナも仕方ないとばかりに諦めていた。


 てか初対面だったか、こいつら。


 それからリフが話を続ける。


「ぶっちゃけるとウェイラ帝国で使われている洗脳の魔法はわらわが発案したものじゃからの。イムラリという魔法じゃ」


「えー!!!」


 シーラの驚きの声が挙がる。


 それならば知っていてもおかしくはないのだろう。


「とはいえ、こんな風に使われるとは思わなんだ。元々は災害時の混乱を避けるため、冷静さを取り戻す一時処置として開発しておった。……そもそも、人を操ることなど良くないことで、いかなる災害の時でも使うつもりはなかった好奇心の産物だがの」


「しかし、事実使われているじゃないか」


 ルイナの手厳しい意見が飛ぶ。


 被害者だから怒りもあるのだろう。


「うむ。そもそも洗脳魔法イムラリは『アステアの徒』に提供したからの。罪は認めよう。だが、ここまでしなければ信用を勝ち取ることはできなんだ」


 リフが表情を曇らせながら言う。


 罪を背負っている自覚があるのだろう。


 やや非難気味であった空気のなかでネリムが口を開く。


「逆に言えば止める方法もわかっているんでしょ?」


 リフが開発者なのだ。


 行使する方法があるのなら、止める方法も考案しているのが必然だろう。


 予想通り、リフが頷いてみせた。


「もちろんじゃ。ここまでの大規模で行っているということは、おそらく『アステアの徒』の精鋭魔法部隊が動いておる。場所は帝都で間違いない。やつらを止めれば洗脳は解けるじゃろう」


「じゃ、俺たちは帝都に行くってことだな」


「そう結論を急ぐな。帝都には十分な戦力が用意されておるじゃろう。なんの準備もなく戦えば返り討ちに遭う」


 リフの言にルイナが頷く。


「ウェイラ帝国は広大だ。外縁部ならば洗脳の範囲外だろう?」


 リフが肯定する。


「うむ。ルイナの考えと同意見じゃの。ウェイラ帝国の端に戦力をかき集める。陽動にしろ、あるいは一部分での集中総力戦にしろ、兵力を揃えるべきじゃな」


「でも大丈夫なの? それって私たちが攻めるって言ってるようなものじゃない。それならジードやユイの力で影から戦っておいた方がスムーズだと思うわよ」


 クエナが手を挙げて言う。


「いいや、ルイナは生存しておる。そうなれば『アステアの徒』が狙う次なる一手は――」


 リフの説明に誰もが納得する。


 行動は即日から始まった。

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