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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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1

 獣人族領で聖剣の奪還を終え、俺たちはクゼーラ王国の領地に戻った。


 刺々しい視線が胸を抉る。


 獣人たちとは和解できただけに、痛みも、久しぶりだからか新鮮さを伴っている。


「顔にこそ出てないけど、なんとなく言いたいことは分かるわ。辛そうね」


 クエナが口元を抑えながら楽しそうに笑い、囁いてくる。


 俺に気を使ってわざと軽々しい態度を取っているのだろう。


 彼女の暖かな視線だけがこの場の救いだ。


「最近学んだ言葉がある。目は口ほどに物を言うってやつ」


「ジードは強いから面と向かって言える人もいないしね。もはや口よりも目の方が饒舌になってるわね」


「勇者を断ったのは面倒な選択だったかもしれないな」


 こうも続くようでは気分も落ち込んでしまう。


「そう? ジードが考えた上での決断なら私は良かったと思うけどね。問題は好感度がマイナスってことくらいじゃない?」


 その問題が一番の難関なのだ。


 しかし、クエナだってそんなことは百も承知だろう。俺が巻き込んでしまっているのだから、マイナスの空気を肌で感じているはずだ。


 申し訳なさも含みながら、ため息を漏らす。


「いつか好感度がプラスになってくれることを祈るよ……」


「好感度なんて変わりやすいものよ。所詮は人の心なんだから。私の時もそうだった」


「クエナの時も?」


「ウェイラ帝国の宮廷にいた頃の話。あの時は子供だった。だから大人もなめてかかったんでしょうね。身振りや口振りから考えていることが嫌でも見え透いたの」


 子供は意外と勘が良い。


 大人程に周囲を見ることだってあるのだ。


 だから、癒えない傷が心に刻まれてしまうこともある。


 自分でもわかるくらい、おずおずと口を開く。


「言いたくないなら良いが、たとえばどんなことがあったんだ?」


「そうね、『外交の手段としてなら使える』とか」


「外交手段……」


 なんとなくは聞いたことのある言葉だ。軍事はもちろん、結婚なども政略の一環として含まれる。そういった外交の術だ。


 クエナの場合は後者なのだろう。


「ある時、パーティーが開かれたの。貴族や将校がこぞって外国のお偉いさんを紹介してきたわ。彼らはルイナの直参とは程遠い。後援会にも呼ばれない人たちだった」


 だから私が選ばれたの、とクエナが続ける。


「自分と繋がりの深い他国勢力が皇女と結ばれれば、ウェイラ帝国内での影響力も増す。ルイナの傘下にならなくとも生き残れる。……だから私に紹介してきたの」


 クエナが苦々しい記憶を掘り起こしているようだった。


 そんな様子を見て同調してしまい、こちらまで苦しくなってくる。


「考えすぎじゃないのか?」


「そうかもね。でも、紹介してきたのは全員が中年や、お世辞にも格の高いとは言えない家柄だった。私が正当な血筋ではないと知っているからこその侮りが見えたわ」


 もしもルイナに紹介するのなら、同格クラスの王子でなければ話にならないだろう。


 クエナが女帝にならないと分かっていたから、せめて外交で利用しようとして……ということになる。


「でもある時、兄弟の一人が死んだ。私の継承権が上がったの。ウェイラ帝国は全ての領土を一人が受け継ぐ。だから私にほんのわずかな可能性を見出したんでしょうね。帝国内でも私と直接婚約を結びたいと考える人が現れ出した」


「おぅ……」


 話を聞くだけで少し嫉妬してしまう。


 もしもそこでクエナが誰かと婚約を結んでいたら……


 我ながら器の小さい話だ。


「その頃から帝王だとか女帝だとか興味なかったのにね。変な影響を受けて兄妹を殺したり混乱を生んだりしないよう、権力争いの歴史は触れさせてもらえなかったけど、なんとなくわかっていたの。それがバカらしくなって」


 そう言うクエナの顔は苦笑い気味だった。


 彼女がウェイラ帝国を出たのは、その後のことなのだろう。


「私とジードの状況は少し違う。でも時と場合で人の心は変化する。ずっと同じなんてありえない。……そう思ってたんだけどね」


「そう思ってた?」


 後から付け加えられた一言に首を傾げる。


 おおむね同意するしかないものだったはずだが、今の彼女にとっては違うらしい。


「シーラのあんたを想う気持ちを見て変わった。ずっと真っすぐだから」


 快活な金髪の少女を思い出して、つい笑みがこぼれる。


 シーラには自然と人を癒してくれる不思議な魅力がある。


 きっと、気持ちを直球で伝えてくれるからだろう。……考えていて恥ずかしくなる。顔、赤くなってないよな?


「……私も感化されちゃったしね」


 クエナが隣で呟く。




 ……顔、赤くなってないよな?




「それじゃ、あの子を迎えに行くために早いところ用事を済ませちゃいましょ」


「ああ、そうだな」


 ようやく取り返せた聖剣を片手に、クゼーラ王都にある真・アステア教の教会へと歩を進める。




  ◇




 そこはアステアの教会。


 とはいえ、表からは入れない。


 当然、人通りの少ない裏門が眼前にある。


 もしも女神アステアの神託を拒絶した俺が堂々と来たら……それは問題だろう。信者が黙っていないはずだ。


 しかし、この教会には俺とスフィの関係を知っている人がいる。


「おや、ジードさん。どうかされましたか?」


 かつて神聖共和国で起きた七大魔貴族ユセフの侵略戦争。その場に居合わせた神父がクゼーラの教会に赴任していた。


 俺を見ても温和な態度と口調をしている。


 あれから交流は乏しかったものの、これならば普通に話しても問題なさそうだ。


「スフィと会えないか? ギルドを辞めたみたいで連絡が取れないんだ」


 シーラの勧誘で、一時的にスフィは同じパーティーとなっていた。だが、いつの間にかギルドの籍がなくなっていたのだ。


 同じパーティーであれば連絡のしようもあったが、今ではそれも叶わない。


 だからこうして出向いてきたというわけだ。


「スフィ様は現在多忙ですので、私でも足跡は追えません」


 聖女になったのだから忙しいのは当たり前だ。それは仕方のないことで、今日明日にでも会えるなんて思ってはいない。


 だが、


「足跡を追えないってどういうことだ?」


 意味深な言葉だ。


 まるで行方不明と言わんばかり。


 そんな俺の疑問にクエナが付け加えた。


「もしかしてアステアの教会が襲撃を受けている件?」


「そのとおりです」


「なんだ、それ」


「最近、ニュースになってるの。アステア関連の建造物やら集会やらが襲撃を受けたり、爆破されたり。大変みたいね」


 俺達が獣人族にいた時からの出来事なのだろう。


 クゼーラ王国の領地を離れるまで、そんな話は耳にしたことがない。


「スフィは大丈夫なのか?」


 多少の魔法の心得があるようだったが年端のいかない少女だ。


 もしも戦闘になれば非力な部類だろう。


 負傷しているスフィの様子が頭に過って胸騒ぎがした。


 しかしながら、神父は俺の心配を落ち着かせるようにニッコリと微笑んだ。


「幸い、スフィ様はご無事です。目下のところ犯人を追跡していますが、危険分子の身柄を拘束するまでは、大司祭クラスでなければスフィ様の居場所を知ることはできません」


 未だに犯人は捕まっていないのか。


 このままだとスフィにも会えないのだろう。


 俺も手伝った方が良いかもしれない。


「何か力になれることはあるか?」


「残念ながら……」


「まぁ、そうだよな。すまん」


 さすがに俺の協力は受けにくいのだろう。


 できれば勇者を断ったくらいでわだかまりは作りたくなかったが、そうもいかないほどに重要な称号なのだ。


「あ、いえ、そういうことでは……お力を借りれるなら是非と言いたいところではありますから……」


「……?」


 どうも歯切れが悪い。


 言いにくいことのようで、神父は話の流れを変えるように表情を変えた。


「しかし、スフィ様には何とか取り合ってもらえるよう、こちらから伝えておきますね」


「ああ、よろしく頼む」


 神父は信頼できる。


 だから聖剣を預かってもらっても良いかもしれない。


 だが、それでは自分で取り戻した意味がないし、この手で確実に返したい。


 なによりスフィがギルドを辞めた理由も聞きたいので直接会いたい。


 まぁしかし、急がなくても良いだろう。


 スフィの身の安全が第一だ。


 それに新しい勇者が決まったなんて話も聞かないので、聖剣はまだ持っていても良いはずだ。


 アステアの襲撃事件が気掛かりではあるが、無理に関与しては事を荒立てるだけだろう。


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