さそお
オーヘマス国都のギルド支部。
ロニィから連絡を受けて、俺とクエナは彼女と会っていた。
「最悪なのだ。二人も欠員が出たのだ……」
「欠員って成祭のやつか?」
「そうなのだ。襲撃を受けて回復まで数か月がかかるのだ」
「やっぱり襲撃を受けたのね」
クエナが言う。
それは予想できていたものだったからだろう。
ロニィもそれについては同意している。
「当然、彼らもなるべく一緒に行動するようにしていたのだ。だから返り討ちにしていたと思うけど……結局ダメだったのだ」
「証拠は掴めなかったってことか?」
「うむ、なのだ」
「けれど、十中八九、獅子族……あのロゲスとかいうやつでしょ」
「わかっているのだ。父さんも成祭の後に追放とか言ってたけど、それよりも早い段階でしばくそうなのだ」
しばく、って。
まぁそういう風習なのだろうと納得しておく。
どちらにせよ、いよいよ手段を選ぶなくなってきているのでロニィ達も強く警戒をすることだろう。
「それで、俺達を呼んだのは成祭に出すためか?」
不幸中の幸いだ。
二人の欠員なら俺とクエナでもなんとかなる。
「まだジードのことを嫌っている獣人は多いのだ」
ロニィがあっさり首を左右に振った。
なんとなく評価を改善してきたと思っているだけにちょっと傷つく。
「だが……大丈夫なのか? ツヴィスはあのロゲスとかいう奴を味方に引き入れるんだろ?」
「いいや、本人出場はありだけど、最高戦士と護り手はチームメンバーとしては参加できないのだ。そもそも成祭の最初の方は父さんと護り手で仕事があるみたいなのだ」
「ロニィは欠員の二人を補えるの?」
クエナが心配そうに尋ねる。
「探している途中なのだ。けどツヴィスは獅子族の屈強なメンツを揃えていて……」
ロニィはそれ以上の弱音を吐かなかった。
だが、その表情は雄弁に難色を示している。
協力したいが俺は嫌われているから無理だ。そんな俺とよく一緒にいるクエナも厳しいだろう。
「あ。なら俺の知り合いに手伝ってもらえないか聞いてみてもいいか?」
「良さそうなやつがいるのだ?」
「Sランクのトイポと同じSランクのレーノーってやつだ」
「おお、どっちも聞いたことがあるのだ! たしかレーノーは私と同じで護り手を蹴ってギルドに行ったやつなのだ!」
どうやら不満はなさそうだ。
俺としてもトイポが参加してくれるのなら安心してもいいだろう。実力は見ただけでわかる。
「まだ獣人族領にいるだろうから確認してみるよ」
「頼むのだ!」
「ああ、もちろんだ。……ところでロニィは何の用で俺に会いに来たんだ?」
最初は二名の欠員が生まれた話かと思った。
だが、俺の成祭参加は難しい。それはロニィも分かりきっていること。ならば目的は成祭についてではないことくらい自然とわかる。
「そうだったのだ。私は忠告をしに来たのだ」
「忠告? ロゲスのことか?」
物騒な単語が飛んでくる。
咄嗟に連想したのは俺にも襲撃の可能性があるということだった。
「違うのだ。父さんがジードのことを気に入っていたのだ」
「気に入って……いた?」
「そうなのだ。多分そのうち父さんに声を掛けられるから気を付けるのだ」
気を付けろと言われても。オイトマって王族みたいな扱いなんだよな?
声を掛けられたら気を付けるとかいう話じゃないような……。少なくとも呼び出しを受けたら応えなければいけないだろう。
しかし、まぁ心構えができるだけマシと捉えるべきか。
「わかった。ありがとう」
「なのだ! では成祭について進捗があったら報告してくれなのだ!」
「ああ、了解した」
◆
成祭でロニィに協力してもらうべく、ギルドの受付を介してトイポに話を通してもらった。
忙しいだろうに、トイポは一時間ほどして会いに来てくれた。
「なるほどぉ。成祭かぁ」
トイポに事情を説明すると、やはり知っていたようで理解がはやかった。
だが、あまり芳しくない。
「依頼として要請したい。金なら都合はつく」
「うぅーん。お金は別に要らないかな。ただ日程がね。成祭って明後日からだよねぇ。ちょうど仕事と被るんだよねぇ」
「はい、成祭のメンバー変更は可能なので最終日には間に合いますが……ロニィさんの初戦の相手は闘牛族。こちらも名のある種族なので生半可なメンバーですと厳しいでしょう」
レーノーが付けくわえた。
仮にロニィの最終日以外の敵がそこまで強くなければ、適当な代役を立てればよかっただろう。そうして最終日にトイポ達が代われば事はスムーズに動いていた。
つまり、初戦からトイポ達が参加してくれるのがベストというわけだ。
「そもそも連れてきたメンバーで『格』を測るんでしょお~? 最初から出てあげたいけどねぇ」
「なら俺がトイポ達の仕事をやれないか?」
「ほうほう、オーガ討伐だし問題ないけどぉ。レーノー君はどう思う~?」
「それなら問題ないかと。とはいえオーガは散らばっていて打ち合わせには間に合いませんが……」
「まあ~、護り手の人たちにはこっちから連絡するよぉ」
「すまない。ロニィの方には俺から伝えておく」




