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へんか

 俺とクエナ、ロニィは表を歩いていた。


 オーガ襲来の際に俺が獣人を助けたことが広まっているようで、ビクタン曰く『ここら一帯ならば好感度はむしろ高い』とのこと。


 それを聞いたロニィが『なら一緒に歩いて話しても問題ないのだ』と、俺達を連れ立って外に出てきたのだった。


 ちなみに両手には贈り物を積んだ板の取っ手を握っている。


「いやー、おまえ達のおかげで良いことをいっぱい知れたのだ! 感謝するのだ!」


「感謝ついでに教えて欲しいんだが、なんで『のだ』って言ってるんだ?」


「語尾のことなのだ? 当然、威厳を出すためなのだ。そう聞くってことは、やっぱり迫力あるのだ?」


「……まぁ、そういうことにしておこう」


 俺の受け取り方がおかしいだけかもしれん。


 ていうか、『のじゃ』とか言ってるリフも……いや、これ以上考えるのは止そう。もしかすると、それが普通なのかもしれない。


「それで、おまえ達はどこに行くのだ?」


「ひとまずギルドね。ジードの持ってる物を輸送してもらわなきゃ」


「ああ、クエナの家に送っても良いか?」


「スペースはあるから問題ないわよ」


「さんきゅ」


 水物は魔法で凍らせてあるが、ギルドの輸送システムは便利だ。様々な商会と関係を持っているから俺が凍らせなくとも腐らせることなく運んでくれる。


 料金も冒険者なら割引ありだ。


「ふーむ。じゃあ、ひとまずここでお別れなのだ」


「ロニィは何をするの?」


「マジックアイテムを買いあさってくるのだ。ビクタンから貰った≪炎雷≫以外にもいろいろと」


「宣伝だものね。いってらっしゃい」


「うむ! また会おうなのだ!」


 大手を振って足早に立ち去っていく。


 なかなかに豪胆なやつだ。


「あれは素でやってるのなら凄いわね」


「なんのことだ?」


「ロニィよ。マジックアイテムを使うことで凄さをみんなに教えようとしているのだろうけど、彼女が積極的に使うことで、マジックアイテムに携わる人たちが味方になってくれるわ」


 プラスの感情はプラスの感情を呼び寄せるってことだろうか。


 口調も相まって深くは考えていなさそうに見えるが、クエナの意見を聞くと中々にすごい。


「でも反感もあるよな」


「あるわね。マジックアイテムを嫌いな獣人も多いはず」


 クエナが神妙な面持ちで頷いた。


 そういうことなら好きか嫌いかの人口比率によっては投票に差が出るのではないだろうか。


 と、なると。


「賭けじゃないのか?」


「いいえ。獣人でも生活にはマジックアイテムが根付いているわ。これで重要性に気付いてくれる人が増えて、むしろ関心は持たれるはず。それに『弱者』に同調する人って結構多いわよ」


 まぁ人族の尺度だけど。なんて付け足してクエナは笑う。


 それからしばらく歩いてようやくギルドに辿り着く。


「んじゃ、荷物預けるか」


「うん、預けておいて。その間に私は仮眠室を借りてくるから」


「仮眠室?」


「そ。お金さえ払えば借りれるの。追加料金でご飯も食べられるし、お風呂も入れるわよ」


「そういえばあったな……なんで昨日ここの存在を忘れてたんだ」


「……やめましょう。私も忘れてたの」


 クエナが珍しい失態に落ち込みと気恥ずかしさをない交ぜにした声音で答えた。


 なんだかんだギルドに相談すれば手配してくれただろう。そうしなかったのは獣人族の領土に来て警戒をしていたのかもしれない。


 無意識に交流から逃げていたのだ。


「この荷物を輸送してくれないか」


「はい。どちらまで?」


 受付の獣人も平然と対応してくれる。


 あまり自意識過剰になるのも如何なものだな。……いや、自意識過剰っていうか絡まれたのは本当のことなんだけどな。


 荷物の手続きを終えると、クエナの下にまで足を動かそうとして、


「あれ、ジードさんじゃないかぁ」


「ん? ああ、トイポ」


 久しぶりに出会う。


 様々な道具の入ったリュックを背負いながら片手にはピッケル。恰幅の良い中年の男で、一見すればなんて事のなさそうなほどにおっとりとした雰囲気を纏っている。


 しかし、俺と同じSランクの【探検家】トイポだ。


「はははー、聞いたよ。勇者断ったんだって?」


「めんどそうだったからな。おかげさまで各方面から絡まれて更にめんどうになったが」


「そりゃそうだよぅ。ていうか獣人族にいて大丈夫なの? 護り手とか知り合い多いから言うけど、正直ジード君、獣人族の強い人たちから狙われてるよぉ」


「取り返したい物がここにあってな。トイポはどうしてここに?」


 俺の問いにトイポが一枚の紙を取り出す。


 どうやら依頼書のようだ。


「最近オーガが暴れてるっていうから殲滅……もとい討伐の手伝いだねー。話によるとオーガキングまで出ているって騒ぎだよぉ」


「――トイポさん、打ち合わせの場所が決まったので行きましょう」


 トイポの背後から男が近寄る。


 虎の耳と尻尾だ。どちらも黄金色をしている。図体がデカい。なによりも強い。身のこなしの所作に経験を感じる。


「おっ、そっかそっかぁ。あー、そういえば紹介しておこうかなぁ。ジードさん、こっちはレーンー君。ぼくの助手で大虎族。ちなみに昨年の獣人族Sランクだよぅ」


「よろしく頼む。同期だな」


「ども。レーノーです。同期ですね」


 二十代後半くらいだろうか。


 握手を交わす。


「レーノー君には紹介不要だねぇ」


「ええ、ジードさんの話は何度も聞いていますから」


 ちょっと照れる。


「急いでるんだろ? 話はまた今度にでも」


「そうだねぇ。それじゃあ、また~」


「ああ、またな」


 トイポが間延び声を発して去って行く。


 俺もそれに応じて軽く手を振っておいた。


「ジード。泊まる場所の確保してきたわよ。これあんたの鍵」


「俺の分までやってくれたのか。ありがとうな。いくらだった?」


「いいわよ、気にしないで」


「いや、さすがにそれは悪いって。むしろ一緒に来てくれたんだ。俺が全部出すべきなのに……」


「本当にいいってば。私はジードがいなければルイナのことばかりに拘っていたと思うから。あんたには感謝の気持ちでいっぱいなのよ?」


「いやいやいや、俺の方が……」


「ふふ、いいって。それより今日は何する?」


 クエナが強引に話を流す。


 その魅力的な笑みに呑まれる。


「ん……そうだな。何かやることってあったっけ?」


「成祭のために何かやってもいいけど……私たちは下手に動かない方が良いわね。まだまだ嫌われているでしょうから」


「散歩でもするか?」


「凄いわね。普通は籠ってるべきよ」


 クエナが気抜けした表情でとがめる。


 たしかに俺の発言はのんきなものだと捉えられる。けど、好奇心ばかりは止められない。


「すまん、獣人族は始めてくるからさ。ここからは別行動でもいいが……」


 なんて言うと、クエナが頬をぷくぅーっと膨らませる。


「ここまで来たんだから一緒にいるわよ。私もやることないし」


 さらにクエナは俺の頬をつねった。


「いひゃぃ、いひゃいって……!」


「私を置いていこうとした罰よ」


 どうやら俺の配慮は余計だったらしい。


 なんとか謝って許してもらうのだった。




「おお、すごいな」


 空高く、バルーンによってロニィが宣伝されていた。


 街中でも軽いパレード騒ぎだ。


 掲示板らしきものにもロニィのことが描かれている。


 それだけじゃない。


 ロニィのカッコいい戦闘のシーンやらを切り取られたものが空中に放映されている。


 しかも、触れない画面が行く道行く道にある。全部ロニィが映っていた。


「マジックアイテムか? 魔力だ」


 画面には触れない。


 あまり見る機会のないものに、獣人の子供たちも『わぁ! すごい!』なんてお祭り騒ぎをしている。


「ああ、噂の3Dってやつね。とてもリアルでしょ」


「こんなものがあるのか……」


「とても難しい上に費用もかかるから実用できるものではないはずだけどね」


 クエナも物珍しそうに眺めている。


 クゼーラの王都では見かけなかったものばかりだ。


 なんで急に。


「おお、ジードさん。いかがですかな。オーヘマス国都のマジックアイテム職人が力を集結させましたぞ」


 どこか誇らしげに、茶色い兎の耳をした男が声をかけてくる。


「ビクタン。これはおまえ達がやったものなのか?」


「はい。成祭は最高戦士になる確定してなれるものではありませんが、少しでもお役に立てればと思い」


「すごいな。一気に変わっててビックリしたぞ」


「それだけ獣人の中には変革を求める者達がいる、ということなのでしょう」


 クエナの言っていたことは本当だったようだ。


 動きがはやすぎる。規模もでかい。


 こうなればロニィへの注目度は高くなるのも必然だろう。


「それでは、私は更なるデモンストレーションの用意がありますので」


 ビクタンが軽くお辞儀をして離れていった。


 順調に事が進んでいる。


 この日は、そう思っていた。


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