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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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かげ

 路地裏。薄暗く、人通りも少ない。


 嫌われ者の俺がロニィと出会うには最適の場所だ。


「いいのか? セネリアにあんなこと言って」


「どうせ、そのつもりだったんでしょ? それに、セネリアに傷ついて欲しくなかった、かな。一宿一飯の恩があったから」


「それは俺も同じだな。でもやり方がわからない。ツヴィスを成祭で勝たせてやることは無理だぞ?」


「ええ。でも、ツヴィスの環境を変えることはできるんじゃない?」


「環境を変える? どうやって?」


「そこはあんたの参謀に任せなさーい」


 クエナが悪戯っぽく笑って、冗談半分に人差し指を口元まで運ぶ。どことなく小悪魔の面影が見えた。


 整った顔でそれをやられると胸がときめくので止めて欲しい。心臓に悪い。


「なーにイチャコラしてるのだ。私はお邪魔なのだ?」


 会話の最中、ロニィが現れた。


 なんだか獣人族に来てから変に茶化されることが多いな……。


「いいえ、ロニィ。あなたに提案があるの」


 クエナが笑みを作って迎える。


 興味深そうにロニィが笑みで応じる。


「ほー。是非聞きたいのだ」


 ロニィが俺たちの下にまで来て、壁に背を持たれかけた。それから狼の耳をピクピクさせながら傾けている。


「あなたが成祭で獲得できる票を増やす方法を知っているわ」


「ふむ?」


「あなた達の『強者優位』の思想に不満を持っている人たちに手を差し伸べなさい」


「不満? そんなやつら獣人族では見たことないのだ」


「……本気で言ってるんだから凄まじいわね。じゃあマジックアイテムを作っている人たちは満足していると思う?」


「そりゃそうなのだ。強者の庇護下にあるのだから満足以外にないのだ。不満なら別の場所に行くのだ」


 なるほど。


 ロニィ達の現状の認識がクエナの想像とはズレているようだ。だが、実際にはどちらが正解なのか判断つくものだろうか。


 たしかに普通ならクエナの考えが正しいが、ここは獣人族領だ。人族とは違う考え方が根付いていてもおかしくない。実際にロニィとは俺もズレを感じる。


 なんて考えているとクエナが紙を取り出す。


「そう言うと思ったわ。実際に一部はそうかもしれないけれど、ひとまずこれを見て」


「なんなのだ?」


「私の提案が正しいと思う根拠よ。実際に獣人族領から離れた人々の数」


「ふむぅ。結構いるのだ」


「こういう数字を作る人もいないんでしょ、あんた達。昨日の夜、ギルドに問い合わせてようやくあり合わせのものを作ったのよ」


 クエナは呆れたような眼差しだ。


 似たような文献がなく、書類を作るのに苦労したのだろう。


 それでも一晩って凄いな。


「それで、この不満を持ってるって層をどうするのだ?」


「あなたの支持者にするのよ。具体的には『最高戦士になったら環境を整える!』とかね」


「それはむしろ護り手や強者側からの反感が来そうなのだ。そもそも弱者は力さえ見せれば付いてくるのだ」


「実際に私の提案通りに行った人がいたの?」


「それは……いなかったのだ」


「強いのは一部だけ。力を誇示しているのは一握りだと思うわよ。護り手の数がそれを示している。きっと私の言うとおりにしたら勝てるわ」


「うーん……でも……のだ」


 すごい悩んでいる。


 なかなかに包み込みにくそうなバストの下で腕を組んでいる。


 ふと、疑問に思ったことを尋ねてみたくなった。


「そんなに悩むことか? 実際に最高戦士になるか決めるものでもないだろ?」


「弱いやつらは強者に勝手に付いてくるのだ。なにより口先だけになるのがイヤなのだ。私は言ったことはやり遂げたいのだ」


「ほー、えらいな」


「えへ。照れるのだ」


 ロニィが赤面する。


 しかし、これくらい真摯でなければ聖剣の話もうやむやにされていたかもしれない。ある意味では俺達も助けられているのだ。


「ロニィ」


 クエナが真剣な表情で向き合う。


 目に強い力がある。


 ロニィもかなり視線を合わせづらそうに右往左往していた。


「な、なんなのだ?」


「あなたは強い。それは大陸でも認められている。なぜなら『Sランク』だから」


「ま、まぁ当たり前なのだ。えへ」


「だからこそ、あなたの発言は大きな影響をもたらす。このオーヘマス国都に」


「うむ。その通りなのだ」


 クエナにおだてられたロニィが厳粛そうに――実際は隠しきれない笑みに口元が緩んでいるが――頷く。


「なら、たとえあなたが実行に移さなくとも『弱者のための環境づくりをする』と言うだけで口先だけにはならないわ。それだけの反応があるはずだから」


「そう……なのだ?」


 そうなのか?


 正直、俺も疑問に思った。


「もしもロニィが実行に移さなくとも民間レベルでは考え方が変わるきっかけになる。もっと環境を良くしてほしい、待遇を良くしてほしい。とね?」


「たしかに」


「仮に約束を守れなかったとしても私たちが口先でなかったと知っている。それに実行に移せばロニィはその書類にあるだけの獣人族を連れ戻せる。そして、これから流出していく人々を守れるのよ」


「なるほど。そのとおりなのだ!」


 クエナの昂然とした口ぶりにロニィが頷いた。


 たしかに説得力がある。というか有無を言わさない、ある種の権威的なオーラが漂っている。


「それじゃ、私の言うとおりにやってくれるわね?」


「わかったのだ。なにをすればいいのだ?」


 あっさりとロニィを丸め込めた。とんでもない話術と手腕だ。


 これを本人に言ったら怒られるだろう。


 でも、クエナはやっぱり女帝ルイナの妹だな。


 この話し合いを見ていると、どことなくルイナに雰囲気がそっくりだ。



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