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謀議

 クゼーラ王国・騎士団本部。

 そこでは第一騎士団団長および副団長、第二騎士団団長および副団長、第三騎士団団長および副団長、さらに指揮官クラスのエリートたちが集まっていた。

 それぞれ団長クラスは円卓に座り、他の副団長以下指揮官クラスは直属の後ろに立っている。



「やはり王から責任問題を追及されたぞ、第三騎士団団長バラン・ズーディー」



 睨みを利かせるのはこの場においてもっとも権力のある立場の第一騎士団団長、ランデ・イスラだった。

 ランデが見ている先は怒りと驚きを混じり合わせた感情で映像用のマジックアイテムを見ているバランだった。水晶の丸い形をしたマジックアイテムにはバランが幻影を斬っている様子と、明らかに『無関係』とは捉えられない映像や音声が映し出されていた。



「なぜ! あそこにはたしかに捕えられたあのバカ騎士の姿があったはずだ! 感触だって間違いない! こんなバカなことが……!」

「よせ、バラン。醜い」

「だが、ランデ……!」



 鬱陶しそうに見つめる第一騎士団団長ランデの姿を見て、バランは思わず口を閉じた。



「今のおまえには三つの選択肢がある。一つは請求された賠償金をすべて自腹で払うことだ」

「そんな無茶な! 第三騎士団に支給された団員の生活費や移動費を削っても賄えないぞ!」



 思わずバランがこぼした言葉の異常性を理解できたのは、おそらく第一騎士団副団長のシーラくらいだ。

 自腹と言っているのにも関わらず、第三騎士団までも道連れにしようとしているのだ。我が物顔で。しかも団員たちの食費や馬車の運賃などをすべて使おうと言っている。

 自分が貯めこんでいる金を使おうという考えは微塵もない。

 こんなことは到底ありえないことだ。

 しかし、今の騎士団のイカれた空気はなにも違和感を伝えなかった。



 そんなバランにランデが二つ目の選択肢を言い渡す。



「二つ目は――死ぬことだ」

「なっ!? 俺に死ねと言っているのか!?」

「そうだ。責任を取れぬならせめて首を差し出せ。そうすれば神聖共和国側の条件も緩くなるかもしれない」

「ばかな! ありえない!」



 まったく自分が悪いとも考えていないバランが首を横に振る。

 それも予想通りとばかりにランデが次の選択肢を口にした。



「三つ目だ。第三騎士団の全団員に『奴隷の首輪』を装着するよう強制しろ」

「……!?」



 奴隷の首輪。

 その言葉を聞いてバランは驚愕した。



 それは魔物を誘導するマジックアイテムと同様に、種族間でさえも禁止されているマジックアイテムだった。

 かつては裏でも取引されていたことがあったが、あまりにも非人道的すぎると種族間での同盟にさえ発展して、取引していた組織を壊滅させたほどのもの。



 今では作成方法さえも途絶え、現状で奴隷の首輪が存在しているかも定かではない……はずだった。



「まさか……持っているのか?」

「ああ、国宝保管庫で発見した。そしてすでに――第一騎士団と第二騎士団では団員に強制装着を義務付けている」

「なに……!? 我々が神聖共和国へ遠征している間に!?」

「楽でいいぞ。これで脱走者もいない。わずかに存在した命令に反抗する者もいない。死に怯えて怯む者も――いない」



 その言葉を聞いていたシーラの拳から血が滴っていた。

 聞くに堪えない、見るに堪えないと、シーラは目を閉じて必死に現状を逃げていた。この惨い会議に立っていることができることの一つだと分かっているからだ。

 今のシーラにはなにもできることがないと彼女自身が一番分かっているからだ。

 その上でやること、やれることを模索している。今は我慢と言い聞かせながら唇を噛みしめていた。

 だが、その反対に、第三騎士団団長バラン・ズーディーの口元は緩んでいた。



「そんなものがあるなら、さっさと言ってくれればよかったのに」

『!?』



 シーラの些細な希望さえも打ち砕かれた。

 第三騎士団団長が止めてくれる、という微かで淡い期待さえも。

 ランデがバランの言葉を聞いて同様に口角を上げた。



「そうか、すまないな。たしかに言ってしまえば捕虜となったあの男も余計な情報を吐く前に自殺するよう命じることができていたものな」

「まったくだ。しかし、これで二度と同じようなヘマをしないで済む。ははは! よく見つけてくれたな。しかし、奴隷の首輪を装着すれば俺の罪が拭えるのか? それはどうして?」

「――落とすんだよ、神聖共和国を。そうしたら賠償なんて問題も……なくなるだろ?」

「ふっはっはっは……! なるほどなぁ。たしかにそうだな! しかも死をも恐れぬ大軍……これは領土が増えること間違いなしだ」



 シーラを除いた騎士団の上層部から笑い声が溢れる。

 その異質な光景を、王族や文官が見ていたらどう思っていただろうか。

 勘付いてはいたがここまで腐敗していることを彼らは知らない。

 そして騎士団上層部自身も、客観的に見ることさえできればいかに狂っているか理解できていたのだろうが、それすらもできずただただ逸脱した状態を止まることなく、謀議を突き詰めていくのだった。

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