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「それで二つ目じゃがの」


 リフが頭を痛そうに擦りながら言う。目じりには涙が溜まっていて、さすがに懲りたのか指は立てていない。


「ジードから頼まれていた聖剣の在り処を掴んだぞ」


「なによ。そんなもの頼んでいたの?」


「ああ、依頼を出すことも考えたんだけどな。今の俺が依頼を出しても受けてくれるやつがいるとは思えなかったんだ」


「たしかにね。普段ジードと一緒にいる私やシーラが出しても同じことだろうし」


「うむうむ。困った時には真に頼れる人を思い起こすものよな」


 リフが満足げに頷く。クエナはリフの態度に些か不満そうだ。しかし、そのことを言われてまた話が逸れるのも面倒だ。


「それで、どこにあったんだ?」


「――獣人族領じゃ」


「なんでそんなところに……」


「色々と辿らせたのじゃがな。最初は王都の路地裏のゴミ捨て場にあったみたいぞ。それを拾ったチンピラが鍛冶屋に売りつけて、その鍛冶屋が冒険者に売り払ったみたいだの」


「そして冒険者が獣人族の領地に行った、と。今の保有者はその冒険者か?」


「うむ。とはいえ、正式な所有者でない限りはガラクタ同然のものゆえ、おそらく駆け出しの冒険者が保有しているじゃろう。身元もほとんど割れておる」


「取り返すのは簡単そうね。ギルドが手配してくれない?」


 クエナが言う。


 たしかにギルドが冒険者に伝言してくれた方が楽だし、便利そうだ。


「それは難しいのぅ。獣人族のギルド支部にはいろいろと仕事を頼んでいる。そこに人探しとなると時間がかかりすぎる。依頼してはどうじゃ?」


「いや、それはダメだ。時間がかかるかもしれないし、その冒険者を指名手配するようで気が引ける」


「そうね。それに大々的に聖剣について描くわけにもいかないわよ。あの形状、勇者関係の話が好きだったらパッと見で分かるもの」


「ま、俺達が行くしかないな」


 自然と選択肢が絞られる。


「でも、なんでそんな場所にあったのかしら。シーラが隠していたはずだし、防犯もしっかりしてるはずなんだけど」


 しかも、他に金目のものは何も取られていない。聖剣を狙い撃ちにした犯行だ。だというのに捨てられた。はっきり言って異様だ。


 すると、リフが険しい顔つきになる。


「そのことじゃがの。聖剣を捨てた犯人の目撃情報も聞いてきた。シーラだったそうじゃよ」


「わ、わたし!?」


 まったく身に覚えのない様子でシーラが驚く。


 いや、俺もシーラが聖剣を盗んで捨てるようなやつには見えない。予想通り、リフには続きがあったようで。


「――しかし、わらわはシーラの中にいる邪剣に話を聞きたいのお」


「ま、妥当な線よね」


 リフとクエナの意見は同じようだ。


 これに関しては俺も微かに想像していたことだった。聖剣と相性の悪い邪剣が破棄した可能性は否定できない。


「う、うーん? でも、ここ数日お話しできてないの。体調が悪いみたいで」


 体調とかいう概念があるのか。いや、まあ感覚的なもので、適当な単語を当てはめているだけなのだろうけども。


「で、あろうな。おそらく、そいつが身体を乗っ取って聖剣を捨てたのじゃ。そして体力を使いすぎて眠り込んでおるのじゃろう」


「の、乗っ取った!?」


「てか、逆にシーラはなにも知らないのか?」


「うん……邪剣さんに何か聞いても教えてくれないし。名前すら知らないもん」


「よくそんなもん身体に住まわせてるよな……」


 リフがシーラの肩を叩く。


「ジードとクエナは獣人族のところに行くがよい。そこで聖剣を取り返すのじゃ」


「リフとシーラはどうするんだ?」


「しばらくシーラは借りるぞい。もしかすると邪剣を外に出してやれるかもしれん」


「えぇ! 色々と嫌なんだけど! ようやくジードと一緒にいられるのに! 私も獣人族いくもん!」


 シーラがリフから離れようとする。


 が、岩のようにピクリとも動かない。見かけによらずリフは怪力のようだ。シーラが子供のように遊ばれている。


「聖剣をなくしたのが邪剣さんなら私が責任を取らないといけないの! ジードの責任とるもおおおーん!」


「おいおい、変な言い方はやめろって!」


 慌ててシーラの口を閉じようとする。


 だが。


 その前にリフが魔力を揺れ動かした。


「――では、またの」


 リフが転移を発動した。シーラを連れて。


 一個も有無を言わせない姿勢にビックリだ。それだけリフが本気であることが伺える。


「まったく。なんなのよ」


「リフに悪意はなさそうだったが……もしかしてシーラってヤバい状況なのか?」


「そうなんじゃない? 私たちに心配をかけたくないんでしょ。もしくは私たちにさえ言えないものとか」


「そんなもんあるのか?」


 リフは俺のことを評価してくれていた。手伝えることがあるのなら、全然手伝わせてもらいたいくらいなのだが。


「私も知らないわよ。でも、あんたが知ったら余計なことに首を突っ込みそうだし。気持ちは分からないでもないわ」


「そ、そんなこと思われてたのか。クエナも俺に隠してることあるのか……?」


 気持ちが落ち込む。


「な、ないわよ! …………いや、ないって言ったら恥ずかしいけど!」


 クエナの必死な切り返しに、少しだけ照れ臭さと嬉しさがこみ上げてくる。


 それからクエナが顔を逸らして玄関のほうに向かっていく。


「ほら、行くわよ! はやいところスフィに返してあげるんでしょ、聖剣!」


「ああ。そういえば、クエナと二人だけでどこかに行くのは久しぶりだな」


「……!」


 無言のパンチが胸に飛んできた。


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