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東和国の今後について、話し合われた。
ウェイラ帝国は主権と支配を訴え、神聖共和国は保護を望んだ。
第三頭任らはウェイラ帝国が倒した。俺が協力していたとはいえ、どちらの陣営にも参加していない。完全に個人で動いていた。だからこそ、第三以降の頭任を倒した時に依頼されていたウェイラ帝国に偏った。
しかし、神聖共和国はウェイラ帝国の支配を許そうとはしなかった。たしかに保護領の打診は断られていたが、それでも神聖共和国が主導となって東和国の自立と再興を促したい、ということだった。
かなり難航すると思われていた。だが、アトウと第四頭任が来て話は一転した。
「――じゃ、東和国は神聖共和国と同盟をして自治をすることになったのか?」
「はい。そうなります」
俺はソリアから一連の流れを聞いていた。
ウェイラ帝国の支配でもなく、神聖共和国の保護でもなく。
彼らは自治という道を選んだそうだ。
そこに縛りはなく、あくまでも東和国として今後の復興に努めていくそうだ。
「しかし、よくウェイラ帝国も諦めてくれたな」
「ジードさんは東和国に来る前の海戦を覚えていますか?」
「ああ、覚えているよ」
「私は詳しくは見ていませんでしたが……東和国の海軍は大陸でも別格の力を持っていました。ウェイラ帝国にはその技術力を提供することで話をつけたようです」
「あれか」
魔法を吸収したり跳ね返したりしていたやつだ。なかなかに面白そうなものだったが、ルイナはそこまで興味を惹かれたのだろうか。
「でも東和国を支配できれば技術力もゲットできるんじゃないのか? ルイナが諦めるとは思わないが」
「第四頭任の方が交渉のうまい方でして。それに海軍はアトウさんの第五頭任領の技術なんですが、彼が『もしも支配をされるようなら書類ごと爆死してやる!』と」
「はー……すごいな」
そういえばユイの家族を手にかけた件でも突っ走っていた。彼はそういう人柄なのだろう。
「じゃあ後はルイナが約束をしっかり履行するかどうかだな」
「その点に関しては大丈夫かなぁ、と。私たち神聖共和国も目を光らせていますし、彼女も不義理な条約破りはしないはずです」
「そういうもん……なのか」
なんだかルイナには残虐で冷酷なイメージがある。
いや、それも話してみて少しだけ変わったか。とくにクエナのことを気にかけていたのは意外だったし。
まぁ、ソリアが言うのであれば問題ないだろう。俺にできることもないしな。
「じゃあ神聖共和国もそれで良いのか? 保護領にするって話はなくなったようだが」
「東和国が再起不能と考えていたからこそ、保護領の件を打診しました。しかし、彼らなら大丈夫でしょう。今、病を取り除いた東和国の立て直しが行われています。計画書を見たのですが凄いんですよ。たとえばですね――」
とても楽しそうにソリアが語る。
人々が幸せになっていく姿を見るのが、想像するのが楽しいのだろう。
俺は心底、そんな彼女を『聖女』らしいと思った。




