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その実

 ジード達がいる前でバランは口汚く捕縛された騎士を罵った。



『おまえは役立たずのごみだ!』

『そんなおまえがさらにこの名誉ある私に罪をなすりつけるとは言語道断だ!』

『騎士道をなんだと思っている! 貴様がやっていることは盗人や家畜にすら劣る行為だ!』

『このままだと国にいる貴様の家族がどうなるか分かっているのだろうな!?』



 と。

 もうそれは半ば脅迫のようなものになっていた。

 これが騎士団の現状であるとジードは知っていたからなにも言わない。だが、神聖共和国の面々やクエナはかなり唖然としていた。

 こんな人前でズタボロに部下を責め立てること自体が異常であるのだ。

 捕虜になっているというのにも関わらず、かつて自分に仕えていた人間であるにも関わらず。

 心配する一言すらなく罵声を浴びせる。

 捕虜の騎士は涙さえ流していた。

 そんな騎士にバランが続けて問う。



「貴様、私がマジックアイテムを設置するよう命じたと口にしたそうだな。……それは本当か?」



 バランが睨む。

 捕虜の騎士は身体を強張らせながらも、震える唇をなんとか抑えながら言葉を紡ごうとした。



「そ、それは。実際にそう……」



 しかし。

 捕虜の騎士の言葉をバランが大声で遮った。



「さっきも言ったとおりだ! もしも貴様が私に濡れ衣を着せるようなことがあれば承知しないぞ。貴様だけじゃない……貴様の家族もだ」

「――ッ!」



 捕虜の団員があまりにも衝撃的な顔をする。それだけじゃない。絶望、恐怖、不安……そういった負の感情が混ぜ込まれた暗い顔だ。

 この世のすべてに絶望した、そう言わんばかりに顔に影を作って俯いた。

 その姿に支配欲を満たしたのか得意げにバランがヒゲを弄る。



「うんうん、それでいいんだ。おまえは錯乱して禁止されているマジックアイテムを設置した。それらは誰に命じられているわけでもない、そうだな」

「……ち………う」

「あん? なんだ? 聞こえないぞ~?」



 もう逆らうことはない。

 バランはその余裕があった。だからあえて挑発的に、面白半分に耳を傾けた。

 だが予想とは反対に捕虜は顔を挙げて意を決して物申した。



「違うと言っているんだ! 俺はおまえに命じられてマジックアイテムを――……!?」



 しかし。

 すべてを言い切る前にその頭は――胴体から離れていた。



「……え?」



 とは、地面に転げ落ちた頭が最後に発した言葉だった。

 その頭が見たものは血まみれの剣を振りぬいているバランの姿だった。



「ふん! 余計なことを言わなければ良かったものを。最後まで錯乱していたとは哀れなものだなぁ。ではこれにて失礼する。まだなにかあるのであれば王国にどうぞ」



 吐き捨てながらバランが去っていく。

 自分自身が斬り捨てた同胞を拾うことなんてせず、ましてや視界に入れることさえなかった。そこらへんの石ころのように。





 バランが去っていき、数秒後。

 テントの中には――本当の光景が流れていた。





「――と、まあこんな感じで第三騎士団ひいては王国が関わっていたことは明確ですね」



 俺はこの場に掛けていた魔法を解いた。

 バランが斬っていた幻覚も陽炎のように霧散していく。そして本体の捕虜の騎士は別の場所から姿を現した――。



「なんということだ……」



 驚きを隠せず口にしたのは神聖共和国の重鎮だ。

 彼はソリアが呼び、この緊急事態でも、急遽馳せ参じ、対応できる一番上の人間だそうだ。



「まぁそもそも一介の騎士が魔物を誘導するマジックアイテムなんて持てるわけがないからね」



 クエナも俺の言葉に同意しながら頷く。

 ばつが悪そうに捕虜が俯いたまま否定しなかった。



「この一連のシーンは映像録画のマジックアイテムにて保存しております。ひとまずは上で緊急の会議を開き、対応を決めます。ジードさん、この度はありがとうございました」



 かなり上の人間であるはずの男が頭を下げる。さらにソリアや青年指揮官らも一斉に頭を下げてきた。



「いやいや、あくまでも依頼の一環ですので」



 さすがになんだか申し訳ない気持ちまで溢れてくるので頭を上げてほしい。

 そう思ったのに、さらに重鎮らしき人物が言ってきた。



「いえ、ここまでやってもらったのですから依頼金の倍は出させていただきます! 本当に我が国の危機を救っていただきありがとうございます……!」



 さらに深々と顔を下げてきた。



「そんな。顔を上げてください。そうやってお礼を言っていただけるだけで俺は嬉しいですよ」



 それは俺の本心からの言葉だった。

 依頼を受けて金をもらう。それが俺の冒険者としての仕事だ。しかし、金と一緒に「ありがとう」の言葉も付いてくる。受付嬢からは「お疲れさまでした」とも言われる。

 その言葉のありがたみが染みる。

 それらはさっきのバランが思い出させてくれた。仕事はして当たり前。仕事を終えてからの言葉は「次の仕事にはやく移れ」の一言。本当にどうしようもない組織だった。



 そんなことを思っているとフルフルとソリアが震えだした。

 え、俺なんかしたっけ。

 なんて自分の罪を確認していると、



「どこまでっ……どこまで素晴らしいお人なんですか、あなたはっ!!」



 今まで俺と視線すら合わせずキョロキョロとしていたソリアが俺の手を掴んで迫った。随分と勢いがある。

 だが、すぐに自分が過剰な反応をしてしまったと気づいたのかパっと手を離した。



「すっ、すみま、すみませんっ! つい……! あのっ、そのぅっ……そ、そう! すごかったですね! あの幻覚魔法! あれほど高等なものは見たことがないです!」



 よほど恥ずかしかったのだろう。

 顔を朱色に染めながら視線を合わせようとせず左右をうろうろ彷徨わせている。



「そうね。たしかにあのレベルの魔法はバカギルドマスターさんくらいでしか見たことがないわね」



 クエナがソリアの助け舟を出した。こいつ本当に気が利く。



「あー、あれか。あれは俺が昔いた森で幻を見せてくる魔物がいてな。その魔力の動きをコピーしただけだ」



 懐かしいな。

 何度も何度も同じ場所から抜け出せなかった。ようやく変な魔力の動きを見せる魔物を特定し、もう二度と同じような手に引っかからないように覚えたんだっけか。



「「「へ?」」」



 みんなが一様に目を点にさせて首を傾けた。



「昔いた……森……ですか? それに魔物が魔法を……?」

「……あんたどんな環境で育ったのよ?」



 あれれ。なんだか引かれた気がするぞ。そんなに珍しかったかな。

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