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27

「……ん」


 背中から、のそりと身体を動かす感触が伝わる。


 ユイだ。


 俺は眠ったままの彼女を背負いながら帰路についていた。


「起きたか。おはよう」


「朝……!」


 すでに陽が昇っている。


 任務のことを思い出したであろうユイが、背中で慌ただしく反応している。


「大丈夫だ。もう終わったよ」


 俺がそう言うと、ユイは静かになった。


「……」


 しばらく間があった。


 彼女の中で色々と巡っているのだろう。


 俺にだけ仕事をさせてしまった罪悪感や、眠ってしまった自分を咎めるものもあるかもしれない。


「……どう、だった?」


 ユイが最初に尋ねたのは結果だった。


「また話を聞いてもらえなくてな。ちょっと暴れてしまった」


「……――」


 なにかを察した気配で、ユイが黙った。


 それから肩を軽く叩いてきて「降ろして」と呟いた。


「疲れただろう? もう少し休んでもいいんだぞ?」


 なんて俺の言葉も聞かず、ユイが地面に立つ。


 それから一歩先に出てから膝を曲げて背中を向けてきた。


「……どうぞ」


 これが意味することは。


「今度は代わりにユイがおんぶをするって?」


「ん。私は十分」


 思わず笑みがこぼれる。


 安直だが、純粋な考え方だ。


 これが彼女なりの、仕事をサボってしまった贖罪だろうか。あるいは何かを察したための配慮だろうか。


「たしかに、ぐっすり寝ていたからな」


「うっ」


 俺が言うと、ユイが気まずそうに頬を朱色に染める。


 いつもと違って表情が豊富だ。


「気持ちだけもらっておくよ。背負ってもらうほどヤワじゃないさ」


 軽くユイの頭を撫でてから先に進む。


 ……――嫌な感触が、また甦る。


 コグマらを殺した時の、生々しい不快感だ。


 あれから、どうにも消えてくれない。


(なんなんだ。これは……)


 命を奪ったことは数知れない。


 人を殺したことだってある。騎士団時代には戦争にも加担していたし、最前線で戦ってきたのだ。


 でも、それらの時とは何かが違う。


 それが分からない。


「ジード」


 ぎゅっ、と手が握られる。


 ユイの柔らかい両手に包まれていた。


「――ありがとね、ジード」


 ユイらしからぬ言葉遣いだ。


 顔も、より一層赤らめている。


 なんというか。可愛い。


 不意に気付いた。


(……手の不快感が消えた)


 ああ、そうだ。


 俺はあの時、明確な悪意で人を殺したんだ。


『こいつらを殺せる。良かった』


 たしかに俺はそんなことを考えてしまった。


 残酷で、残虐で、慈悲なんて言葉が過りもしない。きっとソリアが見ていたら激怒していた。それほどのものだ。


「俺こそ、ありがとうな」


「?」


 ユイが小首を傾げる。


 なんで俺から感謝されたのか分からないのだろう。


 ああ、別にそれでいい。


 こんなことが知られたら恥ずかしい。


(ユイの「ありがとう」の暖かさは……あの時の悪意に免罪符を与えてくれた)


 誰かを救えたのだ、という。


 俺の中で一生消えることはない、悪意。帳消しにすることはできないが、それを許してくれる、免罪符。


「帰ろう。ソリアやルイナが待っている。あとフィルも。今の魔力的に転移はできないが俺たちなら今日中には着く」


「……ん」


 それから俺たちは横並びになって帰路についた。


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