第三騎士団団長
クゼーラ王国の第三騎士団が、ようやく作戦を終えて戻ってきた。
俺やクエナや治癒を終えたソリア等の神聖共和国側の騎士たちがいるテントに、第三騎士団の団長である【紅蓮】の二つ名を持つバラン・ズーディーが入ってくる。
豪華な甲冑には傷も汚れなんてものは一つもない。ヒゲを生やして油分多めの肌を持つ嫌味が多そうな顔をしている。
バランが真っ先に俺に気づいた。
「あん? おーおーおー、これはこれはこれは。金で国を裏切った守銭奴じゃないかぁ。ジードくぅん?」
バランがなんとも言えないアホそうな顔つきで俺に迫る。
彼なりに俺を苛立てようとしているつもりなのだろうか。正直まったくピクリとも来ない。
軽い会釈に「ども」とだけ言っておいた。
「ああ、分かるよ。気まずいんだろう? はっはっは、まぁそうだね。元上司との対面は辛いだろう。しかもそれが我々を裏切った後とは……余程なぁ?」
べつにこいつらには申し訳ないなんて気持ちを抱いたことはない。勝手な勘違いだ。そもそも裏切りではなく、しっかり許可を得て脱退したはずなんだが。
まぁ下手に言い返すと本題から逸れていく。それよりも。
「まぁ俺なんかは放っておいて、今はそれよりも話すべきことがあるでしょう」
「放っておけ? はっはっは、逃げるのに必死だな、裏切り者は! そんなどうしようもない性格だから金なんぞに釣られるんだなぁ?」
うーん。
逃げるつもりはないのだが、俺はかなりヘイトを買ってしまっているのだな。歪曲な言動をされてしまう。
どうしたものかと考えていると隣に立っていたクエナがため息を吐いた。
「あのねぇ、あんた分かってるの? 国や騎士団がギルドでSランクとして迎えられる人材をお金も払えず引き抜かれてしまった無能集団ですって言ってるようなものよ、それ」
「な、な、な……! クゼーラ王国を、誇りある騎士団をバカにするというのかっ! それに私は第三騎士団の団長! 【紅蓮】のバラン・ズーディーだぞ!」
「名前だけは知ってるわよ、名前だけはね」
「なにぃ! この私がたった一人で帝国の軍勢を抑えた逸話も聞いたことがあるだろうが! 調子に乗るのもいい加減にしろ!」
感情溢れたのかバランが白銀の剣を抜いた。
クエナはまったく興味なさげに目も合わせようとしない。
変な膠着状態になってしまった。
「こほんっ、バランさん、いいですか?」
一つ咳を挟んでソリアが言う。
バランもソリアを見てたじろぐ。そこまでソリアの影響力というのはあるものらしい。
まぁこれでようやく変な雰囲気ではなくなった。
しかし、続きはもっと混沌を促すものが出てくるのだが。
青年指揮官がバランの目を見た。
「実は、第三騎士団の団員さんが禁止されているマジックアイテムを使用していたのですが、お話を伺ってもよろしいですか?」
「な、なに?」
バランが明らかに動揺した様子を見せた。
「実はこのマジックアイテム、今回の騒動と関係があるようなのです。魔物を誘導するものとか」
「そうか。錯乱した団員がなにかしてしまったか。ならその男は処分しても構わん」
青年指揮官の言葉をロクに聞きもせず、バランがあっさりと切って捨てた。そのことにソリアが少なからず驚きを怒りをこもらせたのが分かった。
「あっ、あなたの部下ですよ!? 錯乱したの一言で終わらせるんですか!?」
「それ以外にどうしろと? やってしまったのはしょうがないでしょう」
「それは……王国騎士団にも責任というものがあるはずです!」
「一人一人を管理はできませんからなぁ」
バランが小馬鹿にした笑みを浮かべながら耳を掻く。話が聞こえていないとばかりに。
捨てた騎士など眼中にないということらしい。
青年指揮官が嫌悪感を示しながら続けた。
「彼曰く、あなたに命じられてマジックアイテムを設置したそうなのです」
「……なんだと?」
ギロリっとバランが青年指揮官を睨みつける。
なんらかの反感を買ったらしい。
「この私を! 自らが赦されたいがために罪を擦り付けたというのか!? どうしようもないゴミクズだ……!」
バランが唾をまき散らしながら怒りを露にする。
おいおいおい。
捕らえられた団員の視点からするとそれは思いっきりブーメランなわけなのだが。
「こんな人なの?この人」
隣にいるクエナが俺に耳打ちをしながら聞いてきた。
軽く頷く。
「かなり自分本位の言動が目立つよ。まぁ騎士団のお偉いさんの共通点だけど」
「まぁ見た感じからして分かってたけどさ。しょうもないわね、こんなのが団長だなんて」
クエナがどうしようもないと肩をすくめる。
そんな会話をしていると、バランが続けて言い放った。
「では彼を連れてきてください」
それは――予期していた言葉だった。
彼とは捕縛された団員のことだ。
「……なぜ?」
青年指揮官がバランに問う。
バランが鼻を鳴らしながら言った。
「本当にその団員が私に命じられたか聞かなければいけないのですよ。もしかすると貴方たちが私たち第三騎士団にいわれなき罪をかぶせようとしている可能性もあるのでね」
嫌味ったらしくバランが言った。
どうにも彼は人に気を使うということができないらしい。言葉選びすらしていないようだ。
だいぶ不快になっているようだが、なんとか堪えて青年指揮官が首を縦に振った。
「……そうですか、わかりました」
青年指揮官が騎士の一人に連れてくるよう命じた。
そして――捕虜がテント内に入ってきた。




