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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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 アトウの屋敷は木造の古風なものだった。


 家具もテーブルや椅子ではなく、綿が入っているであろうクッションを用意されたのでそこに座った。


 アトウと向き合うのは俺とソリアだ。


「それで頼みとは?」


 ソリアが単刀直入に尋ねた。


 まぁ、雑談をする時間もない。アトウの頼みは俺も想像できていた。ソリアもきっと同じだろう。


「――どうか我ら第五頭任をあなた達の国の一部にしてはもらえないだろうか」


 やはりというか。


 想像に難くない言葉だった。


「ウェイラ帝国に攻められているからな。探知魔法を使っているから分かるが、帝国はすぐに到着する」


 東和国の軍事力は主に海戦に割いているようだった。


 大陸では流石にウェイラ帝国を打ち負かすことはできないだろう。


 あるいは覆すほどの軍事力はあるかもしれないが……俺が彼らの兵を行動不能にさせてしまった。


 もはや抗う術などないのだ。


 申し訳ない気持ちはある。だが、こちらが殺されるわけにもいかないから仕方ない。そう納得させてもらうしかない。


「神聖共和国には一つの制度があります」


「制度ですか?」


「『保護領』といわれるものです。食糧難や災害、あるいは東和国のような疫病に見舞われた国を守る制度です」


「なるほど……そんなものが」


 アトウが食い入るように聞く。


 彼からしたら救いでしかない制度なのだ。それも当然だろう。


「ただし、これには幾つもの条件が存在します」


「条件?」


「今後は神聖共和国が指針する『連合』に入ってもらいます。まぁ、連合とはいっても各国で同盟を結ぼうというだけなんですけど」


「同盟……ですか」


 アトウが難色を示す。


 今後は一切を搾取されるような立場になりうる可能性がある。それが嫌なのだろう。


 だが、それを振り払うかのようにソリアが続ける。


「安心してください。同盟の条件は助け合い、攻め合わない。ただこれだけです」


「攻めないのは分かります。しかし、助け合うとは具体的にどのようなことでしょうか?」


「連合の食糧難に見舞われた国があれば、みんなが分け合って提供する。災害に見舞われた国があれば、みんなが人員や物資を送り込んで復旧の手助けをする。大国に攻められれば、みんなが兵を出し合って協力する。連合とはつまり、こういうことです」


 言ってしまえば共同体のようなものか。


 ある意味ではウェイラ帝国に似ているものがある。


 ウェイラ帝国では従属させて、神聖共和国では話し合いでまとまる。


 そうすることで勢力を保っているわけだ。


「しかし、我らは連合に馴染めるのでしょうか。こうして島一つ離れているのですが……」


「そこに関しては無用な心配だと思います。我らの連合には他種族もいるくらいですから」


「ふむ、そうですか。それは……我が領にとっては助かりますが……」


 アトウの歯切れが悪い。


 かなり言いづらいことを続けようとしているようだ。


 それを察したのか、ソリアが言葉を遮った。


「ウェイラ帝国を止められるか。ですね?」


「……はい。ジードさんの力は疑いようのないものですが、それでもかの国の強さは海を隔てていても聞こえてきます。あなた方にまで迷惑をかけたくないのです」


 ふと気になったので疑問をぶつける。


「ん。俺は神聖共和国の人間じゃないぞ?」


「え!? そうなのですか!? ではどうして神聖共和国と……」


「ギルドっていう組織での仲間なんだ。だから協力している」


「ああ、そうだったのですか。なんとお優しい……!」


「ええ! そうなんです! ジードさんはですね……!」


 やばい。


 話がズレてしまった。


「あー、俺から話しておいてなんだが本題に戻ろう。神聖共和国がウェイラ帝国を止められるか、だろ?」


「「はっ! そうでした……!」」


 二人が気を取り直す。


 それからソリアが咳払いをして本題に戻る。


「神聖共和国はウェイラ帝国を止めるだけの力はありません。たとえ今ある連合の国家が集ったところで意味を成しません」


「で、では意味がないのでは」


「ご安心ください。それはあくまでも武力面での話です。神聖共和国には別の手段があります。言ってしまえば、それこそが神聖共和国の武器となりえるものです」


「宗教……ですね?」


「ご存じだったのですか」


 すこし意外そうにソリアが言う。


「ええ、かつては東和国からもアステア様の信託を受けて剣聖になった者がおりました」


 たしかソリアもそんなことを言っていたな。


 そこから東和国がアステアのことを知るきっかけになったのだろう。


「お恥ずかしい話ですが、今は真が付いて、真・アステア教になりました」


「そうでしたか。いえ、そちらにもいろいろと都合があるのでしょう。我ら東和国は人が全てを成すと考えているため無宗教が多いですが、海を渡ってそちらの宗教に行く者も少なくありませんから」


「へぇ、そうなのか。どおりで神聖共和国が疫病の件やらに詳しいと思ったわけだ」


「――ウェイラ帝国にも真・アステア教の信者がいます。帝国も私たちと戦うのは望まないはずです」


 なるほどな。


 とくに東和国は海を経由しなければたどり着けない。それも数日もかかるのだ。移動経路が面倒なことこの上ない。


 わざわざ神聖共和国や宗教を相手取ってまで敵にしたくはないだろうと踏んでいるわけだ。


「そうですか。わかりました。……それならば、ぜひとも保護領の申し出をお受けさせていただきたく」


「ええ、よろしくお願いします」


 ソリアは微笑みながら彼らを受け入れた。


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