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竜王達への頼みはシンプルなものだった。
それはソリアとフィルから協力を仰がれていた特効薬運搬だ。
陸がなく、海も厳しい。ならば空からいけばいい。
しかも竜という戦力付きならば心強いことこの上ない。
「よ。待たせたか?」
ビーチでぽかんと口を開いたまま呆然と立ち尽くす神聖共和国の団員達を尻目に、竜達は全員揃って着陸した。
俺も乗せてもらっていたロロアの背中から降りる。
「ま、待ってはにゃ……ないぞ」
フィルが噛み噛みな様子で言う。
「おまえそろそろ普通に喋れ。おまえが仕切らないとグダグダになっちまう」
「ふ、普通だろうが!?」
その反論すらも激しいテンションで返ってくる。
ソリアが竜達と俺を交互に見つめながら問うてくる。
「ジードさん! もしやジードさんの仰っていた運搬方法って……!」
「ああ、こいつらの力を借りれることになった」
各色の竜王がそろい踏みだ。
広大な大地でも入りきらない巨体と数を揃えた。
「おまえは相変わらずやることなすこと人の域を超えてるな……」
フィルが未だに警戒から身体を強張らせながら言ってくる。
不意にソリア達が土竜王と視線が合う。
「あ、どもっす……」
「エルフの里にいた土竜もいるのか」
「頼もしい限りですね」
頼もしいか?
……いや、まあ頼もしいか。
「こらこら、私のジードに近寄るな」
ロロアが尻尾で俺を囲いながらソリアとフィルにガンを飛ばす。
「「私の?」」
ソリアとフィルの声が被る。
視線はロロアに向けられていて、火花が飛んでいるようにも見える。
ここでの仲違いは勘弁してもらいたいのだが。
「して、運ぶものはなんだ?」
黒竜王が見下ろしながら尋ねてくる。
目を這わせて確認すると荷馬車が用意してあった。中身を見ると樽のような形状ををした硬そうな入れ物がある。
「ソリア。あれが運ぶ特効薬ってやつか?」
「は、はい! そうです!」
「……ふむ」
黒竜王が首を捻りながら荷馬車の中身を見る。
そして続けた。
「これでは我々の数が多すぎだな。我ら黒竜だけでも足りたのではないか」
「もっと多い量のイメージがあったんだ」
「す、すみません……! しっかりと伝えきれていなくて!」
ソリアがペコリと頭を下げてくる。
「いや、俺が聞いておくべきだった。まぁ、運ばない竜は護衛として一緒に来てもらえばいいんじゃないか? 危険なんだろ?」
「私もそれに賛成だ」
フィルが応える。
お、いつも通りに戻ったか。……視線を合わせたら逸らされた。
「うーん……でも、ここまでの数だと逆にプレッシャーがかかると思うんです」
「不用意に煽ってしまう真似になるってわけか。それもそうだな」
一匹でさえ他の魔物が近寄ってこなくなるほどの雰囲気を醸し出している。
そんな化け物が大群で迫ったら確かに異様だろう。
会話を聞いていた黒竜王が他の竜達を見て言った。
「ならば我ら黒竜以外は帰らせてしまえば良いだろう。黒竜だけでも千五百体はいるのだ」
「おいおい、せっかくのイベントなのに赤竜を省こうってか?」
「あ、じゃあ自分たち土竜は帰るっすね。ジードさん、みなさん。また」
「待てやこら。おまえら土竜が勝ったから手伝うことになったんだろうがよ」
赤竜王が黒竜や土竜に喧嘩を売っている。
剣呑な空気が流れだした。
「それでは、どの種族が運搬を担当するかここで決めようか。『力』で」
青竜王がトドメの一撃を放った。
これで完全に火ぶたを切ったわけだ。
だが、戦闘が始まる前にソリアが言う。
「すみません。それってどれくらいで終わりますか? こうしている間にも病魔に侵された人々が苦しんでいるのですが……」
「あ? 人族如きが我らに意見するとはどういう了見だ?」
赤竜王がソリアを睨みつける。これはソリアも巻き込まれる一触即発の事態だと瞬時に察したフィルが前面に出てきた。
「いやいや、ソリアの言うとおりだ。俺達は急がないといけない。たしかに今回は数が多くて護衛も含めたら丁度良さそうな黒竜だけで頼めないか?」
「「「えええぇぇぇぇーー……」」」
イヤそうな顔をした竜達が俺の方を見る。子供か。
反対に黒竜は清々しいまでのどや顔で他の竜族を牽制していた。子供か。
しかし、土竜だけは戦場になるかもしれない場所から逃れられたことに安堵しているようだった。
土竜王が満面の笑みで近寄ってくる。
「それじゃ、ジードさんのお役に立てないのは残念ですが自分らはこれにて! また用事があるときは呼んでください!」
「ああ、ありがとな」
「とんでもない! それではー!」
真っ先に飛び立ったのは土竜王だった。
次いで残念そうな赤竜王や青竜王。
「まずは黒竜から統べてやろうと思ったが、まずはおまえという関門が出来ちまったな! また相手してくれよな!」
「ああ。わざわざ悪かったな」
等々。
そんな会話をして黒竜達だけが残った。
「ほれほれ、ジードはこっちこっち」
ロロアがイヌのような前足を立てて後ろ足を引っ込める座り方で言ってくる。尻尾でフリフリと場所を教えてくる。
竜種の中でも一回り大きい体躯と禍々しいまでの魔力さえなければ小動物のような生き物だ。
「あ、私達もご一緒してもよろしいですか? 今後の打ち合わせ等もしたいので……」
ソリアが手を挙げて尋ねる。
だが、ロロアは獰猛な獣よりも恐ろしい目つきで威嚇する。
「この私の背に乗りたい……? 人族如きが……?」
ぐるる、と唸る。
ソリアが頷けば噛み殺しそうな勢いだ。
その態度にフィルがこめかみに血管を浮かべる。
「おのれ! 協力してくれるとはいえソリア様になんて口をきくのだ貴様……!」
しかし、不意に黒竜王もやってきて言う。
「そうだ。ロロアの背にはジードだけで良い。お主らは特別なようだから我が妻の背にでも乗るが良い」
黒竜王の後ろにはこれまた大きな黒竜がいた。
なんでコイツら大きい図体なのに細かいことばかりに拘っているんだ……
助け舟が欲しそうな目でソリアがこちらを見てきた。
「これから向かうのは俺も初見の大地だ。なるべく話し合っておきたい。ダメか?」
「「「えぇーー……」」」
またこれだ。
こいつらこれ好きだな。
イヤそうな顔と声を揃えるも、渋々と言った様子でロロアがソリア達に背を向けた。
「振り落とされても拾いにいかないから」
「ありがとうございます」
ソリアの扱いに不満を覚えていたフィルも目を閉じて引き下がった。
俺も上に乗る。鮮やかな鱗が生えていて、一つ一つが大きくて硬い。
しかし、取っ掛かりがあるため存外に乗りやすいのだ。
それから後ろで竜に荷を括り付けていた。さすがに荷馬車を持って行く訳にもいかないようで、分解した縄を使って工夫している。
すべての荷を括り付けるのはそう時間も要しなかった。
東和国に飛び立ったのは太陽が真上に位置した段階ほどだ。




