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ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました  作者: 寺王
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「ナハハハ! しかし、ありゃ驚いたぜジードさんよ。殴られたところまでは見えてたが、そっから意識が吹っ飛んじまったぜ!」


 そう楽しそうに笑うのは竜相応の盃を手にした赤竜王だ。


 すでに陽は沈んだ夜だが、これまた大きな灯篭に火が灯されていて視界は明るい。


 竜族秘伝の神酒だという透明色の巨大な樽が無数に運ばれてきて、戦い後に各色の竜達で飲んでいる。


「お主が気絶している間に、もっとヤバイことが起こっていたぞ」


 黒竜王がグビグビと頬を赤らめながら神酒を飲み、そんなことを言った。


「ああ、聞いたぜ。魔力を消し飛ばしたんだろ? 俺も起きたらビックリ。身体の気だるさがひとしおであの世にでも行っちまったのかと思った! へへへ!」


 やられたというのに随分と楽しそうだ。


 あまり戦闘の勝敗は気にしないのだろうか。


 なんだか気持ちの良い雰囲気ではあるが。


「まさしく。あれは歴代の勇者とは比にならん強さだな。魔族でさえもジードを越せた者はいないんじゃないだろうか」


 紫竜王が言う。


 さすがに長い命を持つだけあって竜達が過去の勇者や魔王に当てはめてくる。


 しかし、ここまで言われると照れるな。


 それにしても……。


(…………)


 身体が熱い。


 その原因たる生物が俺の横から顔を覗き込むようにして話しかけてきた。


「ほらほら、ジードも飲んで」


 俺を後ろ足と尻尾で抱き着きながら前足で器用に盃を運んでくる。


 黒竜王の娘のロロアだ。


 彼女も酔っぱらっているようで随分と絡みが激しい。てか密接になっているため非常に暑い。


「……お、おう」


 口元にまで持ってこられた神酒を呑む。


 ごくり、ごくり……


 強いキレに頭をぶたれたような威力。なのにスルリと喉をとおるから厄介だ。さらに苦みも一切ないため喉が抵抗をしない。


 きっと癖になったら美味いのだろう。それに体質からか酒は一切酔わない。


「うまい……よ」


 とりあえず、そんな感想を残す。


 マズいわけでもないし、実際に飲み物としては非常に上品な香りもする。


 水とどっちを飲むかと問われると俺的には水だが、それでも嘘をついているわけではない。


「それは良かったぁ。ほら、レスロースの肉も私のブレスで焼いたよっ」


「おう……モグモグ」


 肉汁が溢れている肉の塊を口元に運ばれたので食べる。美味しい。調味料は何も付いていないからこそ肉そのものの味が伝わる。


 ロロアに笑顔を向けられたので笑顔で返す。


「えへへへ~」


 そんなにこやかで幸せそうな笑い声をこぼしながら頬と頬を擦り合わせてくる。


 だれも止めに入る様子はないし、土竜王は隅っこで縮こまってお酒を飲んでいる。


「しかし、こんなツエー助っ人を呼ぶとは土竜もやるじゃないか。見直したぞ」


 そう言うのは青竜王だ。竜王とは言っても声の高さからしてメスだろう。


 眉毛が長く色っぽいし、雰囲気や所作もどことなく人間の女性に似ている。


「あ……どもっす……はは」


「そうか。じゃあ次は土竜の住処で戦うことになるわけか」


 黄竜王が思い出したように言う。


 結局的に勝利したのは土竜陣営ということになるので自然とそういうことになる。


 そのことは土竜王も知っていただろうが……


「え?」


 まったく予期していなかった事態に遭遇でもしたように目を丸くさせる。


 こいつ……何も考えていなかったようだ。


 実際に土竜王の住処といえるものは地中にしかないのだし、地上はエルフの里になるだろう。土竜王の土地とは言い難い。


 土竜も群れていないから広大な土地もないはず。


(まぁ、次は百年後だし、なんとかするだろう)


 勝たせてしまった当事者だけに申し訳ない気持ちはあるが、俺にそんな場所を提供するほどの知見はない。


 一応、脳裏には留めておこう。良さそうな場所があったら紹介するために。


「それで土竜王よ。願いはあるのか?」


 黒竜王が尋ねる。


 きた。このためだけに戦ったのだ。


 問われた土竜王は俺の方を見る。


「それはジードさんから」


「ん、そうか。それでは人族ジードよ、願いを言うが良い。ここにいる全竜が応えよう」


「はは! 人の願いを聞くなんざ前代未聞だな! だが、おまえならそれも良しだ!」


 黒竜王の言葉に赤竜王が頷く。


 どうやら願いを言っても良い流れらしい。


「あー……えっとな――」


 俺の願いを言い、断られて第二回戦……ということもなかった。


 各竜王が同意して俺の願いを叶えてくれるそうだ。


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