んっ
試験が終わったらしいのは冒険者カードのニュースから知った。
新しいSランクというのは話題性も抜群のようでトップニュースを飾っている。
特に彼女はAランクの誰よりも知名度を持っているのだ。
【剣聖、Sランクに至る】
街中の誰もが話題を出すのも頷ける。
そして、俺の眼の前でワンワンと泣くシーラと、影を落としているクエナはどちらも落ち込んでいる。
場所はクエナの家だ。
「負けちゃったよぉぉぉーー!!」
シーラが机に突っ伏して泣いている。
その傍では椅子に座っているクエナが頬をつきながら悩んでいる様子だ。
「……ジードはどう思ってたの?」
シーラの泣き声を横目に、クエナが問いを投げかけてくる。
誰がSランクになると予想していたのか、という意味だろう。
ここで掛けるべき言葉は「誰もがなるチャンスを持っていた」とか「おまえらのどっちかだった」なのかもしれない。
しかし、ここは素直に答えよう。
「フィルだ」
試験の結果と同じ答えになる。
悪く言えばつまらない返答だ。
しかし、俺の評価は変わらない。クエナやシーラではまだフィルの領域には辿り着けていないと感じた。
「……そうよね」
クエナも分かっていたようで粛々と受け入れる。
だが、と俺は続けた。
「次回はおまえ達だろう。成長の速度も勢いもクエナやシーラに勝る者はいない」
「どうしてそう思うの?」
「勘だ」
「ふふ。野生児の勘なら当たりそうね。次は必ずSランクになるわ」
「いやだあああ! 私は今からジードとキスしたいもーーーーんっ!」
クエナはビシッと決めた。だが、シーラは未練がましく泣きわめいている。まぁ、シーラの目的はSランクになることではないから仕方ないは仕方ないのだが……。
どうしようもなさそうにクエナも泣くシーラを持て余しているようだった。
ふと、ルイナに尋ねたことを思い出す。
「あのさ、褒美ってどういうもんを渡すんだ?」
それはクエナやシーラが試験に負けた時のことを想定しての問いだ。仮にクエナ、もしくはシーラが見事に達成したとしても、どちらにせよ試験に脱落する方は現れる。
だからこそ人の上に立つルイナに聞いておきたいのだ。
「さしづめ頑張ったで賞といったところか?」
一瞬で察したルイナが言う。
さすがだな、と俺が感心している間に続けてきた。
「本来なら叱咤をして成功報酬とは別の、それこそ『おまえなら次はやれる』とかの言葉を投げてやれば良い」
「ふむふむ」
「しかし、今回はちょっと違うだろうな。そうだな。たとえば――」
おい、シーラ。
俺はそんな声を投げかける。
両手で顔を抑えていたシーラが面を上げてこちらを見る。
湿った前髪をあげて、俺はそこに唇を重ねた。
「お疲れさん」
そんな言葉を添えて。
ボンっ
そんな爆発する音が聞こえてくるほどシーラが顔を真っ赤にする。涙が蒸発するほど熱くなっているようだ。
それから、あわあわと口を乱れさせて、全力でどこかへ駆けて行った。
「……やることキザになってきたわね」
クエナがジト目で言ってくる。
「嫌か?」
「な、嫌って……まさか私にも……!?」
「そりゃそうだろ?」
褒美ってそういうものなはずだ。
クエナの前髪をあげる。
「ちょっ、ばっ――」
クエナが立ち上がる。
それは俺を拒もうとしてのことなのだろう。
だが、しかし。
「ん」
「んっ!?」
高低差が噛み合ってしまい。
唇と唇が重なり合ってしまった。
一つの感想を残すのであれば、柔らかかった。
その光景を見ていたシーラが大暴れしたのはまた別の話だ。