報告
依頼の達成書はフューリーが届ける手はずになっている。
しかし、無事に依頼が達成した報告や、聞きたい話もあるためギルドマスター室にまで来ていた。
ノックをすると中から「入るのじゃー」と返事が来る。
ドアノブを握って開ける。
「よ。依頼、終わったぞ」
「さすがじゃの。信じておったぞ」
目をキラーンと一閃させて若干のドヤ顔のリフが言う。まるで信じて送り出した自分がはすごいだろうと言わんばかりだ。
容姿にも相まって、どことなく幼げな印象を抱かせる。
しかし、信じていた……か。
「なぁ、俺ってどれくらい強いんだろうな」
ふとした疑問だ。
騎士団にいた頃、俺はたしかに強かった。
他の団員よりも突出していたし、結果的に指揮官や団長クラスにも勝っていた。
ウェイラ帝国を丸々相手取ることもできた上に、エルフや王竜も倒すことができるだろう。
そして今回、俺はフューリーが口にした「魔族のトップクラス」すらも――。
フューリーが俺に仕掛けて来なかったのは俺に勝てないと分かっていたからだろうな。
だとすると、果たして俺はこの世界でどれほどの力を有しているのだ。
「――勝てる者はおらんだろうよ。少なくともこの大陸では」
俺の疑問をリフが応えた。
その声音は凛として俺に向き合っていて、彼女が自己申告する「俺よりも年上」という話を信じさせるほどのものだった。
「リフよりもか?」
「うむ。わらわも相当な腕を持っておるが、お主には勝てないじゃろう。最初は良い戦力になるくらいに思っておったが、まさかここまでとは思わなんだ」
かっかっか、と快活に笑う。
「フューリーも言っていた。ギルド最強と謳われている男よりも俺の方が強い、と」
「ああ、そうじゃの。【星落とし】ロイターよりも強いじゃろうて」
その名は度々、大事件のニュースの引き合いに出されている。
曰く、人族最強とも。
数知れない伝説と共に生きている……らしい。
だが、リフやフューリーはそいつよりも俺を推すと口にする。それが事実であるかは分からない。
だから、聞く。
「俺の強さの理由はなんだと思う?」
「魔力が他よりも群を抜いて……いや、もはや次元の違いすらも感じさせるほどにハッキリと見えるところじゃろう」
「……ああ」
なんとなくは分かっていた。
俺は人よりも魔力を察知できるし、人よりも視ることができる。
それは強力な武器であり、大きなアドバンテージだ。
「戦闘におけるセンスも経験だけでもSに相応しい。しかし、生まれながらの環境故か過敏に魔力を見て、感じて、それらを模倣して、操る。これは誰にもできる芸当ではないじゃろう」
さらにリフが続ける。
「わらわや実力のあるものは微かに薄ぼんやりと確認できる程度であるからの。お主はその点において特に別格じゃ」
随分と褒めてくれる。
しかし、どうにも腑に落ちない。
「フューリーが言っていた。俺は『勇者』だと。他にも救世主だなんだと声をかけられる。それとは何か関わりがないのか?」
「さぁの。神に愛されておるから、運も味方するし、人々を扇動する力も持てるとは言われておる。しかし、実際はどうか分からんのじゃ」
「運も扇動も俺とは程遠いな」
生まれてすぐに危ない森に連れて行かれたし、人を扇動するような立場でもない。
が、リフはそうも思っていないようだ。
「案外そうでもないかもしれんぞ。わらわが思うにお主は勇者の適性が高い。その実力も大いにあると考えておる」
「おまえまで言うのかよ……。俺になる気はないからな」
「……そう、であるか」
リフの表情もまた、どこかフューリーに被るものがあった。
意図するところはどこにあるのか。
根本から聞いてみる。
「なぁ、勇者とか魔王とかって何なんだよ?」
「異なことを聞くの。もう調べておるのだろう」
「女神が決める人族を護る者。魔族で自然と強者がなる存在。それが勇者と魔王なんだろ? そんな初歩的なもんじゃなくて、俺が知りたいのは理由だよ」
「理由とな?」
「ああ、存在する理由だ」
「これまた異なことじゃの。士気を上げるため、希望を抱かせるため、絶対的な存在感としての現われ……理由などいくらでもあるじゃろう」
「……まぁそうだけどさ」
どこか自分でも質問の意図を掴み切れない。
さて、どうしたものか。
そんなことを思っているとリフの机の上に置いてある四角形で厚さが親指くらいあるマジックアイテムが反応を示した。それは淡く光っており、表面に白色の文字が記されている。
「ほう、試験も折り返しに来たそうじゃぞ」
「そうか」
どこか話をはぐらかされた気がした。
勇者と魔王、その存在にもっと大きな意味があるような気がするのだが。
しかし、話を戻しても先ほどと結果は変わらないだろう。今度はもっと自分なりにまとめて聞いてみることにしよう。
「そんなら宿に戻るとするわ」
「うむ。またの」
「ああ、またな」




