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蠢くものたち

 壊滅状態。

 たしかにその言葉が相応しかった。

 夥しい鮮血が地を満たし、薙ぎ倒された木々が痛々しそうに転がっている。

 大々的にいくつもの魔法が使われたのだろう。大地が抉れている。



「どういうこと、これ……」



 クエナが痛々しそうに言う。

 団員の一人なのだろう。まだ若そうだが甲冑を着た青年が森の北側から来た俺たち冒険者の前に立った。



「ごらんのとおりです。前線はなんとか押し切りましたが、未だに魔物が多く。血の匂いに引き寄せられる魔物が……」



 テントが張られて簡易の陣地になっていたのであろう場所も、かなりの痛手を負っているようだった。

 さらにラインを下げた場所に負傷者を運んでいるのだろう。

 戦場に残っているのはもう息のない騎士ばかりだ。

 魔力の波を作り出して魔物を調べる。――なるほどな。



「さっき俺たち北側でやりあっていた魔物より質が二倍以上高いな。しかも数はもっと多い」

「そんなにですか!? ですが、騎士団の本隊は別件で召集できない状態で……。王国の騎士団もまだ魔物の討伐に手こずっている様子なのです……」



 苦々しい顔で青年が言う。

 まだ階級も与えられていなさそうだが、これだけの情報を知っているということは指揮官クラスではあるのだろうか。

 だからこそ、彼からしてみれば絶体絶命といった感じなのだろう。

 だが、ここには俺がいる。



「これくらいなら俺が対処しますよ」

「えっ? い、いや。しかし、本隊じゃないとはいえ騎士団一つが壊滅状態になってるんですよ……?」

「敵の把握をした張本人が対処するって言ってるんだから大丈夫でしょ。あんたは負傷者の手当てでもしてなさい」

「は、はい……しかし相当な数がいるので……あ。こ、これは大変不躾な問いになってしまうのですが、他の冒険者さんたちの手をお借りしても?」



 青年がおずおずと聞いてきた。

 それほどまでに負傷者が多いのか。



「まぁほかの冒険者さんが望むならいいんじゃないですか?」

「そ! そうですよね、ただでさえ魔物が多いのにまさかそんな……え?」



 俺の返しに『正気かこいつ?』みたいな顔で見てくる青年。

 そんな顔で見られたらなにか変なことを言っているみたいじゃないか。やめてくれ。



「聞いたでしょ、あんたたち~。下手に怪我したくなかったらこの騎士さんのお手伝いでもしてなさい」



 クエナの問いに各冒険者さん達が頷いた。

 まぁ、もうここからは金を稼ぐなどと気にしている場合じゃないのだ。

 それを理解しているのだろう。

 青年の案内の元、冒険者たちがこの場から去っていった。



「クエナは行かないのか?」

「なによ。私もいたら危ないの?」

「ギルドの依頼で当てはめるなら、Aランクが六つにBランクが十三、Cランクが四十二くらいか」

「なによそれ、北との質も数も二倍や三倍くらいって言ってなかった? それはもう十倍くらいあるじゃないの」

「さっきまではな。今のこの瞬間だけで急激に増えた」

「……なにが起こってるの?」



 いよいよ事態の深刻さに気付いたクエナが尋ねてきた。

 俺はさっき拾っていたマジックアイテムを彼女に見せる。



「これだよ」

「さっきのマジックアイテムじゃない。それがどうしたの?」

「これは攻撃用じゃない。誘導用だよ」

「誘導……? もしかして魔物の!?」



 クエナがあまりにも驚いたのか声を張り上げた。



「そんなに驚くことか?」

「もちろんよ! それは『奴隷の首輪』と同様に種族間でさえ禁止されているマジックアイテムよ!」

「えっ。そうだったのか?」

「逆になんで知らないのよ!」



 おそらくクエナからしたら、その言葉は俺の常識知らずを叱咤したものだったのだろう。

 だが俺はいたって真面目に答えた。



「クゼーラ王国が使っていたからだ」

「王国が……?」

「ああ。魔物の出現頻度が高くなった際に面倒だから一斉討伐をしようなんて目的で使われた。……このマジックアイテムはそれと同様だ」

「本当に!? じゃあこのマジックアイテムって……」

「『偶然近くにいた王国騎士団が応援に来た』って話だけど、騎士団クラスの規模が俺たち冒険者と同じくらいの速度で来られるとは考えにくい」



 冒険者は各自がいろんな地域にいる。元から神聖共和国に寝泊まりしている者だっている。さらに馬車まで手配されている。

 反対に王国騎士団はまとまって動いている。さらに歩きだ。まるで予想されたかのような動きだな。



「で、でもそれはさすがに出来すぎているんじゃない? そもそも目的は?」

「出来すぎているっか」

『グォォォォッ!!』



 血の匂いに釣られた魔物が、会話の最中だった俺とクエナに襲い掛かる。

 四メートルはある角が生えた熊のような魔物だ。角が帯電している。魔法も筋力もある。これでBランクくらいだろうか。



「テ、ティアルベアー……! もうBランクがお出ましなの!?」



 話を遮られるのは面倒だ。

 でこぴんで上半身を消し飛ばす。これでもう動けないだろう。

 ポカーンとするクエナに続きを言う。



「まぁ、王国騎士団の目的なんぞは聞けばいいさ――この魔物の群れの奥でこそこそ動いている奴らに」



 俺の魔力の波はすでに数名の人を捉えていた。そしてそいつらが持っているのは、おそらく俺が持っている欠片が完璧にそろっている状態の――マジックアイテムだ。

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