感じ
どれだけの戦いを繰り広げたのだろうか。
すでに周囲に人はいない。あるのは焦げた大地と凍土、消し炭になった元がなんであったか分からないものばかりだ。
地面に転がる三人の魔族。そして遠巻きに見ている中性的な男子。
「まさか、彼らがやられるなんてね」
フューリーが達観の面構えで言う。
痛い。久しぶりにそう感じた。
頬から流れる血液。右腕の感覚は薄い。脇腹の骨が蠢く音が身体の内から聞こえてくる。
「クオーツの軍勢と戦ってもこうはならなかっただろうな……。おまえ、何者だ?」
「ボクは七大魔貴族。三つの領土を持つフラウフュー・アイリー。通称、フューリーだよ。彼らはボクの部下で三魔帝の肩書を持つ魔族。それぞれがトップクラスの魔族なんだけどな」
俺に敗れたやつらを見ている。
トップクラスの魔族……どおりで強いわけだ。
しかし、俺の力は彼らに勝った。これが意味することは――。
「しかし、だとしたら俺を襲った理由はなんだ? ウェイラ帝国ならば分かる。クオーツの領土、すなわち魔族の領土を奪おうとしていたんだ。だが、俺はおまえの味方だったはず」
「魔王になるのを断ったから、かな」
「そんなもの、おまえがなればいいだろ。なんで俺なんだよ?」
「さぁね。君のところのギルドマスターにでも聞くと良いんじゃないかな。それにボクは――魔王になるつもりはない」
いちいち謎を残すやつだな。
まぁ、いいだろう。ならリフに聞けばいいだけだしな。
フューリーに背を向ける。
「……ボクを殺さないのかい?」
「依頼主を殺すやつがいるかよ」
いや、いるんだろうけどな。
だがここで第二ラウンドは面倒くさすぎる。
フューリーにはギルドに対する敵意がないのならば別にいい。コイツの狙いは俺のようだしな。
「はは……命を狙われたんだ。殺して然るべきだというのに……君は甘いね」
「ああ、自分でもそう思う」
「じゃあ例えばボクが君の仲間を殺したらどうする? ボクが君の大事な集団……ギルドや国を滅ぼしたら、それでもボクを見逃すかい?」
「いいや、殺す」
ためらわず、俺は言った。
そもそも、それだけは絶対にさせない。
自分が傷つけられるよりも、それは無性に腹が立った。
フューリーの予想していた反応と同じだったのか、満足そうに笑った。
「ああ、そうだろうとも。安心してくれ、そんなことはしやしないさ。けど、君は本当に体制に与する人間だ」
「……」
「君は集団にしか身を置けない個。君は自分という個に目を向けられない。だが、だからこそ組織そのものでもあり、君という個は存在していない。君は本当につくづく――『勇者』だ」
「んなものじゃない。ただの冒険者だ」
「いいや、君は勇者だ」
振り返る。フューリーが俺の方を真剣な眼差しで見ていた。
それは何か敵意とは別のものだ。諦めでも、憎悪でも、あるいは好意でもない。
「ねぇ、ジード君」
「……なんだよ?」
「達成書、ギルドに送っておくね。それに魔族領にもギルド支部ができるだろうから、またいつでも来てよ。魔王にはならないけど、魔族領土はボクが掌握することになるから」
それはつまり、結果的にやっていることは魔王と同じことじゃないのだろうか。
意図が読めないが、きっと尋ねても答えてはくれない。
「ああ、そうかい。じゃあ次に会う時は美味しいご飯でも教えてくれよ」
俺はそう言って、背を向けて転移した。




