ついに
「ちょっとちょっと! 早すぎるんですけどっ!?」
シーラがリストの猛攻に耐えながら言う。
リストの背後をクエナの剣が襲う。
しかし、後ろも見ずに剣が避けられる。
「ははっ。やっぱり良い剣技だね! でも私には獣の勘もある。それじゃあ通らないね!」
「ど、どうしようクエナ! あれかなり早いわよ!?」
「なに言ってんの。あんたも【閃光】のシーラとか言われてたでしょ。速度くらい見せつけてやりなさいよ」
「な、なんで私の異名を知ってんのよ!?」
顔を赤くしながらシーラが言う。
自分では名乗っているわけではないようで、クエナに二つ名を言われて恥ずかしいようだ。
「そりゃ一時期のクゼーラ騎士団は有名だったからね」
「それはジードがいたからで――!」
「――戦闘中になに話してんだいッッ!」
リストの猛攻が再び起こる。
二人して戦ってもなおジリ貧だ。
◆
「おい、オッサン! 大丈夫かよ!」
「……てて。ああ、かすり傷だ。それよりも来るぞ!」
ディッジとウィーグは六本腕の男と相対していた。
右腕を抑えているディッジの顔は苦痛に染まっている。
「無駄に抗うな。どうせ、おまえらでは勝てんよ」
男、ロンラーは冷静に見据えながら二人を見ていた。
◆
「……やるな」
フィルが剣を上段に構えながら呟く。
その正面では黒刀を片手に持って佇むハクがいた。
「……」
周辺は剣戟によって作られた跡が残っている。
切り倒された木。
抉られた大地。
フィルとハクの実力が高みにあることが分かる。
だが、フィルにとっての相手はハクだけではなかった。
フィルの足下に魔法陣が展開される。
「ちっ……――!」
即座にフィルが離れる。
しかし、今度は身体の四方から魔法陣が展開された。
魔力を伴った剣でフィルが魔法陣を斬って霧散させる。
だが、同時にハクの刀が横から迫る。
なんとかそれを剣で防ぐ。
とにかく防戦一方。
フィルの側から攻撃を仕掛けることができない。
「……やれやれ。どうして私には二人がかりなんだか」
思わず愚痴る。
「それは貴方が強いからですよ~。分かっているはずですよね」
答えたのは骸骨のイスタだ。
「一人でも精一杯なんだがな」
それはフィルの本音だった。
だからこそだ。
どうせ冒険者側の人数は少ない。ゆえに正確に勝てるための戦いをしているだけに過ぎない。
◆
その戦場だけは常軌を逸していた。
山が生まれていたり、
あるいは巨大な地割れが起きていたり、
その戦場近くに居た魔族は皆が消えていた。
だが。
「なぁんで攻撃が全部当たらないのぉ?」
「単純で考えなしだからだ」
トイポの攻撃を退屈そうに眺めるだけで一切のダメージを負っていない。
それはクオーツ。
魔族の最高峰の一角とSランク冒険者が相対していた。
六魔将ではなく、七大魔貴族自らが動いている。
援護のために来たトイポ自らも負けをイメージさせられていた。
最初の一撃で魔族を削ることに成功したが、それでもまだ冒険者は苦戦を強いられている。
トイポが腕を上げる。
刹那、一帯の土地がドロリと歪む。
ジュワ
不気味な融解音がした。
トイポの足場を除いた一面がマグマに変わる。
当然、クオーツの足場もそうなるはずだった。
しかし、一切の変形を許していない。
「魔法で……相殺したぁ!?」
「死ね」
一筋の光線がトイポの脇腹を通る。
それはクオーツの一撃だった。
「……な、ぜ……!?」
そこはトイポの唯一の弱点。
足場をなくしたトイポが見せた、唯一の不可避点。
トイポが一つの仮説を立てる。
クオーツの強みは頭脳ではないか、と。
戦況が変わった一瞬で弱点を突くだけの判断力、思考力……。
当然、トイポも次の戦略は立てていた。
こんな弱点をすかさずに消していく戦略を。
だが、その一手を出す前に封じられた。
あり得ないほどの頭の回転――……
薄れゆく意識の中でトイポが目にしたのは黒い髪の男だった。
「――ジード……さ……ん?」
普段は僻地での探索をメインにしているトイポでも知っていた。
同じランクに位置する男。
ギルドに入ってからとにかく破天荒な事件ばかりに巻き込まれたり、あるいは異次元のニュースばかりを打ち立てる男。
そんな男が目の前に立っていた。
「大丈夫そう……かね」
気が付けばマグマだったはずの一帯が凍っていた。