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三つ

 俺とフューリーが空中で城にまで向かっていると、すでにAランクの冒険者達とクオーツ陣営の魔族と戦闘が始まっていた。


 まだ遠く、空から状況を把握するほかないが、大体は分かる。


 冒険者は十五名。


 対する魔族側は千を優に超している。


 数は明らかな不利だ。


 そして……質。


 冒険者達は全員がAランクのポイントをカンストした者達だ。全員が強い。


 に、してもだ。


 魔族達は最低でもBランク以上はある。それが雑兵クラス。


 さらにはSを超す怪物がちらほらいるようだ。


「六魔将は動いていないみたいだね」


 ふむふむ、と隣でフューリーが見る。


 フューリーと視線を合わせる。たしかに俺が感じ取った「怪物」達だ。


 合計で六人。


 まだ全員が手を出さずに見ているが、動けば戦況はさらにギルド側に不利になるだろう。


 だが、それだけじゃない。


 一人だけ座して戦場を俯瞰しているやつがいる。


「あれがクオーツか?」


「そそ。どう? ジード君の目から見て、彼は」


「強いな。だが、あれがボスってのは……どういうわけだ」


 たしかに強いが、それでも六魔将と大差ないように見える。


 もしもあの六人が下剋上を企んだとすれば、クオーツが生き残れるとは到底思えない。


 少なくとも魔力から見た力量差は均衡しているように見えた。


 フューリーが概ね同意とばかりに頷く。


「だから不思議なんだよねー。彼は負けたことがない。六魔将もかつてはクオーツと戦ったけど全員が綺麗に負けちゃってる。なんだろうねー?」


「――まぁ、すぐに分かるんじゃないか」


 それは、山。


 丸々一つの山が宙から降っている。


 地面で戦闘を繰り広げている連中も、不自然な影が落ちたことでようやく気付いたのだろう。


 見上げた頃には空を切る音と共に、眼前にまで不可避の物体が落ちてきていた。


「ヒュー! すごいねぇ!」


 フューリーの絶賛の声と共に山が地面を跳ねた。


 クレーターができあがる。


 下敷きになった魔族は四肢が飛んでいたり、紙ほどの厚さになっていたりと、原形を留めていないようだった。


 風圧で飛ばされる者までいる。


 さらに粉々に砕けた山の欠片が周囲にまで飛び散っていた。


 現れたのは小太りの人族だ。


 俺も見たことがある。


 度々「不踏の地を見つけた」「誰もが進めなかったダンジョンを踏破した」なんてニュースで話題になっている。


 Sランク冒険者、トイポだ。


 本来の試験には異常なほど想定されていない事態であるようだから、彼も参戦するようだった。







 いきなり降って来た山に魔族の末端が混乱していた。


 戦況が一変するほどの事態に六魔将が重い腰を上げる。


「そろそろ動くぜっ!」


 ライオネルの背に寝転がっていた魔族の女、リストが快活に言う。


 隣では六本腕の巨躯を持つ男が頷いた。そして視線でディッジとウィーグを捉えた。


「ああ。俺はあのヒゲとガキをやろう」


「りょーかいっ! じゃあ私はあの赤髪と巨乳の金髪!」


 そして、戦場は六魔将も入り混じった戦いになる――。







 トイポが投げた山により、戦場は時が止まった。


「まったくぅ……どうして誰も逃げてないんだよぉ~」


 トイポが愚痴を吐くように言う。


 冒険者の一人が声を挙げた。


「ト、トイポさん……っ! やっぱり今の攻撃はあなたが……!」


「見てられないからねぇ。この事態はさすがに危なすぎるよぉ。そんなことよりも――来るよ」


 トイポが鋭い目つきになる。


 突然のトイポの支援に戸惑っていた魔族、そして六魔将が動き出した。


 魔族側の怒涛の猛攻が始まる。


「くっ……キリがないわねっ!」


 クエナが言う。


 それに反応したのはトイポだった。


「完全な中止をしていないってことはリフさんにも考えがあるんだよぉ。まぁ、それまで耐えきれってことだねぇ」


 トイポが両手を合わせる。


 すると魔族の軍勢の両側の地面が盛り上がった。


 それらは二対の山となって、


「――『噴流凹凸』」


 勢いよく山同士がぶつかり合う。


 だが、それらは魔族を圧することなく――切り刻まれる。


 黒い残像が見え隠れした。


 存在感を顕わにする男がいた。ハクだ。


「……硬いな」


 周囲には六魔将。


 さらにはクオーツまでもが中央にいた。


「来るっ!」


 シーラが言う。


 ダンッ、と砂ぼこりを巻き上げて一つの影がクエナとシーラめがけて突撃してきた。


 そのあまりの速度に一瞬、見失いそうになる。


 だが、クエナは視界に捉えて剣をもって応戦する。


 重たい音が響き渡る。


「ひゅーっ! やるねぇ! この一撃であんたを終わらせようと思っていたんだけど!」


 楽し気にリストが言う。


 反してクエナの表情はあまりよろしくなかった。


(危な……っ! 少しでも剣筋がブレていたら――……!)


 クエナが足元を見る。


 かなり後退させられた跡があった。


 それだけの破壊力がイスタにあったことの証明だ。


「クエナっ!」


 横からカバーが入る。


 シーラだ。


 リストへ一撃を加えるようとする。


 しかし、その剣はあっさりと握られてしまう。


「あん? なんだ。この程度――」


 リストが違和感に気づいてすぐに手を離す。


 それは野生の勘だった。


 が。


 時すでに遅い。


「くっ……!? なんだこれは……!」


 リストの身体全体に重たく黒い靄がかかる。


 それは魔力だ。


「あなたが触れたのは邪剣。それは呪いよ」


 ずしり、と確かにリストは自身の身体が重たくなっているのを感じる。


 不意に殺意。


 それは先ほど突っ込んだ相手からの逆襲。


「――紅打!」


 それはクエナの一撃だ。


 天上まで駆け抜けるような炎がリストに向かってきた。


 ニヤッとリストが笑う。


「上等じゃねーかァ!」


 膨大な魔力がリストから放出される。


 シーラの呪いすらも跳ね除けた。


 そして、クエナの一撃を喰らう――。


「どう!?」


 シーラが言う。


 しかし、クエナは確かな感触を覚えていなかった。


「ははっ。舐めてかかってたぜ」


 リストの露出した肌からは獣の皮が見える。


 口元は八重歯が見え、頭上からは虎の耳が生えていた。


「獣人族……?」


「いいえ。たしかに魔族よ」


 シーラの問いに、クエナが答える。


「ご名答。先祖は人間とライオネルと言われている。人と、獣人と、そして――」


 バチリ。


 閃光が走る。


「魔族の力を持っているんだよ!」


 目にもとまらぬ速度をもって、今度はシーラに向かう。


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