伝令
「炎武ッ!」
クエナが燃え上がる炎を横一文字に斬り上げる。燃え盛る炎と切れ味が良い真っ赤な剣が縦列していた複数の魔物を両断した。
はっきりと実力は見たことがなかった。
だが、冗談でもリフが恐れた理由が分かった気がした。
クエナは強い。
『てぇやっ!』
『たぁッ!』
さらに周辺では複数の冒険者たちも戦っていた。
クエナには金魚の糞と呼ばれていた彼らだが、さして弱いというわけではない。むしろ前線を押し上げていた。
ぶっちゃけて言ってしまえば出番がない。
最初こそやる気まんまんで戦おうとしたが、それよりも我先にと冒険者たちが行ってしまったのだ。
「戦わないの? あんた」
クエナが地面に倒れこんでいるBランクほどの魔物にトドメを刺しながら聞いてきた。
「いや、勢いがいいから俺が邪魔してはまずいかなって思って」
「ふーん。功績を譲ってるわけね。あんたなりに贖罪のつもりなんだ」
「贖罪……か。そういうわけではないんだがな」
討伐した魔物の数や、魔物の死体から得られる物資は金になる。
依頼達成金とは別の報酬というわけだ。
彼らの勢いがいいのはそういう理由からだろう。
だから、俺は出てはいけない。王都や近くに残った彼らの財源をすこしでも残さないといけない。
それが責務を果たすというものだろう。
だが、これが考えすぎだということも分かっている。
本来、依頼の枯渇はギルドが解決するべき事案だということも理解している。
それに俺が気を使わなければいけないほど、冒険者の彼らが弱くないということも。
それでも。
サボることで、罪悪感が減っていくのが分かった。
「初めてだ。こんなの」
思わず口にしてしまった。
以前までいた王国騎士団との違いが多すぎて、離れすぎていて……。
まるで別の人生を歩んでいるようだった。
それから魔物の掃討が一段落を迎えた。
数が少ないと言われていたが、危なげなく終わっている。重傷者はいない。傷を負っていても軽い者ばかりだ。
そんな中で、ふと水晶の欠片を見つけた。
薄い水色の……ほんのりと魔力が残っている。
これはマジックアイテムだ。こめた魔術経路から様々な用途に使える。
家庭用の水や火を出すものから、ものによっては転移まで使えるものがある。
そしてこれは……
「あれ、掃討戦にマジックアイテムを使うやつなんていたんだね」
欠片を握る俺の後ろからひょっこりとクエナが顔を出して言ってきた。
人によってはビビっていたぞ。それに距離が近い気がするが。豊満な胸が俺の背中すれすれほどの気配に感じる。
「ああ、このマジックアイテムなんだが、俺は一度だけ見たことが――」
『伝令です!! 西側で討伐戦を行っていた神聖共和国の騎士団が壊滅状態とのこと! 冒険者の皆様には至急応援をお願いいたします!』
俺の言葉を遮り、大きな声で一報が入る。
かなり急いできたのだろう。伝令を伝えてきた騎士団の団員が足を震わせていた。
それに内容も慌てるに値するものだった。
『壊滅? あの中立を保たせるほどの騎士団が……?』
冒険者たちが顔を青ざめさせながら口にしていた。神聖共和国の騎士団が壊滅する事態は異様なようだ。
さっきまで俺のことを余裕そうに笑っていたクエナも衝撃を受けたといった感じに目を見開いている。
「なにぼさっとしてるんだ。依頼だろ、行くぞ」
たとえどんな状況であれ俺がやるべきことは決まっている。
魔物の討伐。それだけだ。