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Aランク冒険者視点

 Sランク試験のため、Aランク冒険者達は王都の近辺にある草原にて一か所に集まっていた。


 これほどの人材が一挙に集まることは滅多にない。全員が小国では将校クラスでの引き抜きを受けたことがあるほどだ。


 クエナ、シーラ、そして気まずそうに二人を見ているフィル。他にもディッジやウィーグなどジードの顔見知りもいた。


「さて、そろそろ試験内容の発表といきますかぁ」


 恰幅の良い中年が言う。


 大量の道具が入ったリュックを背負い、片手にはピッケルを持っている。


 Sランク冒険者――【探検家】トイポ


 主に監視役のためにいるが、試験の際は非常事態に備えてSランク冒険者が立ち会うことになっている。


 傍らにはギルド職員もいるが、彼が主導して言う。


「試験の場所は『魔族領アドリスタ』だぁ」


 言い、どよめきが湧く。


 漏洩しては試験の意味がないため、内容に関しては伏せられている。それ故に自然な反応だった。


 トイポは見透かしたように遠慮なく続きを言う。


「そしてやってもらうのは『魔草』の回収になるぞぉ。ここから近いところに生えているのはアドリスタ領のフォリア平原~。一番最初に確保し、俺に届けるんだぁ。分かったかあ?」


 魔草。


 魔力を豊富に蓄える自然に生える草だ。


 これは様々なものに使うことができる。人や魔物が頬張れば魔力を回復できるし、マジックアイテムの動力源にすることもできる。


 主に魔族領に生えているが、場所はかなり限定される。


 誰も異論がないところでトイポが言う。


「あらかじめ同意書にサインしてもらったがぁ、もう一度だけ確認しておくぞぉ。ここで試験を放棄しても構わない~。万が一は俺も動くがぁ、死ぬことは全然あるからなぁ~」


 ここでの忠告。


 誰も手を挙げることはない。


 危険を冒してでもSランクにはなりたい。その心は誰もが一緒だろう。一人は違うが。


(Sランクになる! ジードと一緒のランク! そしてキ、キ、キス! あわよくば! 同棲!!)


 その思考回路は謎なシーラだ。


 隣に居るクエナが思考を読み取る能力でもあれば「不純な動機ね……」とツッコミを入れそうなものだ。


「誰もいないんだなぁ? 魔族領は危険だぞぉ。高ランクの魔物がバンバン出て来るしぃ、魔族も人族を見たとすりゃ襲い掛かってくる過激派もいるからなぁ~?」


 トイポが念入りに問う。


 集まっているAランク冒険者の中で魔族領に行ったことがある者は少ない。


 しかし、試験の高い難易度は想像に難くないだろう。それはAランクという凄腕の冒険者達をしても。


 だが、たとえ命を危機に晒そうとも『Sランク』には価値があるものだ。


 それは命を容易く見ている訳じゃない。


 たかが一つの組織のランクだ。だが、そのたかがで今後の人生が大きく変わっていく。引き抜きの話は更に色が付くだろう。


 依頼内容も、依頼者も、報奨金も倍以上に膨れ上がる。


 第一、来年のSランク試験も必ず難易度が上がってくるだろう。


 彼らからしてみれば断る理由がない。


 最後に意志を確認したトイポが頷いて見据える。


「おーけぇー。それじゃあ地図を渡すねぇ。魔族領まで一緒に向かうけどぉ、先に行きたい人は行っていいよぉ~」


 トイポが言うと、まず数名が動いた。


 魔族領の地形を知っており、フォリア平原まで一直線に向かえるメンバーだ。経験豊富なディッジがこの面子に居た。


 そして次にギルド職員から地図を受け取ったメンバーも動き出す。その中にはクエナとシーラ、そしてフィルがいた。


 フィルもフォリア平原まで地図を受け取らずとも向かえる。


 だが、クエナとシーラに謝罪する機会を伺っており、先に走り出せなかったのだ。


 こうして今もクエナとシーラに気づかれないまま、ひっそりと後を追いだした。


 その姿はジードを追うソリアに似ており……ペットは飼い主に似る。というやつだろうか。


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