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なんだかんだで

 もしもフューリーと他の魔族が領地の奪い合いになれば戦争だ。


 そうなれば試験どころではないはず。


「またどうして魔族領を試験の場にしたんだよ?」


 当然、浮かぶべき疑問をぶつける。


 そもそも魔族とは停戦をしている。わざわざ火種を運ぶようなマネをする必要はないはずだ。


「人族や獣人族の領土はAランクともなれば行き慣れておるからじゃ。新鮮味があり、なおかつ危険度が高い場所でなければ本来の力は発揮されぬ」


「それで魔族領ね。エルフの里とかじゃダメだったのか?」


「エルフは縄張り意識と団結力がある。さらに外の勢力には敏感じゃ。もしも冒険者が大群で向かっては変に気を立てさせてしまうじゃろう。それに一番は危険度よ」


「危険度?」


「人族を忌み嫌っている過激派の魔族もおるし、魔族領の魔物は大陸随一の強さを誇っておる。場所によってはAランクの魔物でさえ食物連鎖の最底辺に位置することもあるのじゃ」


 人外魔境の集まりってわけだ。


 まぁ、ギルドなりに考えての事なのだろう。


 種族間情勢を考えても、今や主のいないアドリスタ領は何の問題もないと踏んでいたわけだし。


「……で、どうするよ。試験が終わるまで依頼は待つか?」


「えー! それはムリだよ!」


「どういうことだ?」


「もう既にアドリスタ領を取ろうとしているやつがいるもん! どっちにせよ冒険者とは戦うことになるんじゃないかなー」


「なんじゃと?」


 フューリーの言葉に真っ先に反応したのはリフだった。


「ありえぬ。様々な情報筋からアドリスタ領の奪取は行わないという話を聞いておるのだ。なんらかの動きがない限りは……」


「その動きがあったってことじゃないかな」


「ふむ……。しかし、まだそんな話は聞いておらんが……」


 リフは半信半疑のようだ。


 彼女にも確固たる情報があったのだろう。


「まぁ別にいいんじゃないか。攻められていないのなら放置するし、攻められているのだとしたら依頼をこなすまでだ」


「それもそうじゃの」


 俺の言葉にリフが同意して、卓上に依頼書を出す。


 それをフューリーの前にまで持っていった。


「それで依頼金はいかほどか? ジードほどの男を指名し、さらに魔族領を取れとまで言うのであれば相当な額が必要ぞ」


「お! ようやくかあ」


 フューリーが何らかの魔法を使って金銀財宝を取り出した。


 それはギルドマスター室を埋め尽くしてしまいそうなほどの量だ。


「かなり値打ち物ばかりじゃの」


 鑑定もできるのか、宝の山から指輪やらネックレスを取り出して目を凝らしている。


 それぞれの値段を把握したようで、リフが一度頷く。


 どうやらお眼鏡にかなったようだ。


「なるほどの。額にしてみれば白金貨30枚じゃ」


 白金貨。


 一枚が金貨千枚に値する。書物以外では初めて聞いた。


「おー、よかったー。人族でも通用するか分からなかったから安心したよっ」


「――じゃが。これほどの大金をどこで調達した? それだけじゃないの。どうしてジードのところにまで辿り着いた?」


 質問攻めだ。


 訝し気なリフの表情に反して、フューリーは気の抜けた顔を崩さない。


「えへへ、それって大事なこと?」


「当たり前じゃ。ギルドでも随一の戦力を送り込むのじゃからな。お主の詳細を知りたい。それに動いているというのはどこの勢力じゃ? 魔族領を二つ持っておるクオーツか。それとも――」


 リフの言葉を遮るようにフューリーが言う。


「クオーツだよ!」


「……ふむ。それで、財宝の出自は?」


「たまたま見つけたんだっ」


「……たまたま? ふざけるでない。これは歴代魔王の宝物庫にあるレベルの品物ばかりじゃ。白金貨三十枚は値段を付けられたものだけ。残りは値段のつけようがない美術的、歴史的価値のあるものばかりじゃ」


 おやおや。


 何やらきな臭い話になってきたようだ。


 だが、だからといって俺に見当がつくわけがない。


 リフの真意や考えは読み取れない。


「うーん。でも実際にたまたま見つけたんだよ? 探していたわけじゃないし」


 事実だから何も言えない、とばかりに肩をすくめる。


 これ以上は問い質せないと悟ったリフが目を細めた。


「……ふむ。この依頼はギルドでは引き受けん」


「えー! どうして!?」


「言わんでも分かるじゃろう。怪しすぎるからじゃ」


「怪しいって! ボクが何をするって言うのさ!」


「わからぬ。が、人族の脅威を取り除くため、とかの。ジードは間違いなく人族トップクラスの力を持っておる。敵対しておる種族からしてみれば意地でも取り除きたい戦力じゃろう」


 それがリフの判断のようだ。


 ならば俺も従う他ない。わざわざ受ける理由もないしな。


 そう思っていたが、フューリーは粘り強く言った。


「でもさ。もしもボクが罠にハメようとしているんだったらヤバくない?」


 こてんっと小さな首を傾ける。


 リフも予想していたのか戸惑いはない様に見えた。


「Sランク試験じゃの」


「そうそう! 冒険者ってかなりの猛者の集まりなんだよね? それもAランクとなると上位も上位! そのAランクの頂に近い人達が集まってるんだから、結局ちょっとマズいんじゃないかな?」


「……」


 フューリーの言葉にリフが目を閉じて逡巡している。


 しばらくしてリフが目を開き、依頼書を卓上に出して筆を走らせた。


 そしてフューリーの眼前に依頼書を差し出す。


「わかった、請け負おう。ただしこれらの財宝と同時にギルドの支部を魔族領に建てる許可も貰うが構わぬな?」


「……なるほどね。だから一度断ったんだ?」


 フューリーがニヤリと笑う。


 水面下で腹の探り合いをしているようだ。


 なんとなく空気だけで察せられる。


 だが、フューリーの方は軽く頷いて見せた。


「よーし、いいよ! えーと、名前と諸々か……」


 フューリーもペンを走らせる。


 依頼書の記入を終えるとリフに返した。


 リフが依頼書を見る。


「……やはりか」


「えへへ、何か変なもの書いてたかな?」


「いや。確定ではないが、の。良いじゃろう。では指名依頼を受け付けよう。ジード、後々冒険者カードに依頼が行くようにしておく。――引き受けてくれるかの?」


 この依頼はただの領土の奪い合いじゃない。


 なんらかの不測の事態に備えて、万が一にはAランク冒険者のことも見て欲しいということだろう。


 依頼には書かれないだろうが、そういう意味も含まれている。


「大任だな」


 自分でも分かる。口元が綻んでいる。


 魔族の領土の奪い合い?


 考えずとも分かる。至難なものだ。


 本来なら大人数で構えるものだろう。


 それこそギルドの総出でやるべきだ。


 しかし、それはできない。


 これはあくまでも「依頼」だからだ。


 人族と魔族の戦争ではない。千や万なんかの大人数を用意すれば、それこそ種族単位での戦争に発展しかねない。


 だらかこそ俺個人なのだ。


 その分だけ危険は俺に降りかかる。


 だが、それが依頼であるならば――


「――任せておけ。必ず達成してみせる」


 俺の返答にリフが嬉しそうに微笑む。


「頼んだぞ。信じておる」


「よーし! それじゃあ早速、魔族領に行こー!」


 フューリーが俺の手を掴んでギルドマスター室から走り出る。


 その姿を見たリフが机を叩いて身体を前のめりにして慌てた。


「ま、待て! ジードにはまだなんの説明も――!」


 だが、フューリーの勢いは早い。


 もうすでにギルドマスター室から出てしまう。


 リフが最後に一言だけ付け加えた。


「――ジード、気を付けるのじゃぞっ!」


 それには色々な意味が含まれている気がした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 私事ですし物語構成がぶっ壊れそうですが最後のほうに魔族と人と竜が合体した魔神竜が造られて人類全体との闘いになると面白そうですね!わりと本気です(笑)邪神ぐらい復活しそうですけど!
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