フューリー
どうやら俺のことを知っているようだが、全くもって見覚えがない。
しかし、コイツは俺の事を知っている様子のようだ。
「……魔族?」
あまりにも不自然に人混みに溶け込んでいるので、つい呟くように尋ねた。
すると快活そうなショタは人差し指を立てて見せる。
「さすが。まさか一瞬で看破されるとはお見それしたよ! やはりユセフを討伐しただけのことは――ちょっと待って、ちょっと待って! 魔法陣展開しないでくれよ!」
「……なんだよ? 敵討ちじゃないのか?」
俺の正体を知っていて、わざわざ会いに来る魔族。
すぐに思い浮かぶのはユセフを倒したための復讐だ。
だが、すぐにビビる辺りそうでもないらしい。思い直せば俺の命を狙おうという奴が声を掛けたりはしないか。
「違うんだよ! ジード君に頼みがあって来たんだよ!」
涙目になりながら弁明してきた。
命ばかりは助けて、とばかりに縋りつかれる。
「分かったから泣くなって。なにもしないから」
「わぁいっ。話を聞いてくれるんだね!?」
「ああ、とりあえず聞くだけな」
「えへへー。じゃあポイっと」
ショタは軽々と言いながら、懐からあり得ないほどの金銀財宝を取り出した。
地面から山積みになって様々な価値ある物が置かれる。
これには人通りが盛んで物音や声が血気溢れる王都でも目立つ。
「ばかっ、収めろ。こんなところで取り出す物じゃないだろ」
「んぇー……わかった」
俺に言われるとショタが渋々戻していく。
しかし、未だに人々の視線がこちらに向いている。
仕方ないので場所を移した。
「それで、俺に何を聞いて欲しいんだよ? あんな財宝を取り出すってことは依頼をしたいってことだろ?」
「そうそう! ギルドっていう組織に所属してるんだよね?」
「所属っていうか、雇われているみたいなもんだけどな」
「うーん? まぁ、なんでもいいよ。とにかくお金さえ支払えばなんでもやってくれる! でしょ?」
純真無垢な眼差しでこちらを見てくる。
一見すれば、子供が肩車をせがんでくるような顔だ。
だが、あれだけの宝の山を見せられたら、このショタの容姿も歪んで見える。
「相応の金さえ貰えればある程度のことはやるってだけだ。ギルドにも規則がある」
「ふむふむ」
ショタが顎に手を当てて考え込む。
しばらくして口を開いた。
「じゃあさ――元々ユセフが持っていた領地を一緒に取ることはできる?」
「……侵略戦争か?」
「そうとも捉えられるね。今はフリーだから開拓でもあるけど!」
とんでもないことをさらりと言ってのける。
これが冗談であってくれれば面白くもなるのだが、それはあり得なさそうだ。
戦争。侵略。開拓。
どれもギルド的には問題ない。
「そうか。だが、まずはギルドの受付で依頼を受理してもらわないと始まらないぞ。俺が直接引き受けられる訳じゃないからな」
「むむっ。それは面倒だねぇ……」
「面倒かもしれないが、みんなやってることだ。俺も付いて行こうか?」
「本当かい!? それなら助かるよー!」
俺の腕を掴んでショタが言う。
「そういえば、おまえ名前は?」
未だに名前すら聞いていなかった。
ショタは忘れていた! とばかりにパっと顔に花を咲かせて答える。
「フューリーだよっ」
「そうか」
それから俺はフューリーを連れてギルドに向かう。
出たばかりだからギルドにはすぐに辿り着いた。
「あれ、ジードさん。どうかされましたか?」
エルフの里での依頼書を渡して出て行ったばかりの俺を受付嬢が意外そうに見る。
まぁ、度々来る場所ではないからな。それも仕方がない。
「新しい依頼人を連れてきた。依頼書を用意できるか」
「ああ、ちょうど良かったです。ギルドマスターが帰ってきましたので上へどうぞ」
「ん……そうか」
一瞬だけ考えて素直に頷く。
依頼書は提出してあるから顔を合わせるほどでもない。……だが、このショタは魔族だ。
敵意はないし、停戦中とはいえ、人族とはバチバチに仲が悪い種族になる。
それならリフに直接話を聞いてもらった方が良いだろう。
それから俺とショタはリフのいる上に昇って行った。