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12/269

始まる前の

 冒険者は総勢で百名ほどが集まった。

 俺やクエナを含めた冒険者勢は大量発生した森の北側に配備された。

 もうすぐ作戦が開始される。だというのに、冒険者の顔つきに緊張は少なかった。



「さすがに場慣れしているのか」



 ふと呟く。

 しかし、俺の言葉にクエナが即座に返した。



「それは違うわ。森の北側は魔物があまり出現していないのよ。それに安心しているだけ」

「あまり出現していない? ならなんで俺たちがこっちに来てるんだ」

「数が少ないからよ、冒険者の」

「百人近くいるんだぞ?」

「ええ。けど本当ならもっと集まっていたでしょうね。少なくとも倍以上は」

「まじで? でもどうして……」

「……」



 俺の問いに正確な応えはなく、ただクエナが叱責するかのように無言で目を合わせてきた。

 あっ、と口にする。



「もしかして……俺のせい?」

「そうよ」



 間髪入れず、クエナが答えた。

 王都の依頼を遂行しすぎたせいで冒険者が近辺に少なくなったという話だが、それがここでも影響してきたということか。



「冒険者達があちらこちらの国や、均衡を保っている種族のところに行っちゃったの。だから神聖共和国と、近隣にある王国をかき集めてもこれくらいの戦力にしかならなかった」

「……重々、反省してます」

「いや、あれは私もあなたの力量を知らずに勝負を挑んだから悪いのよ」



 すごい申し訳ないという気持ちが溢れる。クエナもなんらかの罪悪感を覚えているようだった。



「それにあのバカも止めずに面白がっていたし、あなただけの責任じゃないわよ」



 クエナのこめかみに血管が浮かんでいる。

 おそらくリフのことなのだろう。俺も感じてはいたが、ギルドマスターの彼女は随分と享楽的なようだ。

 しかし。

 それでもやってしまったのは俺だ。

 考えなしに行動している、というわけではない。

 だが、それでも知識や見解が足りない面が随分と多いと感じた。閉鎖的な環境に身を置きすぎていたためだろう。



「これからも依頼遂行のために見聞を深めていくよ」

「……あくまでも依頼遂行のためなのね。普通なら自分のために動くものよ。もう呆れを通り越して素直に尊敬するわよ」



 クエナが苦笑いを浮かべた。

 そういえば、と俺はクエナに尋ねた。



「ほかの方面はどうしているんだ? すべて神聖共和国の騎士団が担当しているのか?」

「いいえ、それは違う。聞いた話だと近くに偶然、クゼーラ王国の第三騎士団が滞在していたそうなの」



 クゼーラ王国、騎士団。

 俺が元所属していた組織だ。騎士団は第一から第三まであり、第一は王都近辺を守り、第二は王国の内部を守り、第三は隣接する国境を守る。

 俺はどこの騎士団にも所属していた。というのもなにか任務があれば第一から第三騎士団まで走り回されていたからだ。

 偶然、近隣にいたという第三騎士団も元々所属していた組織になる。それに、かつて神聖共和国の救助に来た時も第三騎士団所属でのことだった。



「そうか。神聖共和国とクゼーラ王国は同盟国だからな。ギルド、王国、共和国の三つの勢力で守る形か」

「ええ。そうなるわね」

「ほー……」



 神聖共和国の兵士が元気な理由の一端を見た気がした。

 王国騎士団だったら冒険者を雇うなんて費用のかかることは絶対にしなかっただろう。同盟国を呼ぶこともなかった。貸しを作りたくないという理由、そして弱みを見せたくないという理由から。



 うーん。

 つくづく王国騎士団がいかにやばいか分かってしまう。



 思い浮かぶのは憔悴しきった同僚たちの顔だ。

 俺がいなくなって相当まずい状況に陥っているのではないか、そう考えてしまう。



 それにシーラだ。第一騎士団の副団長に突然昇格した少女。騎士学校のエリートらしいが、現場にあまり慣れてなく、騎士団の詳しい事情を理解していなさそうだった。しかし、正義感を愚直に持っていた。



 崩れていく現状に焦った騎士団が変な選択をしなければいいが……



「あんた、もしかして王国の騎士団を心配しているんじゃないでしょうね」

「えっ。どうして急に」

「図星って顔ね。……はぁ、あんた変に真面目だから気になるのよ。あのね、騎士団は前の職場でしょ、しっかり割り切りなさい。依頼だってそうでしょ、一度終わればもうそれっきりなの」

「ああ、そうだが……」

「それに今は依頼が始まるところよ。それも緊急のね。ギルドの顔がかかってると言っても過言じゃない。こっちに集中しないとダメでしょ?」

「ああ、安心してくれ。それは分かっているさ」



 まだ魔物の討伐は始まっていない。だが、俺はすでに周辺の魔物の索敵を済ませていた。

 魔力を薄い波のように放出して、呼応する魔力と無機物の違いを感じ取る。それを常時行うことで魔物の質と数と位置が地図を見ているかのように分かる。



「……そうだったわね。依頼に関しては私が口を出したところでって感じか」



 クエナが参ったと言った風に手を頭くらいにあげて首を左右に振った。



 いや、と俺は口にする。



「助かるよ。助かってるよ」

「――っ! だからそういうことは口にしないでいいのっ!」



 またクエナが顔を真っ赤にした。

 鋭く俺の二の腕付近を突く。



 そんなこんなの雑談をしていると、ついに笛の音が森全体に響き渡り、魔物の討伐が始まった。

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