受付
神聖共和国の主要都市についた。
ここが中枢都市というわけではないらしいが、スケールは小さくなく王都と十分に比べられるほどの大きさと外観がある。
中央付近の広場に大きな女神の銅像が建てられていた。
銅像は杖を持っている美女といった感じか。大きいのに威圧感はなく、すべてを受け入れる包容力を持っていた。
『ギルドの依頼を受けていただいた冒険者の皆様はこちらにお集まりくださいー!』
神聖共和国の騎士団が銅像近くに集まっていた。
そう、ここの銅像こそが冒険者たちの集合場所。俺の隣にはクエナもいた。
「……あんた、まだ食べてるの」
「んむ。王都の串肉と同じくらい美味いぞ」
クエナが叱るような眼差しでこちらを見る。
まだ集合時間には早かったから、露店で売られている串肉を買ったのだ。王都と違うのは味付けか。こっちは肉なのに飲み込みやすい。さっぱりしている味付けだ。だからこそ余計に進んでしまう……。
「あ、食べる?」
「いやいいわよ。そんな『分けたくない……』みたいな顔しないでよ。それよりも受付が始まったみたいだし向かうわよ」
「え、でもまだ時間じゃないよな?」
「時間じゃなくとも行くの。ほら、見て」
クエナが周囲に目を配る。言われたとおりにクエナが遣った視線を俺も追った。目についたのはこちらを見ている俺たちと同じ冒険者たちだった。
誰もが受付に向かわずこちらを見ている。
「彼らは?」
「私たちが先に行くのを待ってるのよ」
「どうして?」
「簡単よ、この中で上位のランクにいるのが私達だからよ」
「あぁ」
なんとなく理解した。
冒険者は依頼を受諾する自由がある。今回入った緊急依頼をまだ受諾していない冒険者もいるのだろう。
それが俺やクエナを見ている冒険者たちだ。
「上のランクにいる人達が受けると達成率と最低限の安全が確保できるって考えてるんでしょうね。だから私達が受けるのを待っている」
「賢いな」
素直にそう思った。
もしも彼らの立場で、俺もそんな考えがあったら実践していただろう。
するとクエナがすこし目を見開いて言った。
「怒ったりしないの?」
「いやいや、それこそどうして?」
「だって金魚の糞みたいなものよ? 普通は苛立つのが普通だと思うけど」
「うーん、そうなのか? ギルド側で調整が入っているんじゃないのか? 依頼達成金はランクが高くなれば高くなるほど多くなるって」
「ええ、まぁその通りよ」
串肉を食べ終え、広場に設置されているゴミ箱に一寸違うことなく投げ入れる。
そして受付のほうへ向かった。
「ならいいじゃんか。だれだって死にたくはないだろ」
騎士団の時だってそうだった。
俺が常に先に行く。
そうやって危険な任務も共に過ごしていた。それでも彼らは過酷な日々に脱走したり、あるいは死を迎えたり、散々な日々を暮らしていたのだ。
今だって危険であることに変わりはない。
ならちょっとでも死や怪我の可能性を減らしたいのは当たり前だ。
それに、目くじらを立てて依頼を受けない方がバカらしい。
なによりもギルド側で調整してくれているのなら、なおさらだ。
「ほんと、変わってるわね」
クエナもそう言いながら俺に付いてきてくれた。
そして、俺たちのことを見ていた冒険者達も、ほっと胸をなでおろしながら後に続いた。
受付の道中、ふと気になったことをクエナに聞いた。
「そういえばクエナはともかくなんで俺のことまで知ってたんだ?」
「え? あんた結構有名よ? 飛び入りでSランクになって、たった三日間で王都近辺の依頼をほとんど喰い尽くした人外だって。顔もマジックアイテムを通して、かなり知られているんじゃないかしら」
「えっ、そうなのか……」
初めて知った事実にすこし寒気がする。
そうか。そういえば、たまに冒険者と出会うと避けられていたな。あれは俺の顔が知られていたからなのか。
依頼を枯らした男とは絡みたくないよな……。
なんて思いながら受付をする。受付は爽やかな青年だ。騎士団に入りたてなのだろう。
王国ではこれくらいの青年は全員が死にかけの顔をしているが、この国は全然元気そうだ。
「受付いたします。カードをお借りしてもよろしいですか」
「はい、どうぞ」
「たしかに確認しま……え。Sランクですね……? パーティー名は……こ、個人ですか?」
「ん? 個人? パーティー?」
わからない単語が出てきたぞ。
俺は個人になるのか? でもクエナも一緒だからパーティーなのか?
なんて思っていると後ろで待機してくれていたクエナが、ひょっこりと顔を出して補足してくれた。
「個人で受けられるランクと数人集まったパーティーで受けられるランクがあるのよ。あんたは個人になるけどSランクだからどの依頼でも受けられる。この依頼も個人にあてられたものだから、個人になるわね」
「そうなのか。じゃあ個人ですね」
「は、はい。承知しました。これで手続きが完了しましたので、なにとぞよろしくお願い申し上げます……!」
「あ、ああ。よろしくお願いします」
握手を求められた。握り返すと、両手で握られ深々と頭を下げられる。
Sランクというのはこれほどの効力のようなものがあるのか。それだけに責任が肩に乗っかっている気がする。
まぁ緊張や重責で潰れるなんてことはないが。
それから、ほとんどの冒険者が受付を完了した。そして今回の任務……――じゃなくて依頼の話が始まった。